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🌹 第十章:団長の胸中と、予測不能な反応団長室への訪問
リヴァイの承認を得たサクラは、迷うことなくエルヴィン団長の執務室へ向かった。彼女はノックをし、エルヴィンの許可を得て入室した。
エルヴィンは机に座り、書類を広げている。いつも通りの冷静沈着な姿だが、その目の下にはわずかな疲労の色が浮かんでいた。それは、昨夜のサクラを巡るリヴァイとの無言の争いが原因だろう。
「サクラ。体調は大丈夫か。座りなさい」エルヴィンは優しい声で言った。
「ありがとうございます、団長。…あの、一つ、お話したいことがあります。これは、私がこの状況を打開するために、兵士として、また知識を持つ者として、決断したことです」
サクラは、昨夜の泥酔や、二人の緊迫した関係に触れず、あくまで冷静な口調で切り出した。
「私は、ハンジさんと極秘で進めていた、私の『異世界の知識』に関する情報共有を、団長とリヴァイ兵士長にも全てお話ししたいのです。私の持つ情報が、団長の進める計画の、本当の**『鍵』**になり得るかどうかを、正確に判断していただきたい」
サクラの瞳は揺るぎなかった。彼女は、もはや二人の愛に甘える少女ではなく、自らの価値と役割を提示する交渉人としての顔を持っていた。
エルヴィンの予測不能な行動
エルヴィンは、サクラの言葉を聞き終えると、ゆっくりと立ち上がった。
彼の表情は変わらない。しかし、サクラが覚悟を決めて語った**「戦略的提案」**に対し、エルヴィンが取った行動は、サクラの予想を遥かに超えるものだった。
彼は机を回り込み、サクラの前に立つと、言葉を何も発さずに、サクラの小さな体を強く抱きしめた。
サクラは驚きで体が硬直した。身長188cmのエルヴィンの体躯はあまりにも大きく、彼女の全身がすっぽりとその中に収まってしまう。彼の抱擁は、昨夜の「お姫様抱っこ」のような優しさとは違う、強い感情と独占欲に満ちていた。
「…サクラ。君は、なぜそんなにも、私を安心させるのだろうか」
エルヴィンは、サクラの耳元で、静かに、しかし深い感情を込めて囁いた。
「君が、『戦略』や『鍵』として自分の価値を提示したことは理解した。だが、私にとって最も重要なのは、君のその強い意思だ」
エルヴィンの腕の力が、さらに強まる。
「君は、私たちの間で、常に**『正しい行動』**を選択する。その純粋で揺るぎない精神が、この残酷な世界で、私が最も必要としている『希望』の光なのだ。君が、私から離れようとせず、私たちを信じて全てを明かそうとしてくれた…それだけで、私の不安は消える」
彼は、サクラの戦略的な提案を、彼女の彼に対する「愛情」や「忠誠心」の表明として受け取ったのだ。
(ああ、団長は…私の知識や力ではなく、私の『心』を求めているんだ)
サクラは、自分の行動が、エルヴィンの独占欲と愛情を、さらに強めてしまったことを悟った。
団長の決定
エルヴィンはゆっくりとサクラを解放したが、その両手はまだ彼女の肩を強く掴んでいる。
「分かった。君の提案を受け入れよう。リヴァイにも直ちに報告させる。ハンジを呼び、今夜、三者で君の知識を全て共有する場を設ける」
彼の目は、昨夜の疲労の色は消え、再び野心と決意に満ちた鋭い光を放っていた。サクラの自発的な情報提供は、エルヴィンの計画に強力な追い風となった。
「サクラ。君の決意に感謝する。…そして、二度と、私から離れようなどと考えないでほしい。君が私の傍にいる限り、人類は必ず勝つ」
それは、命令であり、愛の告白でもあった。
サクラは、彼の重く、深い感情に圧倒されながらも、この行動が、二人の英雄が持つ、あまりに大きな重圧を、わずかでも軽減できる一歩だと信じ、静かに頷いた。