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体育館に響くボールの弾む音。シューズが床をきしませる甲高い音が、観客席まで伝わってくる。
中学二年の春、瀬戸柚希は、初めて友人に誘われて訪れた大きなバスケットの大会にいた。
視線の先に立つ背番号「4」の選手──新島陽。
仲間からボールを受け取るたび、会場の空気が変わる。
迷いのないドリブル、力強いジャンプシュート。ひとつひとつの動きが鮮やかで、目を離すことができなかった。
点差が迫る終盤。陽は一瞬の隙を突き、鋭い切り込みから決勝点を決めた。
歓声が一斉に沸き起こり、仲間と笑い合うその顔が、柚希の目に焼きつく。
(……すごい。こんなふうに輝く人がいるんだ)
胸の奥が熱くなり、心臓が苦しいほど高鳴る。
名前も知らないその人を、柚希はただ必死に目で追った。
その瞬間から、彼女の世界は変わった。
──あの背中を、もう一度見たい。
瀬戸柚希の心に、静かな決意が芽生えていた。