テラーノベル
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ガラスのグラスにお茶を注ぐ間にも、しゅんからの視線が突き刺さる。
変な緊張と得体の知れない恐怖でガタガタと震える手。
僕は沈黙に耐えかねて、なにか楽しい話題を、と話始める。
「えっとね、今日はやちゃん、ここに泊まっていくの…。前から約束しててね、あ、あの、普段からよく泊まりに来るんだけど、じゃなくて、あの、その、……っ」
違う。
そうじゃない。
何を焦ってこの最悪な状況をさらに悪化させるような燃料を投下しているんだ。
要らぬことまでペラペラと話し出してまった僕は、すぐに血の気が引くほどの後悔に襲われた。
「……、は?」
キッチンの狭い空間に、地を這うような、今まで聞いたこともないしゅんの冷たい声が響いた。
その凍りつくような視線に、僕はごくりと唾を飲み込む。
しゅんが、ソファーから立ち上がり、じりじりと距離を詰めるようにこちらへ歩いてくる。
持っていたグラスの冷たい水面が、僕の指先の震えと連動するように、小刻みに細かく揺れていた。
「ね、ねぇ……しゅん、どうしたの? なんか……こわいよ」
「……こわい? 俺が?」
有無を言わせない彼の絶対的な威圧感に、全身が金縛りに遭ったように圧倒されて、次の言葉が出てこない。
こんなしゅん、僕は知らない。
いつも優しくて、太陽みたいな笑顔が良く似合っていて、犬みたいにかわいい舜太。
この人は…、本当に僕の大好きな舜太なのだろうか……。
「まぁええんやで? ……じゅうが、自分で”俺のモノ”だって自覚があるんなら、なぁ?」
しゅんは僕のすぐ目の前まで来ると、人差し指で僕のフェイスラインをゆっくりとなぞるように滑らせた。
そのまま顎をくいっと持ち上げられ、彼は見下すように冷たく僕の瞳を見つめる。
口元は綺麗に弧を描いて笑っているのに、目だけは全く、これっぽっちも笑っていない。
少しずつ僕の顔へと近づいてくる彼のその目は、光を一切反射しない、底なしの真っ黒な瞳に変貌していた。
この人は、誰なのだろう。
どうしようもない不気味な不安に、心臓が押しつぶされそうになる。
「なぁ……? じゅうは俺のモノやろ?」
僕は、一体なんて言えばいい?
もちろん旅行でのしゅんに対する発言に嘘はない。
だけど……今の彼の瞳から放たれる、この得体の知れない恐怖と強烈な違和感に、防衛本能が警鐘を鳴らす。
僕は彼から少しでも距離をとるように、キッチン台に沿って一歩、また一歩と後ろへと後退った。
「どうしたん? ……そんな顔して?」
僕は今、一体どんな顔をしているのだろう。
少なくとも楽しい顔、幸せな顔でないことだけは確かだ。
キッチン台に置き損ねて持ちっぱなしになっていたグラスを両手で強く持ち直し、指先の震えを必死に抑える。
そうすることで、なんとか壊れそうな心を落ち着かせようと足掻いた。
「なぁ……? なんでそんなに怖がるん?」
しゅんの声のトーンが、わずかに低く沈む。
「……俺が、悪いん?……、なぁ? 返事、してくれへん? 目の前にいるのに無視されたら……俺、寂しいやろ」
彼の声がいつものような甘い声に少しだけ変わった気がして、僕はすがるような思いで顔を上げて彼を見た。
けれど、目が合った瞬間に、含み笑いを浮かべて僕を見下ろす彼の表情の中には、何の光も見えなかった。
彼が今、頭の中で何を考えているのか、僕には一ミリも理解ができなかった。
なんとか後退って離れたはずの僅かな距離も、気付けばあっという間に詰められ、背中に冷たい壁の感触が当たった。
完全に壁際まで追い詰められてしまった。
切羽詰まった僕は、もう自分の力ではこの手を引き剥がせないと悟り、助けを求めるように、しゅんの背後にある寝室のドアへと必死に視線を向けた。
あのドアの向こうには、はやちゃんがいる。
彼が気づいて、ここに来てくれれば。
だが僕のその微かな視線の動きをしゅんが見逃すはずがなかった。
僕の視線に気づいた彼は、ゆっくりと視線を後ろのドアへと向た。
そして、獲物を逃がさない猛獣のような目で再び僕へと視線を戻した。
「……なぁ。どこ見てるん?」
彼の地を這うような低い声と、すべてを刺し殺すような鋭い目つきに、僕はヒッと喉を鳴らして、完全に息をのんだ。
to be continued…
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コメント
3件
舜太!?!?!?