恭香と一緒に過ごした時間は、かけがえのないとても大切な時間だった。
マンションの部屋を出てからは、ただ、恭香が俺を選んでくれることだけを願っていた。
一弥君と俺、どちらを選ぶのか――
正直、不安で仕方がなかった。
情けないけれど、その気持ちを隠すためにひたすら仕事に打ち込んだ。
そんな時に、あの事件が起きたんだ――
とっさに恭香に電話したのは、自分の死が目の前に迫っている気がしたからだ。
この世から消える恐怖。
恭香に会えなくなるという恐怖。
だから、恭香の声を聞いた時は本当にホッとした。
俺はそのまましばらく眠りについて、生死の境をさまよって、そして……生きて、また恭香に会えた。
その感謝をいろいろ形にしたくて、まずは父さんに経営陣に入れてもらえるよう頼んだ。
父さんは、すぐに了承してくれた。
ずっとその言葉を待っていてくれたんだ。
喜んでいる父さんの顔を見たら、これから少しでも親孝行したいと心の底から思った。
俺は、副社長として父さんを支えたかった。
がむしゃらに仕事を覚え、社長と共にあちこち動いた。
恭香への感謝は、俺が副社長になって、結婚を申し込む形で伝えたかった。
なのに任命が決まってからも、あまりの忙しさに時間を作れず、なかなか実現できなかった。
すぐそこに迫った恭香の誕生日に、必ずプロポーズする。
俺は、そう心に決めていた。
プロポーズが失敗することは、なるべく考えないようにした。
自信を持って、俺は恭香にプロポーズした。
受け入れてもらえた時の喜びは……言葉にできないほどだった。
今、目の前には、自分の1番大切な人がいる。
結婚して、一緒にいられるという、とてつもない幸せな時間があることに感謝したい。
そして、この幸せを絶対に壊したくない――と、本気で思った。
「新しい家で、恭香や子ども達が元気に笑っているような明るい家庭を作りたいな」
「うん、私もそう思ってたよ」
「俺達は忙しい仕事だからな。でも、子ども達に寂しい思いをさせないようにしないとな」
「うん、でも、大丈夫だよ。私、子どもができたら成長するまでちゃんと子育て頑張るから。梅子さんみたいにね。朋也さんが忙しい分、私が家庭を守るね」
「仕事……辞めるのか?」
「ううん、子育てが少し落ち着いたら、在宅のコピーライターで頑張りたいと思ってる。だから……朋也さん、『文映堂』からのお仕事待ってま~す」
恭香が笑った。
母がいなかった分、俺はみんなに守られていたけれど、やっぱり少し寂しかった。
その思いを、子どもには絶対にさせたくない。
だから恭香の気持ちが嬉しかった。
「仕事はいくらでも回すよ。恭香がてんてこ舞いになるくらい」
「それは困るよ~。仕事も子育ても頑張り過ぎたら、女としての自分が保てないかも。髪の毛振り乱して化粧もしなくなったりして」
恭香が髪の毛を振り乱している姿を思わず想像して笑ってしまった。
「いいね、そんな恭香も。とにかく楽しい家庭にしたいんだ。恭香の笑顔があれば、化粧なんかしてなくても全然いいよ。すっぴんだって可愛いし。それよりも、いつも明るく元気に笑っててほしいんだ」
「うん、それなら任せて。私、朋也さんと一緒ならずっと笑っていられるから」
「本当?」
「うん、本当だよ」
隣にいる恭香が愛おしくてたまらなかった。
「好きだよ……」
「朋也さん……私も……」
俺は、恭香を優しく押し倒した。
そして、キスをした……
恭香のことを抱きたいと強く思った。
激しい衝動。
右手で恭香の顔を撫でる。
体をくっつけたら、恭香の体の温もりが直に伝わってきた。
体温、もっと直接感じたい……
俺は、恭香の白い肌にもキスをした。
そして、柔らかな胸の感触で、体の奥から熱くなるのを感じた。
「お前は俺のものだ。絶対に誰にも渡さない」
生涯、俺は恭香とずっと一緒にいたい。
いつまでもいつまでも一緒に……
恭香の吐息が耳元で聞こえる。
「朋也さん、私のこと離さないで……お願い」
「離すもんか、絶対に」
恭香と俺は、そのままお互い激しく絡みあい、心ゆくまで愛し合った。
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