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ざあざあと五月蝿く鳴る雨の音。学園から少し離れた場所に、1つの箱が置かれていた。箱の中からは、にゃあと掠れた弱い声が聞こえてくる。その痛ましい声は、雨の音にかき消されていく。
その箱に、傘を差し出す1人の少女がいた。
(完璧な作戦ですわ…!これで人が来るのを待てば…!)
そう、シルビア・バーレンスである。艶やかな金髪…は雨により濡れており、シルビアの服にべったりと張り付いている。
(…て、なんか雨強すぎじゃありませんの!?)
強く当たるように吹く風。雨水も相まって、余計に濡れていく。
しかも、中々人が通ってくれない。
いや、正確には通ろうとした学園の生徒がシルビアの姿を見て、引き返しただけなのだが…そんなことシルビアには知るよしもないのだ。
「…なぜ。なぜですの…」
パキパキと思い描いた、完璧な作戦が音を立てて壊れていくような感覚がした。
にゃあ、と箱の中から声がする。子猫がシルビアの顔をじっと見詰めていた。
「…!も、もしかして慰めてくれるんですの…!?」
何と言うことなのだろう。今までことごとく威嚇や引っ掻かれたシルビア。ついに子猫と分かり合える日がやってきたのだ。
嬉々とした様子でシルビアは子猫に向かって手を伸ばし…。
「にゃあー!」
そして思いっきり引っ掻かれた。
「何でですのー!?」
がっくりと項垂れるシルビア。水分をもった前髪がシルビアの白い肌に張り付く。
「…諦めるしかありませんですわ…」
はあ、と1つ溜め息を付き、シルビアは箱を持ち上げた。幸いにも、雨は少しずつ弱まってきている。傘を箱に差し、子猫が濡れないようにする。
とぼとぼと悲壮感を出しながら歩くシルビア。
「はあ……」
と、その時。影がシルビアにかかった。
「…お嬢様。ここに居たのですか」
ハッと背後を振り向くと、そこには呆れたような顔をし傘を差し出す、キュリナがいた。
「ほら、やっぱり失敗したじゃないですか」
そう言われ、シルビアは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「…いいのよ、これで。大事なのはここからどう生かすかですわ」
「どうって…何を生かせと?というか、こんな土砂降りの中で何をやっていたんです?」
「う、五月蝿いですわね。急に強くなったんですもの、仕方ないことですわ」
「……」
「な、何ですのその目は」
完全に馬鹿にしたような目である。
「…馬車はもう用意してあります。早く帰って、お風呂に入ってください。もう…風邪を引いたらどうするんですか…って書いているんです?」
中々返事をしないシルビアを見かねて,キュリナがそう言った。
シルビアの目線の先には、黒髪の少年がいた。同じ学園の生徒である。
「…あの方…知り合いなんですか?」
「あの方…私を先程、見ていたような気がするんですの」
「え、もしかして強い風と雨の中、誰も見るはずもないのにただただ1人虚しく傘を箱に向かって差し出していたお嬢様のことをですか!?」
「解雇しますわよ」
黒髪の少年、何処かで見たこと聞いたことがあるような気がする。が、しかし中々思い出せない。
(気のせい…?)
ただの気のせいだと、そう思いシルビアはキュリナに話しかけようとした。
「……!」
黒髪の少年と、一瞬視線が合う。だが、それはすぐに逸らされた。
(…うう…やはりこの見た目ですわ…)
少しだけショックを受けるシルビア。まあ、今に始まった事ではない。
(ま、次こそは成功してみせますわ!)
果たしてその成功がいつになるのか…シルビアの未来のお友達様はどうやら、まだまだ先のようである。
♦︎♦︎♦︎
シルビア・バーレンスがいた。
しかも、何かが入っているであろう謎の箱に向かって、傘を差し出しながら。
もう一回言う。なんかシルビア・バーレンスがいた。
……いや意味が分からないな。
これは何だ?幻覚か?いやいや…だってあの名家のお嬢様がこんなこと…。一応、念の為目を擦って、よく見てみる。
が、結果は変わらず。
というか嘘だろ?お嬢様が何をやっているんだ…?こんな強い雨、風のなかそれをやるなんて、かなり危ないぞ…。
しかも、あれだと服まで濡れているんじゃあ…。
声を掛けるか…?
あ。立ち上がった。…1回離れよう。
後ろから人影が見えるな…ああ、なんだ、従者の人か。ならば、もう離れても大丈夫か。
にしても、あの人は一体何をやって…。
と思っていたら、自然と視線がシルビア嬢の方へ向かっていたらしい。シルビア嬢と視線がかち合う。
「……」
いや…気まずい。しまった、自分から視線を逸らしてしまった。まあ…大丈夫だよな?
首ちょんぱとか…ないか。
…本当にあの人、何をやっていたんだ?