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日曜の朝、ゆるやかなまどろみが突然破られる。
大声が響いてきた。何層にも重なって。
まずはうらしまの例のやつ。
「あふんっ!」
「あっふぅん!」
「あぁっふぅっっんん!」
夢の中でお姉に虐められて喜んでいるのだろう。
小人の声も微かに聞こえる。
誰のか分からないイビキも。
その中で一際激しく叫んでいるのはかぐやちゃんの声だ。
たまに朝早いねん、あの人。
「シーアイエスモデル40ジーエルグレネード・ランチャー! シーアイエスモデル40エージーエルオートマチック・グレネード・ランチャーッ! シーアイエスモデルエスエルダブルエージーエルオートマチック・グレネード・ランチャーッッ!」
……うわぁ、今朝はグレネード・ランチャー編や。
大声で銃器の名前をひたすら、ただひたすら叫び続ける、
ものすごく近所迷惑な人。
一体何の訓練やねん。
それでもゴロゴロまどろみ続けるアタシ。
午前10時。ようやく目覚める。
ああ、今日もいい天気や。
30分ほど布団の中でゴロゴロ。
横目で見ると部屋の隅に座り込んで桃太郎、寝ぼけ眼でパンかじってる。
先程の騒音が嘘のようにアパート中がシン……と静まり返っていて、何だか心地いい。
ああ、日曜って素晴らしい!
もっとも学校に行くワンちゃんと、サラリーマンのうらしまを除けば、このアパートは平日でも極端に朝が遅い。
ゲーマーの|性《サガ》でお姉は夜が遅く、従って朝はグーグー寝てる。
かぐやちゃんも夜中に違法放置家電ゴミを漁るので、眠りにつくのは夜明けらしい。
オキナもダラダラ暮らしている。この人、何で生計立ててるんやろ。
カメさん来ない日は完全に寝静まっている午前のオールド・ストーリーJ館。
「アカンやん、アタシらっ!」
こうやってみると、散々バカにし、蔑んできたうらしまを、逆に尊敬する思いや。
「リカ殿、ご飯を食べたら見回り隊の時間ぞ?」
「あぁ、もうそんな時間?」
そこでアタシはようやくムクリと起き上がる。
12時前。テレビを見ながら朝・昼食を食べ、ついついテレビを見すぎてしまう。
2時前。ようやくアタシらは重い腰をあげた。
アパート一周、街一周。
桃太郎の世直しの旅(日帰り)や。
近所の見回りといって良い。
的確な表現をすればただの散歩だ。
まぁ運動にもなるし、買い物がてらアタシも付いていくのが日課なのだ。
4時くらいまで商店街をウロウロする。
変な格好で、時に変な歌を口ずさみながら。
完全に不審者や。しかも名物や。
時々アタシと桃太郎は揉める。
アタシが信号無視すると奴は怒るのだ。
「そちは屑人間か。社会の規範を守れい!」
「うるさいわ! アタシかて周りは見てるで。でも車通ってへんやん。そんな時は渡って当然やろ! 関西人はみんなそうしてんで!」
「おのれ、御奉行様の前に引っ立ててやるぞ!」
「お、御奉行様って警察のこと? も、もうイヤや。警察はカンベンして!」
ダラダラと言い合いを続け、疲れてきたら近くの川原に向かう。
散歩中の犬の相手をし「本物のワンちゃん」と名付けたりする。
それからアパートに帰ると、うらしまが風呂場の屋根から声をかけてきた。
「おかえり。リカちゃん、桃太郎くん」
「ただいまぁ。修理か? ご苦労さん」
そう、宇宙からのオレンジの光は隕石だったのだ。
直径5ミリ弱の小さな物だったが、アパート風呂場の屋根は大破した。
これだけの被害で済んだのは、むしろ奇跡的だったという。
新聞にも小さく載ったし、近所の噂もものすごい。
見物人が押し寄せる始末。
アタシ的には感電少女の家だとバレないか冷や冷やものだ。
だって何だか恥ずかしい。
壊れた屋根は業者に頼むこともせず、うらしまが毎日コツコツ修理させられている。
奴はご主人様(お姉)の役に立てると心底喜んでいるらしいから、アタシは何も口出ししてないけど……何か不憫な男やで?
お姉と言えば、かぐやちゃんとのデートにさすがに懲りたらしい。
「あの方とのデートは、また別の機会に敢行するわ」と力なく言っていた。
かぐやちゃん騒動が一段落し、アタシは久々に自室で穏やかな時間を過ごしていた。
「はぁ、せっかくトーキョー来たんやし、国技館で相撲見たいわ。そろそろ五月場所が始まるやん。アタシ、大阪では毎年行ってて、けっこう詳しいねん。なぁ桃太郎、聞いてる?」
後ろを向いたら桃太郎、鏡を前にブラシで頭──特に頭頂らへんをペチペチ叩いている。
頭皮を刺激しているようだ。
真剣な表情で、アタシの話なんて聞いちゃいない。
「ももた……?」
見ちゃいけないものを見てしまったようで、声をかけるタイミングを失ってしまった。
──コイツ、一体何歳なんやろ?
──ほんま、謎多き桃太郎やわ!
……このナゾはアレやな。解明するかせんか言うたら、どっちでもいい系やな。
……ほんま、もぅどうでもいいし何もかもどうでも……ふぁぁ、眠い……。
「ってアタシ、何やってんの! こんなんしてたらアカン!」
ようやく気付いた。
アタシ、駄目な暮らししてる。
どんどん駄目な人間になっていく!
アカン!
アカンやん!
「21.さんすうのべんきょうからはじめよう! ~アタシの脳ミソ→不毛?」につづく