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💛のモブとの絡みがあるため注意
「吉田くん、ちょっといい?」
今日はグループではなく、個人での番組撮影だった。
撮影が終わった仁人はプロデューサーに声をかけられた。
よく顔を合わせる方だ。
何か俺やらかしたか?
仁人は少し不安に思いながらプロデューサーの元に行き、現在使われていない部屋に連れていかれる。
「ごめんね急に呼んじゃって」
「いえ…何かありましたか?」
「んー、まぁね」
その言葉に仁人は少し身構える。
何かやってしまっただろうか。
今日の撮影は上手くできた方だと思っていたが、何か良くない部分があったのか不安になる。
「これ見てほしいんだけどさ」
ディレクターはそう言って1枚の写真を仁人に渡す。
それを見た瞬間、仁人の顔が固まる。
その顔を見て、ディレクターは少し口角を上げた。
「なにこれ…」
「何って、山中柔太朗くんだけど」
渡された写真には柔太朗が写っていた。
しかし、それは普通の姿では無かった。
柔太朗が薬物を吸っている最中のような写真。
けれど、どこかその写真には違和感があった。
「これ、合成写真ですよね?」
大前提として、柔太朗が薬物をやるわけが無い。
この写真、完成度が高くパッと見は信じてしまうかもしれないが、よく見ると違和感を覚える部分が多々ある。
「合成に見える?」
「まず、柔太朗は薬物なんてやらない。それに、この写真よく見ると違和感があるんです。この写真嘘ですよね?」
仁人はディレクターに対して怒りを含みながらそう伝える。
なぜこんな写真を作って自分に見せてきたのだ。
「この写真が本当でも嘘でも、これ週刊誌に載せられたら困るよね?」
「……嘘の写真なんて、載せられても困んない」
「本当に?」
プロデューサーが仁人の肩に手を置く。
反射的にその手を払ってしまった。
「頭の良い吉田くんなら分かるよね?
この写真が嘘でも週刊誌とっては関係ないんだよ。アイツらは注目が集められればいいの。人気アイドルが薬物疑惑なんて大注目だろうな」
「……」
仁人は唇を噛む。
プロデューサーの言っていることは正しい。
週刊誌はきっと注目を集めることを第一としている。
「メンバーが薬物疑惑なんて記事出たら山中くんにもグループにも悪影響だよね?」
薬物疑惑なんて記事が出たらイメージが悪くなるのは確実だ。
世の中には記事の真偽を確認せずに叩きたいだけの人たちもいる。
記事が出たら、柔太朗もみんなも理不尽に叩かれるのは目に見えている。
「……週刊誌に言うつもりですか。なんでこんなこと」
「んー、吉田くんがお願い聞いてくれれば何もしないかも」
「なに……」
お願いとは一体何なのだろう。
それを聞けば、週刊誌に言わないでくれるのか。
でも、こんな人間のお願いなんて絶対にろくでもないものだ。
「俺のものになってほしいんだけど」
「……は、?」
意味がわからなかった。
何を言っているのだろうこの人は。
「無理、です」
「えー、山中くんと別れて、俺のものになってよ」
「え……なんで知って……」
ディレクターが自分と柔太朗が付き合っていることを知っているという事実に驚いた。
このことはメンバーにしか言っておらず、他には秘密にしていたのに。
「俺ずーっと吉田くんのこと見てたんだよね。そしたら、山中くんが吉田くんを愛おしい目で見るのも、吉田くんが山中くんを熱を持った目で見つめるのも気づいちゃった」
「………」
「ねぇ、吉田くんってリーダーだよね。じゃあさ、リーダーはグループのこと守らなくちゃいけないよね」
ディレクターは少しずつ仁人に近づいてきて、肩に手を置く。
自分の行動でグループに影響が出る。
そう考えると、肩に置かれた手を払うことができなかった。
やっとグループの人気が出てきたのに、薬物疑惑なんて記事が出てしまったら悪影響になるのは間違いない。
その記事が嘘だと証明されたとしても、薬物疑惑が出たグループだという印象になってしまう可能性もある。
それはグループにとってマイナスである。
世の中には様々な人がいる。
真偽を確かめずに叩く人はたくさん存在する。
柔太朗がそんな人達の言葉のナイフを浴びることになる。
自分が誰とも付き合っていなければ、ディレクターのお願いを受け入れることは今より躊躇っていなかったのかもしれないと仁人は思う。
今は柔太朗と付き合っているから、柔太朗のことが大好きだから。
柔太朗と別れなければいけないというのが、仁人の心を締め付ける。
別れたくない。
これからもずっと一緒に隣にいたいし、沢山愛を伝え合いたい。離れたくない。
けど、俺はリーダーだから。
柔太朗を、M!LKを守らないといけないから。
「………なります。貴方のものに」
そう言うと、ディレクターの口角が上がる。
「さすが。吉田くんならそう言ってくれると思ったよ。今日から俺のものだね」
ディレクターはそう言って俺にキスした。
気持ち悪い。
けど、受け入れるしか無かった。
***
柔太朗の名前をタップし、電話をかける。
耳元に持ってきたスマホからコール音が聞こえる。
心臓がうるさい。
自分から電話をかけているのに、出てほしくないと思ってしまう。
『もしもし、どした?』
コール音が止まり、柔太朗の声がする。
優しくて、穏やかな声。
「あのさ……」
「うん」
「別れ……よう」
口に出した瞬間胸がギュッと痛む。
こんな言葉、一生言うつもりなかった。
『なんで……』
電話越しでも柔太朗が戸惑っているのが聞こえる。
「とにかく、別れたいの…」
『なんでよ、理由は』
「……もう、好きじゃないから」
嘘。大好きだよ。
好きじゃなくなるなんてありえない。
『昨日まで好きって言ってきてたのに、嘘だったの?』
「っ……そう、だよ。本当は、好きじゃなかった。だから別れたいの」
『………わかったよ』
柔太朗がそう言った瞬間、何かが崩れ落ちた気がした。
あぁ、本当に別れてしまうんだ。
仁人の手は震える。
「明日から、ただのメンバーだから」
『……俺が仁ちゃんを好きなのと同じくらい、仁ちゃんも俺のこと好きでいると思ってた。なのに、好きじゃなかったんだね』
「っ……うん、好き、じゃない。……ばいばい」
仁人は、これ以上柔太朗と話しているのがつらくて電話を切る。
涙がとめどなく溢れていく。
好き、大好きだよ。
愛してる、柔太朗。
でも、ばいばい。
***
「この後、何もないよね?」
今日はまた、ディレクターとの仕事だった。
仕事が終わるとディレクターは仁人に声をかける。
断りたい。
けど、断ったら柔太朗にもグループにも影響が出る。
そう考えたら断れなかった。
「何もないです……」
「俺ももう仕事終わりだから、俺の車乗って。あ、ちゃんと変装してね」
そう言われたので、仁人は帽子とマスク、サングラスをかけて変装する。
顔なんて一切見えない。
絶対にバレない変装ができあがった。
「ん、いいね。じゃあ行こうか」
ディレクターは仁人の変装に満足した様子だ。
そして、車に仁人を乗せ、エンジンをかける。
「………どこに行くんですか」
「んー、ラブホだよ。俺の家でもいいかなって思ったけどちょっと今散らかってるからさ」
ホテルという言葉を聞き、絶望する。
俺のものになってと言われたのだから、こんな状況になる可能性はあると分かってはいたけれど、嫌だ。
「でもさアイドルがラブホに入るなんてやばいでしょ?だから変装させたの。その変装なら絶対バレないよ」
あぁ、だから変装させられたのか。
仁人は納得する。
ていうか、そこらへんの配慮はあるんだ。
たどり着いて欲しくない。
そう思うけれど、仁人の願いとは裏腹に車は目的地に到着してしまった。
部屋に入れば、することは1つ。
ディレクターは仁人をベッドに押し倒し、体を触る。
気持ち悪い。鳥肌が立つ。
目をつぶって必死に柔太朗のことを考えた。
柔太朗を想えば、この最悪な状況を乗り越えられると思ったから。
「………じんと」
喋らないで欲しい。
目を瞑って柔太朗のことを考えていても、声を聞いてしまうと自分のことを抱いているのは柔太朗ではないと実感してしまうから。
「好きって言ってよ、じんと……」
「………」
仁人は口を結んで、何も発さない。
言いたくない。
好きとは程遠い場所にいる人間に、好きなんて言えるわけ無かった。
「言ってくれないか。まぁ、いいよ、これから好きにさせるから」
何を言っているんだろうこの人は。
好きになるわけないのに。
好きなのは今もずっと柔太朗だけなのに。
地獄みたいな行為がやっと終わる。
死ぬほど嫌だったけど、柔太朗のため、メンバーのためだと思えばなんとか耐えることができた。
コメント
1件
みかんさん、読み終えました…すごく胸が締め付けられる回でした。仁人がリーダーとしての責任感から「なります」って口にするシーン、本当に切なかったです。好きな人を守るために嘘をついて別れを告げる場面も、心がぎゅっとなりました。こんな状況でなお柔太朗だけを想い続ける仁人の心情が、地の文からひしひしと伝わってきて、続きが気になります…!