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車から降り、少しあるくと砂浜に出た。
嘘みたい……
目の前に広がる光景にさらに感動した。
綺麗な白い砂に、波が優しく打ち寄せている。
少し肌寒いけど、気持ちが良い。
こんな素敵な場所なのに、周りには誰もいない。
「素敵。海なんて久しぶりだよ。何年ぶりだろう?」
「良かった。俺も久しぶりに見る。ここは小さい時に家族で一度だけ来た場所なんだ」
「そうなんだ……。そんな大切な場所に私を連れてきてくれたの?」
朋也さんはニコッと笑って、そして、再び海を眺めた。
遥か遠くの地平線を見ているのだろうか。
もうすぐ夕陽が落ちる。
一面、オレンジ色の空。
一番、幻想的な時間帯。
夕陽に照らされた朋也さんが、あまりにも綺麗で。
私は思わずその姿に見とれてしまった。
どうしてあなたはそんなに素敵なの?
長めの前髪が優しい風にフワリと揺れて、私は朋也さんを心から愛おしく思った。
「恭香。大好きなこの海に、いつかお前を連れてきたいってずっと思ってた。今日、それが叶ったから。恭香に言いたいことがある」
朋也さんの真剣な表情。
私も、体に力が入った。
「恭香、俺はもうすぐ副社長の任命を受ける。そしたら……俺と結婚してくれ」
「と、朋也さん……」
「まだまだ未熟だけど、俺は必ず一人前の男になる。大好きな恭香を、一生幸せにするから。俺の奥さんになってほしい。ずっとずっと……お前を愛してた。そして、これからもずっと愛し続ける」
体が震えて、涙が溢れた。
これって……
「朋也さん、本当に? 私で……いいの? 副社長の奥さんなんて、私に務まるかどうかわからないよ。こんな私が、あなたにふさわしい女性になれるのかな……」
「また言ってる。こんな私が……じゃない。恭香だからなれるんだ。他の女性じゃダメだ。初めて会った時から、恭香は俺の理想だから。副社長になればかなり忙しくなるけど、ずっとそばにいて支えてほしい」
朋也さんの誠実な言葉に、私は「うん」とうなづいた。
「私で良かったら、よろしくお願いします」
私、プロポーズされたんだ。
こんな素敵な場所で、しかも誕生日に――
幸せ過ぎて、ちょっと怖くなる。
「嬉しいよ。恭香、ありがとう。愛してる、そして、誕生日おめでとう」
そう言って、朋也さんは私を抱き寄せた。
ギュッと強く力を込めて。
そして、ゆっくりと離し、私の顔を見下ろして言った。
「すごく可愛いよ」
私も朋也さんを見上げて……言った。
「朋也さん……大好き」
その時、優しく、とても優しく、私の唇に朋也さんの唇が触れた。
初めてのキス――
2人のくちびるが重なる。
夕陽もあと少しで消えていく。
私達のシルエットは今、影絵みたいになっているのだろうか……
「恭香とずっとキスしたかった」
「照れるよ。そんなこと言われたら……」
朋也さんは、今度は両手で私の頬を包み、そして、さっきより激しくキスをした。
私は、朋也さんの腰に手を回す。
2人とも、押さえていた感情が溢れ出して止まらなかった。
***
それから、数ヶ月が経ち……
私と朋也さんは、身近な人だけを招待して結婚式をあげた。
あれからすぐに副社長になった朋也さんは、忙しい中でもちゃんと2人の時間を作ってくれ、結婚式に向けていろいろ話し合った。
すごく楽しい時間だった。
いろいろあったけれど、無事に今日を迎えられて、本当にホッとしている。
式の最中、社長がずっと涙ぐんでいるのが印象的だった。ずっと2人で支え合ってきた分の、安心とか寂しさとか……複雑な気持ちが混ざり合っているのだろう。
社長は、私を、娘ができたみたいだと、温かく迎え入れてくれた。
社長も、私にとって……とても大切な家族になった。
そして、もちろん朋也さんを小さな頃から育ててくれた梅子さんも、私との結婚をとても喜んでくれた。
みんなに祝福されて、私は朋也さんの奥さんになった。
新居は、社長宅の敷地内。
完成までは、私のマンションで暮らすことになった。
今日からまたここで、一緒に暮らすんだ。
私、絶対いい奥さんになるね。
朋也さんにとって、ずっと可愛い奥さんでいられるように頑張るから。