出会った瞬間には、もう、目が離せなくなっていたんだと思う
1フロアに2部屋しかない小さなマンションの隣の部屋の住人が替わったのは、社会人3年目になる春だった
仕事を終えて帰ってきた俺がエレベーターを降りたタイミングで、新しい住人が玄関を開けた
「あ、もしかしてお隣さんですか?」
そう言って微笑んだその人は、中世的な柔らかさがとても綺麗だった
「はい、初めまして、目黒です」
「渡辺です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「目黒さんはお仕事終わり?」
「あ、はい」
「お疲れ様です。何年目なんですか?」
「春から3年目です。」
「へぇ、落ち着いてるんだね。同じくらいかと思ったけど、俺の方がお兄さんだ」
「渡辺さんは…?」
「俺は今年で30歳なんだ、こう見えて笑」
「…そうなんですね」
「嘘だろって思ったでしょ」
「…っ!いえ、そんな」
初対面なのに人懐こく笑う彼のペースに巻き込まれて会話が弾む
気づけば廊下で10分近く話し込んでいた
「目黒くん、下の名前は?」
「蓮です。目黒蓮」
「へぇ!かっこいい!蓮って呼んでもいい?」
「え、あ、はい」
「俺のことも翔太って呼んで?」
「じゃあ…お兄さんなので、翔太くんで」
「ふふ、蓮とはすごく仲良くなれそう。これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、俺コンビニ行ってくるから、またな」
「はい、また」
それからも廊下やエレベーターで会うたびに、翔太くんは気さくに話してくれた
いつ出会ってもキレイで、柔和な笑顔に、つい惹きこまれてしまう
ある時には、分けて貰ったんだ、と小さな花束に顔を寄せて嬉しそうに香りを嗅ぐ姿に、思わずドキッとしてしまった
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