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1 - Memorial1

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15

2025年04月30日

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わたしは、ソワソワしていた。

「あーっ、もう楽しみすぎるっ!」

テーブルの周りを、もう気付けば10回は回っていた。

「そうね。明日から、優希学園で寮生活だものね。」「うんうんっ!」

私、伊桜 羽音!

明日から優希学園に通う中学1年生!

脳内は優希学園と、晩餐の大好きな八宝菜でいっぱい!

ウキウキやワクワクがいっぱいで、今日の夜はゼッタイ眠れないよ〜


といいつつ昨日は普通に眠れた。

昨日はあんなに優希学園を楽しみにしていたのに、今更なぜか不安でいっぱい。

なにより10年暮らしたこの家を離れるから。そうすれば、父さんや母さん、姉の羽菜に会える機会はうんと減るだろうし…

「大丈夫だよ。」

そう思っていると、羽菜がそっと私の肩に手を置いてくれた。

「その寂しさはね、たぶん、1ヶ月でふっとぶと思う!」「ほんと?根拠ないのに?」「大丈夫。うちが百億%保証するから!」

そう言うと、羽菜はもう一回私の肩に手を置いた。というより、今回は叩かれた?ぐらいのパワーでやられた、感じ。

「わかった!学園でも頑張る!」

私も羽菜の肩に手を置いて、ついでに父さん母さんにもやって、私は家を離れた。私は3人が見えなくなるまで手を振り続けた。その時、羽菜も私が見えなくなるまで手を振り続けていたのは、深く記憶に刻まれた。


しばらく歩くと、学園の入り口につくと、なぜかとても静かだった。

え、ほんとにここであってる?

不安になって、後ろを向き引き返そうとした時。


さぁっと、風が吹いた。風は淡いピンク色の桜の花びらをのせてどこかへ向かっていった。

風にびっくりして、手に持っていた荷物を後ろに落としてしまい、後ろを振り返ると、一人の男性が学園の中の庭に立っていた。

その人を見た一瞬で、その人の世界に引き込まれたような気がして。

ぼーっと見つめていると、私の視線に気づいたのか、男性がこちらを向いた。

しまった。

「どうしたの?」

優しい声をかけこちらに向かってきた。

「あの…来週からこの学園に通う予定の伊桜というもので…女子寮を探しているんですけど…」

へんな自己紹介になったけど、男性は理解して、女子寮へ案内してくれた。

「伊桜さん、だっけ。」「はい。」「俺、安藤和也。今年で3年生になるんだけど、伊桜さんは?1年生?」「私は今年で2年生になります。転校生みたいに思ってくれて良いです。」「オッケー!」

その時

ボトンッ

重いものが落ちた音がしたかと思ったら、まーたやらかしたよ、私。

手に持ってた荷物を落として、今度は落としただけじゃなくて荷物の中身を外にぶちまけ…って、私初日からとんでもなくやらかしちゃってない?

恥ずかしい気持ちで胸がいっぱいになっていると

「大丈夫?」

すぐに安藤さんがかがんで荷物を拾ってくれて、まとめると自分で私の荷物を持った。

「あ、いいんです、私持ちますよ。」「いいのいいの。」

荷物を落としまくって迷惑だと思ったのかも…これはやってしまった。


ふいに、安藤さんがこう言った。

「伊桜さんって、なんでこの学園に来ることになったの?」

初対面の人に話すのはなにか複雑な感情になりがちだが、優しい声で問いかけてくれたのか、なぜかするすると言葉が出てきた。

「私、教師を目指してるんです。私の勝手な想像ですし、違う人もいるだろうけど、今の時代の人って、みんな勉強が苦手とか、嫌いとか、そういう意識を持ってる人が多い気がして。だから、そういう人にいやいややらせてるわけじゃなくって、明るく、楽しく、あと…面白く!勉強を教えてあげれば、そういう意識がなくなると思ってて。でも…そのためになにができるのか、いくら考えてもわかんなくって…だから、今までとは違う新しい仲間と1日中近くにいて、それでなにかヒントが見たかったらいいなって思って。だから、寮生活のあるこの学園にこさせてもらったわけです。」

話したあとから思うのもなんだけど、なにか熱く語りすぎたような気がして、今更ながらすこし恥ずかしくなったけど、安藤さんはするっと認めてくれた。

「すごいね、よく考えてるんだね。そういうのはきっと日本どころか世界を動かすと思うよ。」「ほんとですか…ありがとうございます!」

お礼を言っていると、視界にレンガ造りのおっきな建物が入った。

「あれって…」

おずおずと指さすと、安藤さんが「そうだね」とうなずいた。

「あれが、女子寮だよ。見て、時計の両隣にバラの花飾りがついてるのが女子寮。ゆりの花飾りがついてるのが男子寮だから、忘れないように覚えといてね。」

そういって、安藤さんは持っていた私の荷物を渡してくれた。

「あ、ありがとうございました。」「うん。じゃ、また来週、会えたら会おうねー!」

お礼を言うと、安藤さんは手を振って、後ろを向いて歩き始めた。

その背中はとても頼りになるような背中だった。でも、ふいにあること思い出した。

安藤さんは、下の名前も含めて自己紹介してくれたのに、私、名字しか言ってないよね?

……でも、来週会えるかもしれないから、いっか。


いや。


だめだ。


今言っておかないと、あとで後悔するかもしれない。



後悔はもうしたくない。



きっと、あの時よりも大きな後悔はないだろうけど。



なけなしだけど、その勇気を振り絞って。言うんだ。って、なんか告白するみたいになったけど…


「下の名前!」

大声で言ったから、安藤さんにはやっぱり聞こえてた。

「私の下の名前、羽音っていいます!伊桜羽音!それが…私の名前です!」

大声で言った。

そうすると、安藤さんも笑顔で言い返してくれた。

「オッケー!伊桜羽音ね!覚えとくよ!じゃあねーっ!」

そして、さっきよりもいっぱい手を振ってくれて、多分男子寮に帰っていった。


すっきりした気持ちになると。


さぁっと、桜の花びらをのせた風が吹いた。

それは、私の新学期を迎えてくれる風。

これからなにか、やらかすかもしれないけど。


勇気を出して。


私頑張る。

伊桜羽音、頑張ります!


行ってきます!


私は、力強く女子寮の扉を押し開けた。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

5

ユーザー

ありがとうございます。

ユーザー
ユーザー

とても良い作品だと思います!続きが楽しみです!

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