○年前
変則的台子高校校舎裏
初兎side
まだ、少しだけ寒いなと感じつつもどんどん暖かくなってきたと感じて来た5月中旬。外に咲いていた桜は全て花を落とし、緑になりつつあり、季節の変わり目は早いななんて考えていた。校舎裏という事でなかなか誰も来ない場所。そんな場所は俺の最近のお気に入りであると同時に自分が1人っきりを実感できる場所でもあった。ここには、俺の存在を否定するやつも認める奴もいない、俺はただ単に一人の男として見られたいだけなのにこんなにも苦労するとは、、、親ガチャなるものがあったら俺は失敗作だろう。ふと、スマホの電源を入れ時間を確認すると昼休みの時間は終わりかけていた。この場所で心を整えるのも終わり。今から地獄の5時間目が始まり苦しい思いをする、何故神様はこんなにも辛い事を押し付けるのだろうか。自分は前世にでも何か悪いことでもしたのか?
「おいおい(笑)初兎〜?遅刻だぞ〜??」
「別にええやろお前関係ないし。(笑)」
俺が少し授業に遅れるだけでも声をかけてくれる友達はいる。果たして、本当に友達なのか?俺は知っている父親が裏で金を使い俺に話しかけるように仕向けていることを。女子からは親がヤクザで怒らせたら怖いだとか男子からは刺青見せろとか何とかでよく喧嘩売られるし、挙句の果てには教師陣からも話しかけるだけで不快な顔をされてしまう。こんな存在の自分は生きていてもいいのだろうか。親の名前を使わないと存在証明が出来ない奴なんて呼吸をしてもいいのだろうか。頭が痛くなる程そんな事を考えてきたが、未だ答えは出てこない、自分で見つける事も出来ていなかった。
「ーーーーであるからにして〜え〜ここの裏の勢力相関図の答えは〜、、わかる奴いるか??」
「初兎なら分かるんじゃね??」
「お前んとこ親ヤクザだしな〜www」
「え〜怖いよぉ〜」
授業の折り返し地点の現在、言い返せなかった。彼らは悪意があって言っているのかただ単に正論を言っているだけなのか、、、今の自分には判断が出来なかった。行っている事は正しいが何もみんなの前で言わなくてはいいでは無いか。未だに俺の出生を知らない奴だっているんだぞ、困惑してる奴だっているじゃないか。クラスの半分は笑いながら俺をはやしたて、もう半分は困惑の表情を浮かべ小声で話していた。社会科の教師に関しては面白がっていた。
「じゃあ初兎、こんな問題簡単だよな〜??」
教師までもこんな状態ではダメだった。俺は席から立ち上がり勇気を振り絞り発言をしようとした。すると、斜め後ろの方から随分大きな声が聞こえた。
「てめぇらうるっせェよ!!初兎さん?やったっけ、?そいつ困っとんぞ!!出生がどうだろうと関係ねぇだろ。授業に集中できねぇから黙っとけ。」
最初にうるせぇと大きな声を上げたかと思うと最後の黙っとけはえらく低く脳内に語りかけるような低音で落ち着いた声だった。今まで黙っていた奴が急に大きな声で叫んだのだ、誰もが困惑をし何故か寒気がし、黙ってしまった。叫んだ男の見た目は男にしては珍しい長髪で1本に束ねてあり綺麗な黄と黒のグラデーションだった。服装はネクタイをしてないだけで比較的普通の感じだったが何処か不良味を感じるような見た目だった。
「先生、そこの答えは久楽組。あってるだろ?あってたら授業続けて下さい。」
「お、おぉ、悠佑、、、合ってるぞ、、、」
「お、おい?悠佑急にどうしちゃったんだよ、?」
「おい、黙れつったよな?静かにしとけ、、、」
その後授業はいつも誰かしら会話をしているのに珍しく誰も一言も話さず続いて行った。もちろん、大きな声を出した悠佑?という男も必死に板書をとり真面目に授業を受けていた。気づくと授業終了時刻でいつの間にか授業は終わっていた。これから、部活動決め最後の1週間らしいので、授業は5時間目で終わり、部活動見学の為に皆帰る準備をしていた。帰りの会も終わり皆が部活動見学に走っていき、部活に入る気のない俺は一人で帰ろうとしていた。すると、後ろから声を掛けられた。
「初兎、、さん、、だよな?話ししたいんだが、、時間あるか??」
「え、?いや、ええけど、、」
驚くことに話しかけて来たのは、先程の悠佑という男だった。如何にも運動部ですという見た目の彼は部活動見学に行かなくて良いのだろうか、、気付けば他人の事を考えるあたり、随分自分の観察眼が光っているようだった。
「そっか!ありがとな初兎さん」
「名前、、、呼び捨てでええよ、」
「そか、初兎、、、ありがとな。ちょっと話がしたいんや、一緒に着いてきて欲しい。」
「わかった、、、」
ほぼ初対面の人に対してさんをつける当たり育ちの良さを感じられ、ありがとうと言いながら喜ぶ姿は小動物というかポメラニアンを彷彿とさせ、かなり怖そうな部類の男に対して、可愛いという感情を浮かばせてしまった。そんな狂った考えを頭に浮かばせた俺はすぐに今の事態に目を当てた。そうやって、変なことばかり考えていたらどうやらお目当ての場所に着いたらしい、彼が足を止めた。ここは凛々しく立つ桜の木の下にあるガードレールだった。そこに腰掛けた悠佑は口を開いた。
「さっきは、ごめんな、初兎。」
「いや、、なんの事??」
「えと、さっきの授業で、周りがうるさくて俺授業に集中出来なくて怒鳴ったやん?そん時、出生がどうだろうと関係ないって言ったやん?俺、お前の事全く知らんからさ、勝手な事言って大丈夫かな〜って」
「なんだ、、そんな事か、、全然大丈夫やで、俺は確かに生まれがヤバい感じかもだけど全然気にしてないから。」
「良かったらでええんやけど、、、詳しく聞かせてもらえる??」
「、、、わかった。」
俺は何故か彼には全てを吐き出していいかななんて思った。俺の生まれを全く知らずとも助け舟を出してくれて、しっかり自分が犯した事に反省をし、声を出して謝ることが出来る。そんな彼に俺は心を完全に許しきって俺の事を話してみた。自分の家がヤクザでヤバい感じだとか、家では親が全く相手をしてくれず知らない大人ばかり話しかけて来るだとか。悠くんは初兎ばっかり話してはダメだと言い自分の家の事も話してくれた。自分の家も同じく全く家族が帰ってこず、ひとりきりが当たり前だとか、自炊が少しづつ上手くなってきただとか、彼はとにかく俺の中の寂しい心を埋めていってくれた。ひとつづつ相槌を打ち、反応もしてくれる、そんな対等な関係の大切さ、尊さを彼は教えてくれた。
コメント
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いやもうさ、先生も先生だよ、こんなやつおったら授業出たくねぇな アニキ、低音で言うとかカッコよすぎん?!
みんなの心を救っていく黒くんかっこいい...。