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それから二日後、準備を終えたシャーリィ達はアークロイヤル号へ乗り込み、長旅への船出となった。
「今回はシャーリィちゃんが居るんだ!気合い入れていくよ!」
「出港ーーっ!!」
「「「おおおーっっ!!」」」
エレノア号令の下アークロイヤル号は、最初の目的地である帝都へ向けて出港する。
「この船出が『暁』のより良い未来へ繋がりますように」
シャーリィは船上から見送る人々に手を振りながら、静かに祈るのだった。
アークロイヤル号は半年前の失敗を繰り返さないよう高速のまま帝都へ向けて航海を始めたのである。
「明日の夕方には帝都に着くよ。そこで積み荷を降ろして代わりに物資を頂く。水や食料だね。それを積み込んで、いよいよ南方大陸へ向かう航路だよ。目的地は『ファイル島』、海賊の島だ。密貿易で栄えてる。もちろん、うち以外にも取引してる連中はたくさん居る。で、うちが売り払うのは薬草だ。金や銀で代金を貰う」
エレノアは指揮をリンデマンに任せて、シャーリィ達を船長室に招き、海図を広げて航海の予定を説明する。
「海賊の島か。当然危険は多いだろうな?エレノア」
ベルモンドが質問を飛ばす。
「無いとは言わないけど、海賊は仁義が商売だ。私達が客である以上は下手な真似をしないよ。その方が儲かるからね」
「そりゃそうか。短絡的って訳でもないんだな」
「気の短い奴は海賊なんて出来ないよ。海を乗り越えるには忍耐が大事だからね」
「エレノア姐さん、途中で魔物とかは出ないのか?」
次にルイスが質問する。
「居ない方が珍しいね。まあ、大抵は振り切れるけど、その辺りは運の要素が大きいかな」
「それなら確実に厄介なことになりますね。運の悪さには自信がありますから」
それに応えたのはシャーリィ。世界を意地悪と称する少女である。
「違いないな。海の上だと俺達は無力だ。前みたいに乗り込んでくるタイプなら良いんだが」
「こればっかりは分からないよ。帝国近海とは生態が違うんだろうね。出てくる魔物の種類にも違いがあるんだ」
「スカイホエールは居ますか?」
「帝国よりたくさん居るよ。あいつらは見てて和むから大歓迎なんだけどね」
「……美味しい?」
首を傾げながら質問するのはアスカ。最年少の女の子。
「うーん、食べたことはないかなぁ」
困ったように笑いながら応えるエレノア。
「航路については分かりました。現地ではどの様な行動を?」
「それはファイル島に着いてから話すよ。商人の入れ替わりも激しい場所だから、予定通りとは言えなくてね。今回はシャーリィちゃんが居るから、海賊達の元締めに挨拶しようと思ってる。今話せるのはそれくらいかな」
「海賊の元締めか。大物だな?エレノア」
「ああ、上手くいけば商売の規模を拡大させられる。まだまだ稼ぐんだろう?」
「もちろん、まだまだ足りないのでどんどん稼ぎます。将来的にはロメオ君の開発している回復薬も売りたい」
「それはロメオの頑張りに期待するしかないねぇ。まあ、姉貴としてはやり遂げるって信じてやりたいよ」
途中勇者がその生涯を寂しく終えた島の側を通りかかり、一同静かに黙祷を捧げた。シャーリィ曰く。
「『大樹』に埋葬しましたけど、気持ちは大事ですからね」
とのこと。
一行は特に妨害を受けること無く翌日の夕方に帝都港へとたどり着いた。
「よーしっ!野郎共!さっさと積み荷を降ろすんだよ!ちんたらしてたら海に蹴落とすからね!」
桟橋には『ライデン社』の人夫達が集まっており、積み込んでいた大量のドラム缶を次々と降ろしていく。
「これは、会長。わざわざ来ていただけるとは」
「妹さんから君が来ることを聞いていたのでね、出迎えるべきだと馳せ参じた次第である」
桟橋ではライデン会長がシャーリィを出迎えていた。
「レイミが?」
「我が社は『オータムリゾート』とも友好関係を構築していてね、レイミ嬢はその使者だったよ。残念ながら昨日帝都を発ったが、君によろしくと言付かっている」
「それはわざわざありがとうございます」
「この程度は構わぬ。それよりも、商談をしたいのだがね?」
「はい、書状をお送りした件ですね。戦車を追加で二両購入したいのですが」
「ううむ、マークIVかね?」
「何か問題が?」
「うむ、この半年で戦車開発のノウハウを工作部が蓄積していてな、更に進化した戦車の開発が進んでおる。その最中にマークIVの追加生産は……些か負担となるな」
「新型には興味がありますが、マークIVについてはどうにか?」
「では条件次第で二両生産しよう」
「条件とは?」
「簡単だよ。『黄昏』にうちの営業所と工場の建設を認めてくれないかね?君ならば、無意味な規制など掛けないだろう?」
「それは構いませんが、レイミ曰く工業排水?によって健康に害が出る……公害?でしたか。それは避けていただきたく」
「むむっ、先んじて言われてしまったか。無論、公害については最大限の注意を払うつもりである」
「それでしたら、お安いご用です。『ライデン社』の営業所が出来たとなれば、『黄昏』の商業も活発化するでしょう」
「うむ。そしてこれはまだ先の話ではあるが、鉄道を『黄昏』まで延伸したいと考えているのだ。つまり、『黄昏』に駅を建設する許可を貰いたいのである」
「鉄道を『黄昏』まで伸ばすのですか?」
「現在六番街から十六番街までの延伸工事を行っている最中である。それが終わってからとなるから、一年以上は先の話となろう」
「分かりました、許可を出します。線路を施設するならば、土地が必要になりますね。計画の提示をしていただければ、それに合わせて町の開発を行いますよ」
「それはありがたい。やはり君ならば鉄道の有用性を正しく理解できると思っていたよ」
「むしろそれを理解できない政府の方々に疑問を抱きますが。帝室もですか?」
「左様、結果シェルドハーフェン以外では自由にやれんのだよ」
「……帝室と言えば」
「ん?何か心当たりがあるのかね?」
考え込むシャーリィは、ゆっくりと首を振る。
「……いえ、何でもありません。南方で面白そうなものがありましたら、お土産を買ってきますよ」
「うむ、楽しみにしておこう。明日には積み込みも終わるだろう。近くのホテルを手配しているので、今日はそちらで休むと良い」
「ありがとうございます」
一行は帝都で夜を過ごした。出港へ備えて早めに休み、南方への想いを馳せながら。