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翌日、病院の多目的室はにぎやかだった。𓏸𓏸は付き添いとして部屋の隅に座り、静かに涼ちゃんを見守る。
手芸クラブの日―― 同じくらいの年の高校生たちが集まり、布や毛糸をごそごそと広げていた。
笑い声が遠くで弾む中、涼ちゃんは一番端の席で、小さく縮こまって座っている。
指先で輪ゴムを引っ張ったり、丸めたり。
でも、他の子たちとも話さず、手芸道具には手を付けないまま。
輪ゴムだけが、涼ちゃんの現実と世界をつなぐ唯一の小さな“おもちゃ”になっていた。
そこに、白衣の先生が近づき静かに笑いかけた。
「涼ちゃん、今日はやらないの?」
涼ちゃんはかすかに首を振って、「……体調、あんまり」と小さくつぶやく。
先生は「そう、無理しないでね」とだけ優しく返してくれた。
静かな足取りで病室へと戻る涼ちゃん。
部屋に帰ると、𓏸𓏸が待っていた。
「おかえり。……楽しかった?」
しかし、涼ちゃんは言葉を返さない。
壁を見るようなまなざしで、ベッドにそっと腰かける。
心の奥が、何も動かないことに涼ちゃんは気付く。
(なにも……感じないや、ぼく)
自分の中に空っぽの箱がただ一つあるようで、
誰かの話し声も、手のひらの輪ゴムの感触も、
なんとなく遠くにあるだけだった。
それでも、隣には𓏸𓏸だけが静かにいてくれた。