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守護の国の黒い沼から、ガンマは顔を出す。
ルシフェルは少し暇そうにしていた。
「ルシフェル……」
「やっとか……」
「あぁ……水の神が……”暴発” する……」
「さっさとやってしまおう。なんだか、悪い予感がする」
ルシフェルの暗い顔を最後に、気絶させられている水の神 ラーチは、黒い沼からズルズルと出された。
ずっと、ガンマにより魔力吸引をされていたのだ。
そして、他の神たちも一斉に出される。
「始まるぞ……! ”暴発” だ……!!」
そして、ラーチを中心に、七神の身体は光り輝く。
「うはっ! すげえ、何が起きてんだ……!」
目を輝かせるルシフェル。
この世の終焉が始まろうとしていた。
次第に、光に包まれた七神は浮遊し、ゆっくりと上空へ登って行った。
「あれがどうなるんだ? 爆発とかすんの?」
「いや、七神はそれぞれ与えられた土地に還る。そこから本当の暴発が始まる……」
「へぇ〜。暴発のことなんて分からないけど、やっと、もう少しでこの世界は終わるんだな……」
そして、ルシフェルは灰色に変わる空を眺めた。
――
記憶を取り戻したアズマとセーカは、目を瞑ったまま涙を溢していた。
「思い出したね、二人とも……」
「あぁ……。俺が記憶喪失だった理由も、こんな魔法しか使えないことも、思い出した……」
「私の本当の家族が、みんなだったなんて……」
「え、えっと……バベルって呼んだ方がいいのか……?」
僕は、二人を背にし、扉に向かって歩み出す。
「僕は、“ヤマト” だよ。この先も “ヤマト・エイレス” だ」
二人は少しだけ微笑んだ。
そして、四人は僕に続いて扉を潜った。
「おかえり、ヤマトくん。バベルは……」
問い掛けたカエンさんは、僕の姿を見て声を失った。
「え……ヤマトくん……?」
ルークさんも、目を丸くしていた。
「お察しの通りです。どうやら、僕がバベル本人だったみたいです」
「アハハ……まさか、ミカエルが『バベルを異郷者として召喚』するとは思わなかった……。でも、それなら色々な辻褄が合うよ。ヤマトくん、気分はどうかな」
僕は、カエンさんの目を見遣る。
「ミカエルも、七神も、この世界も守ります」
「どうやら、姿は変わってもヤマトくんのままの様だね」
そして、僕たちは光龍 ライトの元へ向かった。
「バベル……復活したか……」
僕を見ると、光龍 ライトは懐かしい笑みを浮かべた。
「復活……そういう事になるのかな。僕としては、あまり変わっていないような気分だけどね」
「どちらにせよ、この世界の創造主、バベルが未だ抗うのであれば、我に施した禁を払うがよい」
「ああ、もう少し抗ってみようと思うんだ」
そして、僕は光龍 ライトに手を掲げる。
“光神魔法 エイレス”
光龍 ライトは光に包まれていく。
それに鼓動するように、グレイスさんの身体も脈打つ。
風龍 リューダも反応しているのだ。
ドクン、ドクン、と、龍たちが鼓動を示している中、僕たちは少しの静寂が訪れる。
その瞬間だった。
「ちょちょちょちょ! ヤマトくん!!?」
いきなり、ルークさんは声を荒げる。
「どうしたんですか……?」
慌ててルークさんの視線の先を見遣ると、今まで大人しく着いて来ていた闇神 アゲルが宙に浮き始めた。
「!!!」
「ど、どうなってるのさ! あれは……!」
「暴発が……始まってしまったようです……!」
「七神の暴発が……!? 闇神はどうなるの!?」
すかさず、僕はアゲルの元に飛び立つ。
「光神魔法 エイレス!!」
僕の詠唱と同時に、アゲルは再び、静かに着陸した。
「もう……大丈夫なのかい……?」
「ひとまず、“闇神アゲルは” 大丈夫です。僕の闇神魔法もあって、物質化したまま冥界の国へは還れないのもありアゲルの暴発は防げるでしょう」
ルークさんは安堵の顔を示す。
「ただ……」
四方守神のみんなも分かっていた。
「地上界の七神の暴発は止められません……」
「じ、じゃあ……」
「はい……。急がなければ、僕たちがこうしている間に、この世界は崩壊します」
「ヤバいじゃんか! 七龍のその力ってのはどれくらい掛かるの!?」
鼓動が始まり、光龍 ライトも、グレイスさんも、瞳を閉じたまま動かなくなってしまっている。
「恐らくは、数時間は掛かるかと……」
カエンさんは、何も言わなくても分かっているようだ。
今、僕たちがすべきことが。
「ガロウさん、もう一度力を貸して頂けますか?」
「もちろんだ。この世界が消えてしまえば、私の命もなくなってしまうからな」
「そしたら、アズマ、セーカ、カナン、ホクトの四人を、それぞれ東西南北にある社へ連れて行ってください。彼らにしか行えない特殊な結界を張ります」
「うむ、分かった」
「カエンさん、ルークさん、そしてアゲル」
「えぇ」
「お、おう……」
「うん……!」
「僕と共に、ルシフェルの下に行きます……!」
「それがいいだろう。ルシフェルとガンマを止めるのは、私とルーク。悪魔ルインは、闇神の仕事ですよね」
やっぱり、カエンさんは分かってる……!
「事は一刻を争います! 直ぐに向かいます!」
“仙術魔法 神威”
僕とガロウさんは、それぞれ神威で飛んだ。
「え……バベル……?」
やはり、三人は守護の国に鎮座していた。
僕の姿を見るなり、ルシフェルは目を丸くしている。
「やあ、久しぶりだね。ルシフェル」
「レオが抵抗してくる事は予想してたけど、まさかバベルを再び封印から解いてくるとはね……」
「違いますよ、ルシフェル。彼は、“自分自身で” 封印を解いてここに来たのです」
そして、ルシフェルは苦い顔を浮かべた。
「今更もう遅い……! 暴発は既に始まった!! バベルが何をしようと、もう手遅れなんだよ!!」
そして、ルシフェルはボロボロの翼で羽ばたく。
「光魔法 ブラックヘル!!」
ルシフェルの背後から広大な光が照らされる。
「ルーク!」
「分かってますよ! カエンさん……! 光龍魔法 アゲート!!」
そして、光は一瞬にして消滅した。
「龍の加護か……! 厄介だな……!」
「厄介なのはそれだけじゃないですよ、ルシフェル」
次の瞬間、カエンさんはルシフェルの背後にいた。
「な!? お前……いつの間に!? 光である僕が追えない速度で移動なんてできるわけが……」
そしてまた次の瞬間、ルシフェルは地割れと共に、地に落とされていた。
「どうなってんだ……」
「バベルの力を借りるまでもありません。ルークの光龍魔法は全ての魔法を掻き消す。そして私の “仙術魔法” は、自身と他人の時間を少し “止める” 事ができる。それだけの用途であれば、世界に干渉はしません」
「仙術魔法……?」
「ああ、ルシフェルに追放された後に得た魔法なので、ルシフェルが知らないのも無理はありませんね」
そう言うと、カエンさんはニコリと微笑んだ。
「今更何の用? 君は僕なんか眼中になかった」
一方、悪魔ルインと闇神アゲルは対等していた。
「ごめんね、ルイン……。僕は、自分の寂しさばかりで、側に居てくれていた人たちを見ていなかった……。いつもバベルのことばかりで、ドールも、ルインも、一生懸命仕事をしてくれていたのに……」
「今更なんなんだ!! お前が仕事を放棄して僕のことを生み出して、僕が魂の管理者になって、今更この力が惜しくなったのか!? 振り回すのもいい加減にしろ!!」
声を荒げ、次第にルインは涙を溢した。
「もううんざりだ……死んだ人の苦しそうな顔を見るのは……僕はこんな仕事したくなかったんだ……」
魂の管理、輪廻転生の役は、とても重い。
アゲルに生み出されただけのルインにとっては、負担で仕方なかったのだろう。
「ルシフェルがやられるなら……僕一人ででもこの世界を終わらせてやる……!」
そして、悪魔ルインの背からは大きな黒い羽が生えた。