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#料理男子
おみくじは抜群の大吉で、喬一さんは私に見せてくれずさっさと届かない木の枝に結び付けていた。
その後、お守りと玄関に飾る縁起物を購入し、焼きそばと林檎飴を食べて幸せな時間を過ごした。
実家も二人でゆっくりすればいいというスタンスで、兄なんて海外旅行に一人でふらりと行っていて自由にしているようだ。実家は実家で母と父が良い歳こいていちゃいちゃ新婚ごっこをしているらしい。祖父と祖母も正月は野菜造りを休み、温泉旅行。
喬一さんに伝えると『俺たちもそんな夫婦で居たいよね』と言うので照れてしまった。
なので仕事が休みの喬一さんと家でのんびり過ごすことにしてみた。
御節を食べ、本を読む彼の隣に引っ付いてゲームをしたり、一緒にお風呂に入る、入らない、の攻防戦を繰り広げていた。
そんな仕事休み最後の日、急遽喬一さんのご実家にお呼ばれすることになった。お姉さんの方から話したいことがあると、時間を作ってほしいと言われた。
私たちはその日も家でのんびりする予定だったので、もちろん行くことに。急いで着物を着たりと大慌てだった。
そんな慌ただしい中、インターフォンが鳴った。こんなお正月で忙しい時期に、段ボール二箱も届けてくれる宅配業者さんには頭が下がる。
「お婆ちゃんからです」
「お、野菜か。俺が持つよ」
軽々と段ボールを二箱持つと、うきうきとした足取りでキッチンへ向かう。
段ボールを開けると、お米と土がついたごぼうと大根、キャベツと人参、玉ねぎまである。
「贅沢だね。この野菜たっぷりの鍋が食べたい」
「いいですね。おばあちゃんも喜びます」
「おや、きゅうりがないようだけど」
「喬一さん!」
大根を握ると『生ハム大根』と呟いて爆笑していた。久しぶりの長期休暇に、心なしか喬一さんも浮かれているように思える。
お返しにうちのおばあちゃんにハンドクリームと手袋、そして美味しい新茶など抜かりなく贈っているこの人は、私の旦那ではなくもしやお嫁さん?
「それより早く着換えないと、お姉さんを待たせてしまいますよ」
「そうだね。野菜は名残惜しいけど、帰りに一緒にスーパーにでもよって鍋の買い物もしたいし」
喬一さんは手馴れた様子で私の着付けを手伝ってくれた。自分は手元にないからとラフな格好で行こうとしてるくせに、私の着物や小物を楽しそうに選んでいる。
女性の着付けもできるとは、喬一さん、できないことないんじゃないかな。
色を選ぶセンスはないけど、と苦笑しつつ丁寧に着付けてくれた。
「あの、お野菜段ボール二箱もあるし、喬一さんのご実家に分けましょうか」
「え、あー……俺が全部食べたいけど」
「土のついた野菜とか失礼じゃなければ、ですが」
「全部俺のものって気持ちの方が強いけど……せっかくだし俺が絶賛する紗矢のおばあさまの野菜、持っていこうか」
若干、会話がかみ合っていないようだったがなんとか収まるところで収まったようだった。
どうしても野菜は全部使い切りたいようだ。
喬一さんの実家に行くのは実は初めてだ。挨拶はホテルでの結納のみ。
お姉さんも喬一さんも、もし親戚が邪魔したら申し訳ないからと店の方へ来ないほうはいいと言ってくれていたからだ。
古舘呉服屋は室町時代から続く老舗呉服屋で、遠祖は神社の祭で祭礼着を奉納していたらしい。そこから法衣商として暖簾を揚げ、江戸時代には百余軒もの分家を擁すまでになっていたとか。江戸時代は新しい染物技術や訪問着中心で売る分家もでき、常にまとめる立場を求められた古舘家は威厳を主張するような豪邸を都内一等地に建てている。
そこの蔵は、日本文化遺産に申請中で、庭は開放され、本館二階には古舘呉服屋のアートギャラリーとして文化とファッションの展示をしている。
「俺は長子じゃないから、メンテナンスが大変なあの家を継がなくて、心の底じゃラッキーと思う部分もあったんだよね」
延々と続く壁を追うように運転している喬一さんが、苦笑する。
もし勘違いでなければ、たぶんこの壁は全てその古舘呉服屋の敷地だ。
先ほどからすれ違う車が高級車だったり上品な着物の女性ばかりだ。
「姉は、着物の染め物や柄を小さな頃から熱心に眺めていたし勉強していた。どうみても姉の方が古舘屋の看板を背負うのに適しているよ」
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