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異界で一狩りを終え、協会で換金した後、俺は珍しく普通に歩いて帰っていた。
「偶には歩くのも悪くないな」
今日はそこそこ稼げた。後は帰るだけってところだが、態々姿を見せて歩いているのにも理由がある。
「……来たか」
前方で明らかに待ち伏せをしている奴らが居る。隠れてはいるが、バレバレだ。それに、一応は街中である筈が不自然に一般人が居ない。人払いは済ませてあるってところか。
「アンタらが例の奴らか。話には聞いてる」
俺が呼び掛けると、少し先で待ち伏せていた男たちは姿を現し始めた。同時に、ステラに報告を入れておく。
「話には聞いてる、だと?」
「聞き捨てならねぇこと言うなァ、テメェ」
数は……十三。それに加えて、まだ隠れているのが五人。そんなもんか。どいつもこいつも顔に傷がある強面だ。流石はヤの付く職業と言ったところだろう。
「テメェよォ、余裕そうな面してんじゃねえよ」
「数の差も分かんねぇか?」
苛ついた様子で睨みつけてくる強面達。昔なら、怖いと思えたのかも知れない。
「最近はウチらも舐められてるからな……ハンターがどうだ、魔術士がどうだってよ」
「人はよ、チャカで撃ちゃぁ死ぬ。ドスで刺しても死ぬ。実際、俺らは二級のハンターだって殺してんだ。どうだ? やっと分かって来たかよ。テメェの状況がよぉ」
やたら喋るな。だが、この怒りの感情は本物に見える。時間稼ぎの類いでは無いだろう。
「おい、無駄話は止めだ。聞きてぇことはシメてから聞きゃぁ良い」
十三人の中でも最も体格の良い男がゆっくりと前に出る。
「アニキ、もう始めるんすか?」
「人払いは済ませてあるらしいからな。何でも、今回の案件は特別らしくてな……万に一つも失敗できねぇ」
それぞれが武器を構え、俺を睨みつける。
「やるぞ」
一斉に向かってくる男達。振り下ろされる刃や拳、その全てを捉え、間を搔い潜って男たちの懐に迫る。
「悪いが……」
剣を虚空から引き抜き、最も近い五人の首を同時に斬り落とした。
「手を出された以上、全員生きては帰さない」
残りの八人は流石に動揺した様子で、硬直している。
「あ、アニキまで一瞬で……」
「嘘だろッ!? 俺らは二級だって殺してんだぞ……それが、こんな簡単に……」
何だ、来ないのか?
「じゃあ、こっちから行くか」
斬撃。近くに居た二人が死んだ。
「ッ、やめろッ!」
「駄目だ」
また二人。首が飛んで死んだ。
「た、助けてくれッ! 何でも話すッ!」
「悪いが、その役は残してある」
残り、二人。
「頼むッ、俺だけでも許してくれッ! これでも子供が居るんだッ!」
「今更許したら先に殺した奴らが可哀想だろ」
ラストだ。
「俺は金を持ってる。だから、助け――――」
「どうでも良いな」
これで、十三人は全員終わりだな。つまり、次だ。
「残り五人、次はアンタらだな」
そう言って、俺は残りの隠れている五人に意識を向けた。
「ッ」
動揺の感情。しかし、迷いなく俺に向けて五つの弾丸が放たれた。拳銃の弾ではなく、ライフルの弾丸だ。威力は高く、弾速は速い。
「終わりか?」
だが、問題ない。全ての弾丸を回避し、俺は五人全員を正確に捉えて目を閉じた。
「――――落ちろ」
目を開くと同時に、それぞれ別の場所に隠れ潜んでいた五人の意識が消失し、その場に崩れ落ちた。
『十八人全員処理した。一応、五人はこっちで捕まえたがそっちはどうだ?』
『作戦は問題なく進行しています、マスター』
メイアとカラスの代わりに答えたのはステラだ。
『念の為、記憶を確認した後に殺すがそれで良いな?』
『問題無いかと』
俺は頷き、散らばっている五人の体を一か所に集めた。
「さて、先ずはアンタから見せてもらうか」
気絶している五人の男。その一人の頭に手を当てた瞬間……
「ッ!」
その体が熱を持ち、光り、膨張した。
「危ないな」
だが、それが爆発するよりも早く魔力を散らし、術式を無力化することに成功した。起爆していれば、ここら一帯は吹き飛んでいただろう。
「既に切られているか。だが……」
これを仕込んだ奴との繋がりは既に切られているようだが、爆発は成功しなかったからな。魔力の残滓までは消せていない。
「――――アンタが、ソロモンか」
知覚することすら難しい残された僅かな魔力。その持ち主がソロモンであると、俺の|勘《・》が告げていた。
「どうやら、本当に世界の危機らしいな」
俺の勘が働くってことは、そういうことだ。俺が相手しようとしている奴は、文字通り世界の敵なんだろう。
「……聖剣を抜くことになるかも知れないな」
もう、その機会は無いと思っていたんだが。
♦
夜の街を歩くのは一人の少女。美しい黄金色の髪と真紅の瞳。本来なら道行く人の目を引く筈のその容姿だが、彼女に視線を向ける者すら居ない。
「ふふ……」
この奇妙な現状を思い返して、少女は笑った。本来なら泥水を啜り、獣の血を吸って生きていた筈だ。そこから救い出してくれた男には感謝が尽きない。例え、目的があってのことだったとしてもだ。
「カァ、認識の阻害は上手く働いてるみたいだな」
「そうね」
目的地だ。カラスと少女は足を止め、その事務所を見上げた。
『マスターの方で戦闘が始まりました。そちらも始めて下さい』
『分かったわ』
『おう』
カラスと少女は顔を見合わせた。
「丁度ね」
「あぁ、ナイスタイミングだな」
そして、少女は優雅に事務所の中へと歩き始めた。
「戸締りは任せたわ」
「あぁ。お前なら万に一つも無いだろうが、死ぬなよ?」
少女が扉を開き、中に入り込んだ瞬間。カラスから魔力が広がり、その事務所全体を覆った。