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皆さんごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。うん、呑気に挨拶をしている余裕はありませんね。今現在私は脚を撃たれてルイに抱えられ夜のシェルドハーフェンを疾走しています。ルイ、体力あるなぁ。
揺れる度に痛みが走りますがそこは我慢しつつ、何とか教会へと辿り着きましたが、それから大騒ぎになりました。
「シャーリィが撃たれた!?何処の誰だ糞やろうが!死体すら残さねぇぞ!」
先ずシスターが激昂、口調が乱暴になりました。うん、何だかんだで愛されてますねぇ。嬉しい。
「シスター!それより先に手当てを頼むよ!」
ルイがシスターを落ち着かせます。
「そうでした。医薬品を山ほど持ってきなさい。シャーリィを医務室へ」
我が『暁』の医療体制はまだ万全とは言えません。医師を雇う必要がありますね。では普段誰が従事しているのかと言えば。
「お嬢様、何と痛々しいお姿に。爺めが直ぐに痛みを和らげてさしあげましょう」
我が執事セレスティンは医学にも心得があり、医療を担当しています。うちの執事は本当に万能でビックリしますね。出来ないことを探す方が難しいかもしれません。
「マクベス、厳戒態勢を敷いてください。下手人がまた現れないとも限りませんから」
「承知した、シスター」
シスターがマクベスさんに指示を出して厳戒態勢が敷かれます。ううむ、大事になりました。
「お嬢様、少しばかり痛みますぞ。どうか辛抱なされませ」
「構いません、セレスティン。一思いにやってください」
セレスティンは手慣れた様子で患部を洗い消毒をして止血しつつ包帯を巻いてくれました。途中でロウが持ってきた薬草を煎じた塗り薬を塗って貰うと痛みが和らいだような気がします。
「なあ、セレスティンの旦那。シャーリィは大丈夫だよな?」
ルイが心配そうに聞いてきます。
「幸い小口径の銃弾のようで、血管も逸れている。しばらく安静にすれば完治するでしょう」
戦場医療に精通しているだけあって、手当ても的確ですね。それに、薬草が役立つことも判明しました。後でロウと話さないと。
「ありがとう、セレスティン。ルイも、助かりました」
「俺のほうこそ、護れなくてごめん」
ルイが頭を下げます。真面目なんだから。
「暗闇から狙撃されたら仕方無いです。それに、ルイが直ぐに運んでくれたから私は助かりました。それで良いです」
ルイには感謝ですね。
「お嬢様、申し訳ございません。此度の一件は爺めの不徳ゆえでございます」
セレスティンが頭を下げます。はて?
「爺めが抜かりました。やはり他者に任せるのではなく爺めが護衛を務めるべきでございました。不覚でございます」
「確かにセレスティンの旦那に比べたら俺は頼りないかも知れねぇけどよ…」
ルイが不満そうです。うん、悪い流れだ。
「セレスティン、私は貴方を信頼しています。だからたくさんの仕事を任せてしまっています。その上私の護衛まで務めさせたら貴方が倒れてしまう」
「しかし、お嬢様の御身に万が一のことがあれば、爺めは旦那様や奥様に顔向け出来ませぬ」
「心配してくれてありがとう、セレスティン。でも、護衛は引き続きベルとルイに任せるつもりです。それは私の我が儘です。どうか、聞いてください」
私の護衛はちゃんと居ます。セレスティンには任せたい仕事がたくさんあるんですから、護衛からは外したい。これは私の我が儘だ。結果がこの怪我ですからね。
でも、誰も責めるつもりはありません。いつかはこうなると予想していましたから。
「お嬢様……御意のままに」
うん、納得は難しいかな。時間を掛けてゆっくりと説得しましょう。
はて、表が騒がしい。
「ん、ベルさんが戻ったみたいだな」
ベルが?責任を感じるかもしれませんね。
「セレスティン、歩けないので車椅子を用意してください。ベルに会います」
「じっとしてなくて良いのかよ?」
「今は混乱の終息を優先します。元気な姿を見せれば皆が安心できるでしょう」
「良いお心がけです」
セレスティンが用意してくれた車椅子に座り、ルイが押してくれます。うん、脚が痛いなぁ。和らいだとは言え疼きます。撃たれたときの気持ちが分かるのは収穫でしょうか。
「悪い、シャーリィ。俺…」
「それ以上は言わないでください、ルイ。選んだのは私です。それに、落とし前はちゃんとルイが着けてくれるでしょう?」
「ああ!もちろんだ!」
「それなら、落ち込まないでください。しばらく歩けそうにありませんが、私は生きていますからね」
わざと脚を狙ったのかもしれません。これは、警告の意味があるのでしょうか。相手が分からないのは不気味です。恨みを買うような真似はしていない…『蒼き怪鳥』の残党かな?
そう考えながら礼拝堂に着くと、シスターとベルが居ました。うん?ベルの後ろには頭に犬みたいな耳を付けた女の子が…って!シスターがベルにリボルバーを向けてる!?
「待ってください」
私の声が静かな礼拝堂に響きます。間に合って良かった。
「お嬢…」
ベルが私の脚を見て表情を歪めます。今はそれよりも。
「シスター、銃を降ろしてください」
「シャーリィ、こいつは貴女の護衛の役目を果たせていませんでした。落とし前を着けねば」
「繰り返します、銃を降ろしてください。ベルは私の大切なものです。大恩あるシスターと言えど、私の大切なものを奪うことは容認しません」
キッパリと言うと、シスターは銃を降ろしてくれました。良かった、聞いてくれた。
「ベル、お帰りなさい」
「…ああ」
「用事は済みましたか?何事もなければ良いのですが」
「用事は失敗した。いや、最悪の結果だ。なにより、お嬢を怪我させた原因を俺が作っちまった」
「はて、話が見えませんね。詳細を」
私はベルの口から事の発端を聞きました。なるほど。
「済まねぇ、俺が馬鹿だった。こんな結果になっちまうなんて!」
拳を強く握り締めています。うーん。
「ベル、そちらの娘を紹介してください」
「あ?ああ、アスカって名前だ。今言った取引で扱われてた獣人だな」
「ほほう。ごきげんよう、アスカさん。シャーリィと申します」
挨拶は大切です。
「……アスカ」
うん、可愛らしい声です。
「はい、私はシャーリィと呼んでくださいな。聞けば行く宛がないのだとか?うちに来ますか?歓迎しますよ」
「良いのか?お嬢」
「ベルが助けたらもう身内も当然じゃないですか」
「だが、俺が余計なことをしたから!」
「むしろ見捨てていたら私はベルを軽蔑していましたよ」
「お嬢…?」
「裏社会のルールからすれば間違っていても、正しい行いであることに間違いはありません。それに、相手はこうなると予測していたのでは?」
「それは…有り得るが」
「それに、貴方が取引を滅茶苦茶にしたあと直ぐに私は撃たれました。最初から狙われていたのです。遅かれ早かれですよ」
そう、話を聞く限り相手はベルを利用して『暁』にちょっかいを掛けてきました。今回の件がなくても何れは事が起きていたはず。
「良いのか?お嬢。俺が原因でエルダス・ファミリーを敵に回すんだぞ」
「貴方に手を出して、私を撃った。その時点でエルダス・ファミリーは敵です。ならば、後は叩き潰すのみです」
そう、それは変わらない。敵対するなら潰すまで。相手が大きな勢力だろうと、敵ならばやることは変わりません。それに、『暁』の飛躍の時なのかもしれませんね。
私は新たなる敵の出現に笑みを浮かべるのでした。