「ご主人様。記念撮影を後でしましょうか」
安浦の提案をやんわりと断る。
レジの店員に中村・上村はお金を支払っている。その顔は私をご主人様と言っている安浦を気にいっている表情が見え隠れしている。
「ご主人様か……メイドごっこかい」
上村が特殊な冷やかしをしてくる。
「ええ。ちょっと」
私は照れて尻つぼみに言った。
どうやら、前払いのようだ。それと、私と安浦の分も支払ってくれていた。
「時間。何時間にするか?」
中村の勝手知ったる気楽な声に私は安浦の方を見る。
「3時間がいい。あたし歌えるもん。それとありがとうございます。」
「それじゃ、3時間で。楽しくなりそうじゃない。中村さんからマイクを3分置きに奪わないと。…彼女とメイドごっこ……羨ましいよ」
上機嫌の上村は私の肩を軽く叩く。
「メイドか……」
中村は意味深な表情を作る。
「俺。歌ったことがないけど……」
しきりにキョロキョロとするカラオケ初心者の私は、どうしていいか解らない。
安浦が自信満々で、
「大丈夫です。私もマイクを中村さんと上村さんから奪いますよ。ご主人様も手伝って」
どうやら、カラオケとはマイクの奪い合いをするところなのだろう。
防音がされているらしい個室に入ると、早速、安浦と中村・上村はマイク争奪戦をする。私は歌ったこともなく、また、知っている歌もなく。ただ、烏龍茶を舐める。
一番は安浦だった。
コロコロするような歌を歌いだした。どんな歌かも知らない歌なので、可愛いとしか思わない。
次の勝者は中村。悔しそうに光っている上村の頭は、しばらく置いておいて。
今度は中年の歌が流れた。……眠くなる歌……。
次の勝者はまたもや安浦、上村の頭は、置いておいて。
また、ころころした歌だった。こっちは眠くならない。
かれこれ3時間後……終わりが近ずくと、
「赤羽くん。一曲歌ったら」
中村がマイクを突き出した。私は断るのも後味がよくないので、
「解りましたよ。仕方ないっス。歌いますよ」
私はふざけて軽い口調を発した。
「きゃー! ご主人様の歌!歌!」
今まで何時間とマイクを奪い合っていた安浦が喜々とした。
「俺、全ッ然歌ってねー!」
上村の頭は、やっぱり置いておいて。
「何にしようかな?」
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