息を飲むほど美しい少年はゆっくりとこっちへ近づいてきた。思わず後ずさりしてしまうほどに圧倒的だった。
「俺に何か用事?」
「えっ…えっと…」
「何も用がないなら話しかけないでよってうわっイテッ」
少年に懐いていたはずの猫が突然暴れだして少年を引っ掻いて逃げていった。私はつい面白くて笑ってしまった。
「ふふっ…あははっ」
「…何笑ってんのさ」
「や…ごめんフフッつい…面白くてふふふっ」
「いつまで笑ってんのさ!」
少年のはじめのイメージはどこかに飛んでいってしまって私は人目も見ずにずっと笑っていた。
「あー笑った笑った」
「マジでなんなんだよあんた…」
「ごめんって」
「もういいけどさ…んで?何?家出?」
「え?なんで?」
「いや…なんとなくだけど」
え,怖。なんでわかったんだろう。いやそんなことはどうでもいい。なんでそうなのか言った方がいいのかな…?いやこの人に言っても大丈夫なのかな?うーんと考えていたら声をかけられていることに気づかなかった。
「…い、おい,おーい?聞いてんのか?!」
「うわっごめん…なんて?」
「聞いてなかったのかよ…名前教えろって言ったんだけど?」
「名前…?そういや言ってなかったね」
「気づくんおっそ笑」
「るせーやい。私は愁花。君は?」
「俺?俺は憂。」
「ういか…なんかなかなか聞かない名前だね」
「そのおかげで覚えやすいだろ?」
「確かに」
いつの間にか会話が弾んでいて,私は家出したことや理由まで話してしまっていた。途中で少し泣きたくなったけど我慢して話し続けていた。話が終わると憂が慰めてくれて,すごく嬉しかった…