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グサッ

乾いた音が、森に響いた。
「——っ!」

裕也が前によろめいた。

次の瞬間、地面に膝をつく。


「裕也!?」

駆け寄ろうとした俺を、彼は手で制した。


「来るな……! 大したことねぇ」

そう言いながら、太ももを押さえている。

指の隙間から、赤が滲んでいた。


「血……!」


千代の声が震える。

「くそ……罠だ。鉄線、見えなかった」


どう見ても“大したこと”じゃない。

でも、追手が近くにいるかもしれない。

頭が一気に冷えた。


——落ち着け。

——今、必要なのは病院じゃない。


「二人とも、聞いて」

自分でも驚くくらい、声がはっきりしていた。

「止血できる。今すぐ」


「翔さん……?」

俺は裕也の前にしゃがみ込む。


「布、ある? 着物の端でもいい」

「え、ええ……」

千代が迷いながらも、袖の内側を裂いた。


「これを、傷の“上”に強く巻く。きつめでいい」

「おい、何して——」

「いいから黙って」


自分でも、こんな言い方すると思わなかった。

布を巻き、棒代わりに落ちていた枝を差し込む。

ぐっと回す。


「っ……!!」

裕也が歯を食いしばる。

「血止めるには、こうするしかない」

「……現代のやり方かよ」


「そう」

巻き終えると、出血は明らかに減った。

「次。傷、絶対に触らない。汚れると危ない」


千代が息を呑む。

「そんなことまで……」

「知ってるだけ。医者じゃない」


でも、今はそれで十分だった。

裕也は、しばらく黙ってから言った。

「……なあ、翔」


「なに」

「お前、本当に変な奴だな」

苦笑いだった。


「こんな状況で、冷静で。

未来の話して。 なのに」


俺を見る。

「嘘ついてる目じゃねぇ」


千代も、静かにうなずいた。

「……はい。私も、そう思います」


理由は聞かれなかった。

説明も、求められなかった。


ただ、信じられていた。

裕也は深く息を吸い、立ち上がろうとする。


「無理すんな!」

「するしかねぇだろ」

でもその一歩は、俺たちの前じゃなかった。


自然に、前へ。

「今度は俺が時間稼ぐ」

「裕也——」

「安心しろ。守る側に回るって、決めた」


振り返って、ニッと笑う。

「お前らは、俺の“帰る場所”だ」


その背中は、少し震えていたけど。

確かに、強かった。


——未来の知識は、命を救えた。

でも、この時代で人を救っているのは、

間違いなく“覚悟”だった。


夜が、完全に明ける。


逃げるだけだった三人は、

今、同じ方向を向いていた。

大正十三年、君と出会った

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