テラーノベル
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昼下がりの教室。
ざらついた光がカーテンの隙間から入り込み、埃を照らす。
遥は、また今日も立っていた。
膝をつき、机の脚に寄りかかるようにしながら、誰かの脚を指先でなぞる。
笑い声とシャッター音。
その真ん中で、遥だけが、誰よりも正確に「それらしさ」を演じていた。
「……わ、またやってんじゃん。ほんと飽きないよなぁ」
軽い声が割り込んできた。
振り返ると、そこに蓮司がいた。
制服の着方も髪の乱れも、「校則」の概念から遠い。
だが、それでも妙に場に馴染んでいる。
彼の存在は、「これは娯楽だ」と言わんばかりの空気を教室に添えた。
「え、なに今日のテーマは?」
「“忠犬モード”か、“悪い子お仕置きコース”か……どっち?」
女子たちが笑う。
「それウケる」「蓮司くん、来てたんだ」
「久しぶりなのに、まじタイミング神」
蓮司は歩きながら、遥を見下ろした。
遥は顔を上げず、ただ脚の隙間から、ちらと目を向けただけだった。
「なんかさ、すげぇ進化してね?」
蓮司は、笑っていた。
その笑みは、からかいとも、賞賛ともつかない曖昧さをまとっていた。
「もう“どこまでいけるかチャレンジ”になってんじゃん。見てて楽しいわ」
遥は、微かに口角を上げた。
笑っているようで、笑っていなかった。
「……おまえも、やる?」
「え、いいの? 俺、“加減”とかできないよ?」
「いつも誰かにやられてんだから、今さらだろ?」
その言葉に、また笑いが起きた。
だが蓮司だけは、その笑いをほんの少しだけ遅れて拾った。
そして──一瞬、目を細めた。
「……まあ、いっか」
「今日は見るだけにしとく。俺、楽しいほうが好きだからさ」
遥は何も言わなかった。
だが、その沈黙の奥で、何かがわずかに軋んだ。
蓮司は軽く手を振り、窓際の空いた席に座った。
その姿は、まるで映画でも見ているかのような無関心を装っていた。
だが、彼の目は、遥を正面から見ていた。
興味ではない。心配でもない。
ただ、「どこまでやるんだろう」と、
まるで娯楽の続きとして──静かに見届けようとしていた。
遥は、それを知っていた。
だから笑った。
「……期待には、応えなきゃな」
そしてまた、誰かの前に膝をついた。
何も感じていないふうに。
楽しんでいるふうに。
──教室がまた、歓声とシャッター音で満たされた。
蓮司は、笑ったまま、指先で机の角を軽く叩いていた。
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