新たにグループに合流した3人の若者のうち、阿部にとって一番優しくて、一番落ち着いていて、一番心配だったのが目黒だった。阿部は目黒に自分に似た何かを感じていて、どうしても彼から目を離せないでいる。
💚「めめ、大丈夫?」
🖤「大丈夫です、こんなの。すぐ治りますよ」
舞台に向けて稽古が本格化していく中、目黒が転んで膝をひどく擦りむいた。もう少しで皮膚の組織が見えそうな深い傷。
💚「だめ。ちゃんと見せて」
阿部は目黒を椅子に座らせて丁寧に処置を施す。
💚「こういうの放っておくと、あとあと化膿したり、傷が残っちゃうから…」
阿部は真剣だ。それでも目黒の気まずそうな顔を見てフォローも忘れない。
💚「まあ、でも若いからきっと傷の治りは早いよ」
阿部の白い歯が光る。目黒は阿部の何気ない優しさと気遣いに感謝するとともに、その人柄にほんのりとした温かみを感じていた。
目黒の中で、その時灯った想いは日を追うごとにちろちろと目黒の中で揺らめき、次第に大きく育っていく。
初日を間近に控えた、とある雨の日。
劇場からの帰り道。傘を忘れた阿部に目黒が近づいていく。出入り口では、冷たい風がすぐそばの柳の葉を揺らしていた。
🖤「阿部くん、良かったら入りません?」
💚「ありがとう。いいの?」
目黒は自分の肩が濡れるのも厭わず、阿部と歩き出す。
💚「ちょっと冷えるね」
🖤「そうですね」
雨の音がさまざまな物音を掻き消していく。家族から離れた慣れない街での滞在。帰宅時間はいつも深夜に及ぶ厳しい稽古の日々。
目黒は、そのままホテルに帰るのが惜しくて、阿部に声を掛けた。
🖤「腹減りません?」
💚「え?」
🖤「俺、この間、遅くまでやってるうどん屋見つけたんです。良かったらこれから」
💚「行きたい」
無邪気に被せてくる阿部の言葉に、目黒は嬉しさを隠しきれないでいる。
少し延びた2人の時間。
歩きながら、目黒は環境がどんどん変わっていくことへの不安を珍しく口にした。阿部はそれを聞いて、俺もだよ、と笑う。
温かい時間が流れている。
🖤「阿部くん、優しいですね」
💚「そんな…。めめには負けるよ。いつも他の2人のケアをありがとう」
🖤「いえいえ、そんな」
2人で謙遜し合いながら歩いていたら、うどん屋に着いた。
熱々のうどんを、ふうふう冷まそうとする阿部が可愛い。
阿部は自分より大人の男の人なのに、仕草がいちいち柔らかくて、丁寧で、物腰も見ていて心地いい。
その時ふと。
目黒は自分が阿部に対して抱いていた感情の名前に気がついた。
その日は何事もなく、ホテルの部屋の前でおやすみ、と言い合って別れた2人。
目黒は名残惜しい気持ちを胸に秘めたままでいた。
デビューを果たして、グループが軌道に乗り出した頃。目黒はオフの日に阿部を初めて外に連れ出した。
目黒お気に入りのカフェのテラス席で。
🖤「ずっと好きでした、俺と付き合ってくれませんか?」
💚「………俺でよければ」
阿部の目に光る熱いものを見て、目黒もつられそうになる。滅多に感情的にならない阿部が、目黒の想いを受け入れたこの日。2人の世界はより彩りを増した。
時折喧嘩もするし、うまくいかない時もあるけれど、2人は順調に交際を重ね、今年で5年目を迎えた。
今日この日も、穏やかな2人らしく、優しい時間が流れて行く。
🖤「阿部ちゃん、愛してる」
💚「うん、俺もめめを愛してる」
2人は優しく唇を重ねた。
おわり。
コメント
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なんだかこころが温かくなりました ありがとうございます💚🖤
まきぴよさん(*^^*)遅ればせながら作品を上げました😊BL内容じゃないのですが1度読んでいただけると嬉しいです(*^^*)初になるので読みにくい所もあるとおもいますが💦アドバイス出来ればお願いしますm(_ _)m