TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「その話が本格的に動き出したら、是非とも聞いてみたい、とお伝え願いますか。投資したい意向があることも」

 

サイラスはそう告げると、体良く令嬢たちをあしらう。さらに「ちょっといいか」とジェシーの肩を掴むと、空気を読んだ一人の令嬢が席を立つ。

 

「実はさきほどから、あちらにあるお菓子が気になっていたので、どうぞこちらにお座りください」

 

スカートの裾を摘み、挨拶をしている隙に、別の令嬢が次々に立ち上がる。すると、その場はジェシーとサイラスだけになった。

 

「これからだというのに。それに見合った話じゃなかったら、怒るわよ」

「まぁ、そんな怒るな。お互い忙しい身だったんだ。少しくらい話をしても損にはならねぇよ」

 

サイラスはジェシーを宥めながら、向かい側にある椅子に座った。

 

「で、怪我はもういいのか?」

「えぇ。お茶会に間に合って良かったわ」

「そこは普通、中止するか、欠席するか判断するところじゃねぇのか」

 

相変わらず言葉は悪かったが、心配して言ってくれているのだと、ジェシーには分かっていた。が、それだけで機嫌が直るわけではない。

 

「あら、中止して欲しかったの? 参加したくて、色々と声をかけていた結果がこれでしょうに」

 

ジェシーは視線を会場に向けた。そう、お茶会がお見合い会場と化す原因を作ったのは、サイラスだった。

 

確かに、来るなら何人かリストアップしてくれると助かる、と言ったわ。だけど、きっちり令嬢の数と同じにしろとは頼んでいない。七対三の割合で良かったのに。

 

「そう嫌味を言うな。令嬢方だって楽しんでいる。結果的には良かっただろう。お互い」

「……どういう意味?」

 

サイラスの言う、お互い、とはどういうことだろう、とジェシーは訝しげに見た。

 

「令息が同じ割合でいれば、グウェイン嬢たちが動き易くなる、ということだ」

「今日は特に何も指示を出していないわ。コリンヌは、傘下にしてほしい家門を探していると思うけど。ミゼルとヘザーには注意するようにとしか」

「やっぱり、ヘザー嬢も関わらせていたか」

 

突然、空気が変わるのが分かった。

 

なるほど、サイラスはこの件に、ヘザーが関わっていることを知らなかったのね。でも不思議。確かヘザーは、サイラスから情報を引き出していたんじゃなかったかしら。

 

「ヘザーから聞かなかったの?」

「……セレナのことを聞かれたから」

「いい気になってべらべら話したんでしょう。それでバツが悪くなって、最終的に私に伝えて欲しい、なんて言った、ってところかしら」

 

険悪な空気なら、私だって出せるのよ、とばかりにサイラスの痛いところを突いた。それによって睨まれることになっても、ジェシーは手を抜くことはしない。

 

「あの夜のことをご丁寧に教えてあげれば、ヘザーだって何が起こっているのか、口を挟むのは当然でしょう。つ・ま・り」

 

間を空けた後、ジェシーはサイラスに人差し指を向けた。

 

「墓穴を掘ったサイラスに、とやかく言われる筋合いわないの! 分かった?」

「うっ、だからと言って、ヘザー嬢にフロディーを差し向けるのは、俺への嫌がらせか?」

「え? 何を言っているの。さっきも言ったでしょう。今日は何も――……」

「キァァァァァァァ!!」

 

指示は出していない、と言いかけた瞬間、遠くの方から悲鳴が聞こえた。

 

「何?」

「どうした!」

 

同時に立ち上がると、ジェシーは悲鳴の聞こえた方へと向かって歩き出す。すると、後ろから腕を掴まれる。そのサイラスは、近くにいた給仕を捕まえて尋ねた。

 

「分かりません。早急に調べますので、こちらにいて下さい。何かありましたら、すぐにお呼びしますので」

「誰か連絡係として一人寄こせ。あと、周囲に奴がいたかどうかも調べろ」

 

給仕ははい、と返事をするとすぐに駆けて行った。悲鳴の聞こえた、図書館のある方へ。

 

「もしかして、さっきのは」

 

サイラスの諜報員の一人? と口にしかけて、ジェシーは手で覆った。混乱に乗じて、誰か近くに潜んでいるかもしれないからだ。

そこでようやく、ジェシーは何故先ほど、サイラスに止められたのか、その真意に気がついた。

 

私が命を狙われたから。あの悲鳴が誘導の可能性もあるって、何故すぐに思いつかなかったのかしら。

 

「見張り兼護衛で、お前の周りに潜ませていた」

「ありがとう。念のため、毒が入れられることを想定して、ブレスレットを付けてきたんだけど」

 

右手を上げてブレスレットをサイラスに見せる。

 

「この魔石に毒が反応するように、細工をしたの。私だけじゃなく、コリンヌとミゼル、ヘザーに渡したブレスレットにも、同じ効果を持たせてあるわ」

「側近アピールだけじゃねぇとは思っていたが」

「だって、こういう人目が多い場所で出来ることと言ったら、毒だと思ったのよ」

 

そのため、製作時間が短くて済む、シンプルなデザインになってしまった。

 

「それでも、何かが起こった」

「えぇ」

 

ジェシーもサイラスも、もどかしい思いに駆られた。誰が被害に遭ってもならないことだったが、あの三人でないことを祈らずにはいられなかった。

 

どうか、無事でいて!

loading

この作品はいかがでしたか?

34

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚