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美冬はきゅっとコックを捻ってシャワーを頭から浴びた。 


槙野にはどんどん魅力的なところを見せられるのに、自分は槙野に情けないところしか見せられていないのが切ない。


酔っ払ってベッドに放り込まれるとか……。

しかも、腕がちぎれるとか言われたわ。


──契約……だもんなぁ。槙野さん、事情があると言っていたし。


コンコン、とバスルームのドアをノックされて、外から「美冬」と呼ばれて、美冬はどきっとして、慌ててシャワーを止めた。


「はいっ」

「着替え、ここ置いとくから。しっかり温まって出てこいよ」

「はーい。ありがとうございます」


* * *


リビングに戻った槙野はソファに身体を投げ出す。

酔っ払った美冬はとんでもなく可愛かった。


少し舌っ足らずな喋り方と甘えるような仕草と。

隣に座ってそのくるくると変わる表情を見ていた。


たくさん食べてたくさん飲んで、楽しかったら笑って、槙野に偉そうとか感じ悪いとか面と向かって言ってくるような人は意外といないものだ。


そんなことすら、美冬にはなぜか腹も立たない。

小動物みたいだからだろうか。

小さくて白くてぴょんぴょんしていて、くりんと大きな瞳でじっと見てきたりする。


一緒にいてもさすがに経営者なだけのことはあり、美冬は頭の回転も早く会話に困るようなこともない。

意外と話していて楽しい。


帰りのタクシーの中ではふわん、と寄りかかってくるので、胸元にきゅっと抱いたら、甘えるように頭を擦り寄せてきた。


契約なのに。

契約だからこそ今日は美冬の祖父のところに挨拶に行ったのに、あんな風に甘えられたら、誤解してしまいそうになる。


それでも、槙野は美冬を手離すつもりは一切なかった。

自分ばかりがどんどん美冬を好きになっていってしまって、美冬に気持ちがないのが少しだけ切ない。


タクシーの中ですっかり眠ってしまった美冬を抱き上げて部屋まで連れていった。


そっとベッドに寝かせて、ジャケットを脱がせて、靴をぬがせても、起きないにいたっては大丈夫か、こいつ? と槙野はちょっと不安になったものである。


「お前さぁ、俺に襲われてパクって食われちゃったらどうすんの?」

美冬の寝ているベッドに腰掛けて、すやすやと眠る彼女の唇をふにふにと指でつつく。

その時美冬の口から声が漏れたのだ。

「それは食べちゃダメ~……私のだって……」


槙野は笑ってしまった。

「どーゆー夢みてんだよ、お前は」

こんなに可愛くて愛おしい存在になるなんて思わなかった。


「そうだな、もしお前を食べるとしたらこんな状態じゃなくて、しっかり意識もあって、絶対に忘れられない状況でさせろよな」


そう言って槙野が美冬の頬を撫でたら、なんだか迷惑そうに眉間にシワを寄せているので、もう本当に槙野は笑ってしまった。


今日は美冬の祖父に挨拶に行き、そのまま食事に行って帰ってきてしまった槙野だ。

まだ仕事が残っていたから、槙野はそれを自宅の作業スペースで確認していく。


少し経つと「槙野さん……」と美冬が起きてきた。

寝起きの美冬もぽやんとしていて、愛らしい。


抱き上げて連れてきたことを気にしているから、重かったとからかったら、ささっと早足で寄ってきて、真っ赤な顔でぺんっと肩を叩かれた。

その恥ずかしそうな顔も可愛い。


それにそんなものは叩くうちには入らなくて、むしろスキンシップに近い。

こういうの、他ではやらせないようにしないといけないなと思う。

相手が男なら誤解してもおかしくない。


泊まっていくだろう? と聞いたら、美冬はとても戸惑っていた。


けれど当然のようにリードしたら、美冬は素直にありがとうと言ってバスルームに入ってゆく。

今日、何度か美冬の口からありがとうという言葉を聞いた。


美冬はそれをとても素直に口にする。

そんなところもとても良いと槙野は思うのだ。


しゃーっとシャワーの水音が聞こえてきて、シャンプーの香りがする。

いつも自分が使っているもののはずなのに、美冬が使っているかと思うと、槙野は妙に鼓動が大きくなるのを抑えられない。


それにバスルームから漂ってくる香りがいつもより良い香りのような気がするのだ。

本当にいつもならこんなことはないのだが。


それでもそんなことは一切出さずに、槙野は美冬の着替えを準備した。

そしてバスルームをノックする。


「着替え、ここ置いとくから。しっかり温まって出てこいよ」

そう言ったら、またありがとうと言われた。


落ち着かない気持ちのまま、リビングのソファに座っていると、ふわん、と風呂上がりの温かさとボディソープの良い香りがする。


「お先でした」

「おう」

そう言ってリビングの入口に槙野は目をやる。

──マジか……。ヤバすぎ。


小柄な美冬では槙野の着替えは大きすぎて、意図的ではなかったはずなのに、その彼パジャマな状態が思いのほか可愛すぎたのだ。


契約……。この関係は契約だ。

だが、もう取り消すことはお互いにしない契約だ。

そう槙野は心に強く言い聞かせる。


はーっと槙野は大きく息を吐いた。

「槙野さん? どうしたの?」

そう言ってリビングのソファに座っていた槙野の横に、美冬はちょんと座って首を傾げる。


萌え袖をなんとかしろ。

そして両手を膝の間に置いてこっちに身体を倒すな。

谷間が丸見えなんだよ。

いい匂いをさせて近づくんじゃないっ!



契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

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