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――ガチャリ――


玄関は、開いていた。こんな深夜なのに、不用心な…と思うかもしれないが、うちにとっては当たり前だった。


薄暗い廊下をゆっくり進んでいく。そこに、明かりがついている部屋が1つ。


中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


そーっと中を覗き込むと、私の母がソファーの上で携帯を片手に話していた。


「うん、うん。…えー?そうなの?……きゃっ…」


母は、私の存在に気づくと小さく跳び跳ね、声を漏らす。


「ちょっと…帰ってたの?」


その目には、明らかに不満の色が滲んでいる。楽しい空間を、邪魔されたと、はっきり書いてあった。


「…ただいま。」


「もう、脅かさないでよ。幽霊かと思ったじゃない。そこに夕飯出てるから、さっさと自分の部屋に行ってよね。」



そう言って、私を追い払う仕草をすると、さっきとは別人のように甘ったるい声で電話に戻った。


ほんのり色づいている頬。乙女のような表情。相手はもう、検討ついていた。


父ではない。



私は、そんな母に何も言わず、黙ってテーブルの上に出ているコンビニのおにぎりを持って二階に上がっていった。


二階には、明かりがもう1つ。暗い部屋で、テレビだけが付いている。そして豪快な笑い声。


私の、父だ。


そう、私の両親は同じ家に住んでいるのに、別々の部屋で過ごしている、いわゆる家庭内別居だった。


昔からこんなんじゃなかった。前はもっと仲がよくて、休みの日には皆でお出かけをしていた。

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