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時は流れ、季節は冬。
煌びやかなホールには、雪の結晶を模した装飾と巨大なシャンデリアが輝いていた。
その舞台で行われるのは、クリスマスに相応しい演目――『くるみ割り人形』。
主役を任されたのは、本田菊。
静かに立つその姿は、氷像のような冷ややかな美しさを湛えていた。踊りで感情を露わにすることはない。だが、その奥に燃える闘志は、誰よりも強い。
そしてもう一人。
悪役の衣装に身を包み、鋭い笑みを浮かべる銀髪の青年。ギルベルト・バイルシュミット。
再び同じ舞台に立つことになるとは――彼ら自身も予想していなかった。
舞台袖で、二人は一瞬だけ視線を交わした。
「またチビ王子かよ。ほんと因縁だな」
ギルが肩をすくめる。
「……負けません」
菊は短く、それだけを返した。
音楽が流れ、幕が上がる。
観客の視線が一斉に集まり、物語が始まった。
菊の踊りは、相変わらず正確で清廉。
一歩一歩が研ぎ澄まされ、観客の心を静かに支配していく。
対するギルベルトは激情を爆発させるように、舞台を縦横無尽に駆ける。荒々しくも華やかで、その一挙一動が喝采を呼んだ。
舞台の中央で、二人は対峙する。
物語の上では「善と悪」。
しかし観客は知っていた。これはただの物語ではない。二人の魂がぶつかり合う、真の勝負だということを。