ルインに羽が生えると、アゲルは動揺を示した。
「な、なんなんだ……その力……!」
闇神の守護神でもなければ、バベルから生み出された特別な存在でもないのに、湧き上がる魔力。
僕だけが、その力の源が分かっていた。
「君の力だね、ガンマ」
「おや、復活したバベルは私の正体に気付きましたか?」
「ああ。ずっと気付いてやれなくてすまなかった。“闇龍 ガンマ”」
「ガンマの正体が……闇龍!?」
同じ龍族の一味を結託させていた、カエンさん、ルークさんすら知らなかったことだ。
「道理で……他の人たちは私が加護を得るのに付き添いましたが、ガンマだけは一人行動でした……」
「ガンマ、君も世界の終焉を望んでいるんだね……?」
「バベル……この世界は終わるべきなんだ……」
「だから、悪魔ルインに闇龍の加護を渡した」
「そうだ……。ルシフェルはミカエルのクローン。いつ自我を失うか分かったものではないからね……」
そして、ゴウッ! と、けたたましい黒龍が、暗黒の地より姿を現した。
「人間に化け、ダークスライムに化けていたガンマの本当の正体が、この闇龍だったなんて。驚かされますね」
「どちらにせよ……ルインの邪魔はさせない。バベルだろうと、龍長だろうと、容赦はしないぞ……!」
そして、闇龍ガンマは咆哮を上げた。
“光魔法 スルース”
僕は光剣をその手に生み出す。
「カエンさんとルークさんは、手出しが出来ないように引き続きルシフェルを抑えておいてください!」
「闇を斬り裂く光剣か……。忌々しい!!」
すると、暗黒の地から三人の姿が現れる。
「元龍族の一味メンバー……雷のドレイク……水のヴォルフ……岩のガドラ……!」
カエンさんは、記憶を消して元の暮らしに戻っているはずだと言っていた。
ガドラに関しては、フーリンが心臓を喰ってたはず。
でも、ずっと闇龍ガンマが潜んでいたなら、そう見せることも不可能ではなかったわけか……。
何故なら、ガンマは幻影に最も長けた龍だからだ。
しかもこの三人……七神が吸われていた魔力を強引に注がれて、魔力増強されている……。
ドレイクは絶え間なく雷がバチバチと放出され、ヴォルフは唾液を垂らし理性を無くし、ガドラは全身からボコボコと岩石を露出させていた。
「バベルと言えど、たかだかミカエルに与えられた魔法しか使えない! ここで終焉を迎えるのだ!!」
「雷魔法 ショット!」
「水魔法 シーガン!」
「岩魔法 ブルック!」
三人が一斉に遠距離魔法攻撃を放つ。
それらは以前対峙した時よりも遥かに強力になっていた。
“闇魔法 グラヴド”
全ての魔法を、重力により地面へと着弾させた。
「ガンマ……僕をナメすぎだ。ヤマトの頃とは違う。今は『自身の魔法の使い方』を網羅している……!」
「減らず口を……! お前は所詮、神のなり損ないだ!」
「確かに……僕は神のなり損ないと言われても仕方ない。認めるよ……。でもね、ガンマ……」
僕の目の前に、三人の刀を持った人影が現れる。
「僕はもう、一人で背負ったりはしない……! 誰かに頼って、僕は僕の出来ることをすると決めたんだ……!」
そこに現れたのは、九条姉弟とロイさんだった。
「待たせたな、エイレス」
「闇魔法を使えるだけの異郷者が集まったところで、七神の魔力を吸っているコイツらには勝てない……!」
「ガンマ、よく見ておけ」
「闇魔法 × 居合い剣術 × 仙術魔法 五月雨!」
「闇魔法 × 演舞 × 仙術魔法 舞妓羅生!」
「闇魔法 × 忍術 × 仙術魔法 月華遁!」
悟さんは、漆黒の刀を翻し、瞬く間にドレイクの背後へと回る。
凛さんは、舞を踊りながら黒い影をヴォルフの周りへと巡らせる。
ロイさんは、クナイを飛ばし、クナイの触れた場所がじわじわと暗黒に染まって行った。
そして、三人同時に、三人の攻撃で伏せられた。
「その場限りの力と、ずっと鍛えられた修練による力、その差は歴然だ。行け、エイレス。最後はお前の仕事だ」
僕は、三人の上空を飛び上がり、ガンマの眼前に迫る。
「争いは争いしか生まない! 哀れな唯一神よ!!」
“創造魔法 バベル”
「この……世界は……」
「ここは、僕が生み出した空間だ」
真っ白な空間に、僕とガンマは移っていた。
「こうしている間にも、暴発は進んでいるぞ」
「ひとまずは君だ、ガンマ。君の痛みを、受ける」
そして、闇龍ガンマから、歪んだオーラが、僕に向けて流れ込む。
「や、やめろ……! 自滅する気か……!!」
「君たちを生み出した……僕の使命だ……!!」
この魔法は、共鳴と少し似ている魔法だ。
自分の加護を与えた者、自分が生み出した者の心に刻んだ苦しみを、そのまま自身の心に流し込む。
「そうか……ずっと辛かったんだな……ガンマ……」
「やめろ……知った気になるな……!」
そして、ガンマの胸の奥に感じる積年の想い、その中に混じる、僕を心配する心。
このままこの世界が続けば、僕が苦しみ続ける不安。
だから闇龍ガンマは、ルシフェルに乗り、この世界の崩壊を共に為そうとしていた。
全ての原因は、やはり僕にある……。
それを受け止めるのが、僕の役目だ……!
次第に、ガンマから歪んだオーラは消え、僕はその場に倒れ、そのまま僕たちは元の世界に帰った。
「無茶苦茶な……私を助けたところで、この世界はどうするつもりなんだ……バベル……」
「アハハ……動けない……。でも、大丈夫……。僕は、僕一人で抱え込むことをやめた。そう言っただろ?」
ズパン!!
強力な破裂音と共に、この世界の建造物、及び山々は全て破壊され、全てが荒野と成り果てた。
「間に合ったようだな……」
「暴発が……不完全だった……?」
「違う……四方守神が……間に合ったんだ……!」
今のは、七神の暴発の合図。
もし、四方守神の四人が社で結界を張れなければ、この世界はさっきの破裂で消滅していた。
この地形の破裂により、守護の国に強制発動されていた仙術魔法は解かれ、守護の国の住人たちが元に戻った。
「な、なんなんだ、この有様は!?」
声を上げるのは、岩の神 守護神アリシアさん。
そして、上空に浮かぶカズハさん。
「一体……何がどうなって……」
「闇龍もやられたのかよ……! 僕だけでも、この国の住人を使ってやる……!!」
悪魔ルインは、目覚めた住人たちに向けて、闇魔法 ブラックビートを放つ。
キイン!
しかし、それを無数の苦無で防いだのは
「お前……リオラ……!」
仙人ディムに仕えている、リオラさんだった。
「リオラ!? 生きてたの!?」
闇神アゲルも声を荒げる。
「はい、アゲル様。ルイン……いえ、最後まで主人にお仕え出来なかった愚弟を叱りに来ました」
「今になって……どいつもこいつも……!!」
ルインは地面に手を当てると、無数のゾンビを出現させた。
「もうどうせ全て消えるんだ……」
「消えませんよ」
そこに、煌々と光が降り注がれる。
「まったく……相変わらず無茶しますね。バベル様」
「バベルじゃないさ。ヤマトだよ、ミカエル」
天空に、僕とミカエルが羽ばたき、ルインの召喚した全てのゾンビを一瞬で抹消した。
ゴゴゴゴゴ……! と守護の国の大地は揺れ動く。
「さあ、反撃開始だ! この世界を守ろう!」
守護の国の岩盤は魔法で創られたものではない。
守護の国の地下に眠る、岩龍ディスピアである。
「ディスピア……! お前が守護の国にいたのか……!」
闇龍ガンマも驚きに声を上げる。
「あ〜あ、久しぶりだなぁ〜。ガンマじゃないか〜」
岩龍ディスピアは緊張感のない奴だ。
目を覚ました岩龍に、僕とミカエルの復活。
驚いたルシフェルは困惑した顔を浮かべる。
「なんで……何がどうなってる……!!」
「まず、七神の暴発は未だ進行中だが、四方守神が結界を張り速度を弱めてくれている。僕が闇龍ガンマの痛みを受け負ったところで、ようやく光龍ライトの力『全ての龍の力を呼び起こす』ことができた。そして、岩龍ディスピアの能力は『治癒』。リオラさんがルインの攻撃を止めてくれた隙に、僕は回復してミカエルを助けたんだ」
「その声……ヤマトさんなのですか……!?」
僕の声に、守護神アリシアさんも反応を示す。
「そうです! 今、カズハさんが危険な状況です! 一緒に助けましょう!!」
「四方守神の結界に、龍の力か……。どうやら、僕たちの作戦は悉く敗けてしまったようだね……」
ルシフェルは遂に、肩の力を落とした。
「ルイン、敗者は敗者なりに……」
「させないよ」
僕は、ルシフェルをそっと抱き抱える。
「バベル……」
「君の罪を赦そう。僕の為を想ってくれていたんだよね。君たちに、負担を掛けさせた僕がいけない。やり直せるのならば、きっとみんなが幸せな世界を創ろう……」
そう言うと、ルシフェルの瞳からは涙が溢れ、ボロボロの翼は剥がれ落ち、小さな白い翼が生えた。
「ごめん……ごめんよ……バベル……。僕は……バベルが苦しむ姿なんてもう見たくはなくて……」
そう言って、いつまでも涙を溢れさせた。
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