テラーノベル
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――いつの間にか、矢が止まっていた。
地面に倒れたルークとエミリアさんには、数本の矢が突き立っている。
……私だけが無傷。これがもし、偶然で無いとするなら――
「んっんんん~!? ちょ、ちょっとキミィっ!!
さっきの光は何なのかな!?」
私はアイテムボックスから杖を出して、魔石を次々に嵌めていく。
その途中にランドルフが突然現れ、とても慌てた様子で聞いてきた。
さっきの光――というのは、私がユニークスキルを手に入れたときの光だろう。
「……知りたいですか?
それならもう、私たちを見逃してくれますか?」
「そ、そんなわけにはいかない!
他の二人はともかく、キミは国王暗殺の首謀者なんだからッ!!」
「それなら、私は良いです。
あの二人を助けてもらえますか?」
「無理無理! ……ああいや! 剣士の方だけなら、やっぱりボクが面倒を見ても良いよ!?」
「どちらかではダメなんです。
私にとって、二人とも大切な人だから――」
私はルークとエミリアさんのもとに歩いていく。
そして――
バチッ
……久し振りの感覚。錬金術。
ユニークスキルを獲得すると同時に、私の中で何かが吹っ切れたらしい。
そして、右手に作られたポーション瓶をそのまま眺める。
「い、今のは……!?」
「これですか?」
バチッ
先ほどと同じ薬を、もう一つ作る。
「――これは、私の錬金術。
この世界の誰もが到達できない、私だけの力――」
「そ、そんな!? まさかこの場で作ったっていうのか……!?
う、嘘だっ!! そんなの不可能だっ!!」
「嘘でも良いです。
あなたには関係が無いんだから」
私はまず、エミリアさんに声を掛けた。
「……エミリアさん。どうか、生きてくださいね」
私は彼女の矢を抜いて、傷口にポーションを振り掛けた。
そのあと、作ったばかりの薬をゆっくりと飲ませる。
次に、ルークに声を掛ける。
「……ルーク。今までありがとう。
最後まで護ってくれて、本当に嬉しかったよ」
ルークの矢も同様に抜いて、ポーションを振り掛け、そして作った薬を静かに飲ませた。
エミリアさんよりも傷は多いが、それでもまだ生きている。
……そうか、神剣アゼルラディアには『全防御補正』なんていう効果もあったっけ。
そして――
私の足元には、潰れたスライムの身体が落ちている。
リリー……。
ごめんなさい、あなただけは間に合わなかった。
辛い逃亡生活の中で、とっても救われたよ。……本当に、ごめん。
「――な、何だ!? 別れの挨拶でもしているのか!?
そうだな、お前らはここで終わるんだ!! ボクに逆らうのが悪いんだからな!!」
私は杖に嵌めた『安寧の魔石』を確認した。
60%……30%……15%……。合計で105%、問題は無い。
ユニークスキル『英知接続』発動――
……その瞬間、少しだけ立ちくらみがするのを感じた。
しかしそれもすぐに終わり、大量の情報が私の頭の中を流れていく。
……私が今、持っている可能性の一つ。
幸か不幸か、『ここ』にはすべての素材が揃っている。
『これ』自体、創ることは問題が無い。
『これ』以外の選択肢は、今は見つけることが出来ない。
「――ランドルフ。……さっきの質問に答えてあげる」
「……ッ!?」
「さっきの光はね、私が新しくスキルを手にした証。
あなたも知っていたんでしょう? だから、攻撃の手を止めてまで確認をしに来た――」
「そっ、そうだ!
レアスキルやユニークスキルを手にしたとき、その身体は光で包まれるという……。
ボクもレアスキルの光は見たことがある。しかし、さっきの光はまるで――」
「ユニークスキル、だとでも?
……ふふふ、正解! 大当たり! あーっはっはははっ!!」
「……お、お前っ? ……き、気でも狂ったか!?」
私の様子を見て、ランドルフは狼狽した。
そうだ。これからやることを考えれば、正気なんて保っていられるわけがない。
――ルークとエミリアさんを助けるには、この場の全員を倒す必要がある。
この一帯を吹き飛ばすほどの、強力な爆弾を作る? ……それには素材も足りないし、ルークとエミリアさんも巻き込んでしまう。
それならどうすれば?
その問いに、すぐに出た私の答えは一つしか無かった。
……もっと考えれば、他にあるかもしれない。何か良い方法が見つかるかもしれない。
ただ、私には――今の私には、『あれ』を使うこと以外、何も思い浮かばなかった。
『あれ』を使ったところで、私たちの未来は暗いままだろう。
しかし、まずは生き延びなければ始まらないのだ――
「絶望の宣言――……世界に深く深く根差す漆黒の刃。
悠久なる光を喰らえ、大いなる光を喰らえ。
すべてに宿る希望さえも喰らい尽し、醜い感情すら塗り潰してしまえ――」
「……呪文? な、何を……?
き、キミは何をしているんだっ!!?」
「深淵の宣言――……空虚なる空、無限に続く回廊。
大いなる星を穿ち、どこまでも深い風穴を空けよ。どこまでも深い闇を空けよ。
すべてを吸い込め、すべてを掻き消せ。真なる闇の王に相応しい絶界の座を――」
「は、話を聞けぇっ!!」
「……もう、遅いから」
「え?」
バチッ という音がしたあと、立て続けに、大きな地響きが聞こえてくる。
それはまるで、地面の奥底、地獄から響き渡るような――
ゴゴゴ……
ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
「――ッ!!?
な、何だ!? 地震かっ!? 魔法で地震を――」
「……外れ」
「ッ!?」
ランドルフと遠くの兵士たちが騒ぐ中、さらなる轟音と共に地面が割れて、巨大な穴が姿を現わした。
その穴からは、黒い霧のようなものが大量に吹き出してくる。
「な……何だ、その穴は……。
――ッ!!? ゴホッ! ……ゲホッ!? い、一体これは……!?」
「……ああ、そうね。
私も一応、薬を飲んでおかないと」
バチッ
右手に作った薬を、私はすぐに飲み干した。
「く、薬……? き、キミは一体、何を……!?」
黒い霧は周囲に広がり、それと同時に、遠くの兵士たちも全員が苦しみ始める。
「……ごめんなさい。
あの二人を助けるためなの。そのためなら私、どんなことだってするから――」
ザザッ……! ザザザッ……!!
どこかから聞こえてくる、そんな雑音。
……そうか、『これ』を創っても『世界の声』は流れてしまうのか。
そう思った瞬間、その声は私の頭の中で、大きくはっきりと聞こえてきた。
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『ヴェルダクレス大陸 クレントス地方』に『疫病の迷宮<深淵>』が誕生しました。
『世界の記憶』に登録されました。
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「な……!? ま、まさか……迷宮を……創った……!?
そ、それに、『深淵』クラスだなんて――
――ゴホッ!? ハァ……ッ、ハァ……ッ!?」
苦しそうな声を出しながら、ランドルフはそのまま地面に倒れた。
遠くの兵士たちも同様に、次々と倒れていく。
……これで、この場はようやく……何とか逃れることができる。
被害は大きいものの、ルークとエミリアさんが無事なら問題は無い。
二人には疫病無効の薬を飲ませたから、きっと大丈夫なはず――
――フラッ
「あ……」
不意に、私の身体から力が一気に抜けた。
術の反動はすべて『安寧の魔石』が引き受けたはずだけど、それにしてもやたらと疲れた――
……まぁいいか。
私は、ルークとエミリアさんが生きてさえいてくれれば、それで良い。
こんなことをしでかした私は、きっと嫌われてしまうだろう。
でも、嫌われても良いから、二人には生きてもらいたかった――
――……何だかもう、疲れちゃった。
何もかもが、どうでもいいや。
……このままもう、……闇の中へ、一人で落ちていこう――――
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