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5週間目、先輩が海外出張から帰還した。
「お疲れ様です。皆さん大変でしたね」
先輩は部署内の人達1人1人に声をかけて労った。
ここ数日僕達を追い詰めた修正データは、期限内に無事再提出する事が出来た。
ホッと胸をなでおろしたのもつかの間、疲れがたまっているのが良くなかったのか、僕は風邪を引いた。
先輩がオフィスに戻ってくる少し前、鼻声の僕に服部さんが声をかけて来た。
「藤原君、風邪ですかー?」
「そうみたいれす」
鼻が詰まっているせいで、下っ足らずなしゃべり方になってしまった。
「私、良いもの持ってますよぉ」
服部さんはポーチの中から何やら薬のシートを取り出した。
「じゃーん!鼻が詰まってる時にはこれっ!藤原君におすそ分けですぅ」
「ありらとうございます」
うぅ……うまくしゃべれない……
服部さんからもらった薬を僕はさっそく飲んでみた。
早く効いてくれるといいな――
一通り声をかけ終えた先輩がデスクに戻ってきた。
「ただいま、藤原君。大変だったでしょ?ありがとう」
先輩の声が脳内を反射するように響いた。
――あれ?何だか頭がくらくらする。眠いなぁ……
「……せんぱい、お帰りらさい」
僕の様子がおかしい事に気付いた先輩が怪訝な表情を見せた。
「藤原君……?大丈夫?風邪?」
「そうれす……ちょっとふらふらすます」
ダメだ……頭がボーっとしてきた。
「……ねむい」
「――藤原君!?」
睡魔に勝てなくなった僕はおでこをデスクの上にぶつけて、そのまま気を失った。
◆
祐希が急にデスクに突っ伏して寝息を立て始めた。
「祐希、起きて!ここ会社だよ」
小声で声をかけて肩をゆすったが微動だにしない。
「あちゃ~藤原君もしかして寝ちゃった?」
祐希の姿を見た松本さんが俺に声をかけた。
「藤原君はどうしちゃったんですか?」
「長谷が戻ってくる少し前だったかな。服部さんに一服盛られてね……」
「盛られた!?」
服部さんっ!!祐希に何飲ませたの!?
「え~、私は藤原君の鼻が詰まってて苦しそうだったから鼻炎の薬をあげただけですよぉ」
「鼻炎の薬飲むと眠くなる事、藤原君に教えてあげた?」
あっ!と服部さんは声を上げた。
「忘れてましたぁ」
はっとりぃー!!
デスクに戻ると祐希がうなされていた。
おでこに手を当ててみると、かなり熱い。熱が上がってきている。
祐希の体を揺すってみたがやはり起きない。苦しそうに呻き声を上げるだけだ。
「藤原君、家まで送ってあげるから帰ろう」
俺はオフィスの外にタクシーを呼び、眠る祐希を抱えた。
「――きゃあっ!お姫様抱っこですぅ〜!」
祐希を抱える俺の姿を見た服部さんが、キャーキャーとはしゃぎだした。
……服部さん。はしゃぐ暇があったら、此度の件で皆に迷惑かけた事を反省しようか。
◆
祐希の家に到着すると、俺は彼をベッドに寝かせ、水分と食料を買いにコンビニへと向かった。
買い出しを終えて寝室を覗くと、苦しそうに顔を顰めて眠る祐希の姿が目に飛び込んだ。
「……うぅっ……うっ」
眠る祐希の目からぽたぽたと涙が零れ落ちる。
「どうしたの……?怖い夢、見てるの?」
静かに、囁くように、祐希に声をかけた。
「うぅっ……せん、ぱいっ……どこ……?」
先輩、先輩、と泣きじゃくりながら祐希は俺を呼んだ。
「祐希、俺はここだよ。ここにいるよ」
大丈夫だよ。と声をかけ優しく頭を撫でると、祐希は落ち着いたのかスースーと穏やかな寝息を立て始めた。
きっと色々ありすぎて疲れちゃったんだな……無理させてごめんね。
俺はしばらくの間、祐希の頭をあやすように撫で続けた。