ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。アスカを落ち着かせている間に戦いは終わりました。予想通り一方的なものでしたが、首謀者と複数人を取り逃がしてしまったのだとか。
「お嬢様、逃れた者達は偵察部隊が追跡しております。如何なさいますか?」
セレスティンの報告を受けた私の答えなど決まっています。
「セレスティン、生存者は必要ありません。必ず殲滅するように。ただし、首謀者だけは生かして捕えるように。バルモスでしたか、アスカの一族の敵です」
あれから落ち着いたアスカは辿々しくバルモスによって集落を襲われ、自分以外は皆殺しにされたと教えてくれました。
つまり、アスカには復讐する権利があります。なにより、同じような境遇で親近感が湧きましたね。復讐を遂げさせてあげないと。
「御意のままに。あの獣人の娘のためですな?」
「その通りです」
「仰せのままに。しかしながら、獣人とは。良い拾い物をされましたな、お嬢様」
「良い拾い物?」
私は首を傾げます。
「獣人は種族として高い身体能力を持ち、戦士として大成するものが多い。あの娘を上手く育て手懐ければ、お嬢様の良い配下となりましょう」
「手懐けるつもりはありませんよ、アスカの意思を尊重します」
「これは、爺めが出過ぎたことを申し上げましたな」
「いえ、良い情報でした。アスカは何の獣人と見ますか?」
「おそらく人狼の一種かと。耳はありますが尻尾がなく鋭い爪もないため些か不可思議ではございますが」
「普通の人狼とは違う?」
確かにアスカは頭の耳以外は普通の少女です。頭を隠せば人間と見分けがつきませんが。
「左様、少しばかり調べるべきかと」
「分かりました、この件が片付いたなら考えます。セレスティン、お願いしますよ」
「しばしお待ちを、朗報を持って参ります」
「俺も行くぜ」
「ルイ?」
今まで黙っていたルイが一歩踏み出しながら出撃を宣言しました。
「大丈夫、セレスティンの旦那の邪魔はしねぇさ。けど、シャーリィを狙撃した奴はこの手で殺さないと気が済まないんだ」
「お嬢様のために成すと言われるか」
「ああ」
「心意気や良し、必ずや本懐を遂げさせてご覧にいれよう」
「おう、旦那の邪魔はしないように気を付ける。シャーリィ、ちょっと出てくるわ」
「夕飯までには帰ってきてくださいね。今夜は祝勝会です」
「おう、しっかりケジメつけてくる。死体は居るか?」
「猟奇的な問いをしないでください。要りませんよ、そんなもの」
「そうか、死体の上で笑わないのか」
「何ですか、その極悪人は」
失礼な、そこまで下衆になるつもりは今のところありませんっ!
納得しがたいものを感じながらも、私は二人を送り出して祝勝会の準備を命じるのでした。
皆様ご機嫌麗しく、アーキハクト伯爵家執事セレスティンでございます。此度お嬢様を狙撃してお怪我を負わせ、あまつさえ神聖なる寝所を犯さんとした不届き者共の征伐任務を賜りました。
お嬢様は首謀者以外の生存を望まれておられません。そのご命令は忠実に実行せねばなりませぬ。既に偵察部隊が残党を追跡、その情報は出来る限り迅速に襲撃部隊へと通達されていました。
伝書鳩、狼煙、松明を用いた合図など情報伝達速度に重きを置いておりますが、お嬢様はまだまだ納得されていない様子。再びそのご慧眼により新しい物を取り入れる事でしょう。新しいことを学び取り込むことに躊躇がない。旦那様よりも奥様に似ていらっしゃる。
さて、偵察部隊の情報を得つつ襲撃部隊をいくつかのグループに分けるよう指示を出し、同時攻撃を成さねば。
「旦那、バルモスの奴はいくつも隠れ家を用意してる。中に居るのは、エルダス・ファミリー関係者だけだ。遠慮は要らねぇ」
同行しているベルモンド殿より情報を得て遠慮は無用と判断できました。
「それは重畳、皆の者、容赦は要らぬ」
万が一無関係な者が居たとしても……運が悪かったと諦めていただきましょう。ここは帝国の暗黒街、覚悟はあろう。
さて、懸案は首謀者の捕縛。それ以外に必ずや成さねばならぬのは、お嬢様を狙撃した痴れ者を探し出すこと。こやつめは、我が手で葬り去りたいところではございますが、ルイス殿が立候補されお嬢様が承認されたので譲ることに致します。
ルイス殿は若輩で身分も決して宜しくは無くお嬢様に相応しいかと問われれば疑問を抱かずにはおれませぬ。
しかしながら、ご親友を喪われ意気消沈しておられたお嬢様を勇気づけ寄り添い続けたことは評価に値します。二年前に想いを交わし日々お嬢様のために精進する姿は、なんともいじらしく好感が持てます。ならば、此度は譲ることも吝かではございません。
そうしていると、町を探索している我々の前にラメル殿が現れました。
「よぉ、嬢ちゃんを撃った奴を探してるって話だったな。あいつなら、十六番街にあるバーで飲んでるぜ」
「おう、ラメルの旦那。そいつは本当か?」
ベルモンド殿が挨拶を交わしておりますな。
「今回は事がデカすぎて役に立てなかったが、これくらいはな。そいつはスキンヘッドの大男だ。名前はグリーズ、エルダス・ファミリーに雇われた狙撃手だな。最近は嬢ちゃんを狙撃したことを自慢気に話していたよ」
下衆めが。
「そっか、ありがとなラメルの旦那。バーの名前は?」
「『夕暮れの安らぎ』って名前だ。ただ、十六番街はエルダス・ファミリーの縄張りだ。騒ぎを起こしたら面倒になるぞ」
「大丈夫、場所は選ぶさ。シャーリィを撃ったんだ。楽な死に方はさせねぇよ」
ルイス殿がやる気を見せておられる。
「そうかい、なら俺はごみ掃除を見物させて貰うぜ」
数時間後、偵察部隊から三ヶ所の隠れ家に残党が逃げ込んだことが伝えられました。残念ながら首謀者は別の場所へ逃れたとの事。逃げ足の早さには感心しますが、先ずは目の前の敵を葬るのみ。
「伝令、各グループに通達。攻撃開始、事を成したら速やかに離脱するように。痕跡は残すな」
「はっ!」
「いよいよか、俺達はバーに向かうんだよな?」
「そうなりますな、敵の縄張りの中故行動には細心の注意を払わねばなりませんが」
「ああ、騒ぎを起こさずに捕まえてやるさ。シャーリィに怪我させた借りを返してやる。万倍にしてな!」
うむ、意気軒昂で大いによろしい。それならばお嬢様を任せられるというもの。
さて、始まりますぞ。一人とて逃しはせぬ。我々に手を出したこと地獄で後悔させてくれる。
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