実家の青森の星空が綺麗だと言う悠真くんにつられ、東京の星空は今日どんな感じ?とばかりに私は顔を上げた。
顔を上げるとそこには端整な悠真くんの顔があって。
あ、美しい顔!
そう思ったら……。
その美しい顔が近づき、手をぎゅっと握られている分かり、視線を落とした瞬間。
私の唇に悠真くんの唇が重なっていた。
まるで羽毛がふわりと触れたかのような、極上の触れ心地。
ドクンと心臓が脈打つと同時に、その柔らかさは離れていく。
え、もうお終い!?
3秒ぐらいでは!?
あまりにも呆気ないキスに驚き、悠真くんの顔を見てしまう。
すると甘く輝く、悠真くんの黒い瞳と目が合った。
「もっと、したいですか?」
とろけるような声で囁かれ、もう心臓が爆発しそう!
もっとしたいかって、キスのことよね!?
それは当然、してほしい!
だって、3秒足らずのキスなんて!
事故みたいなもの。
出会い頭でぶつかって、うっかりキスしちゃいました!レベルでは!?
足りるわけない! もっと、もっと、もっと、キスして欲しいです!
というわけで本能に忠実に答えてしまう。
「……したいです」
「止まらなくなっても大丈夫ですか?」
!?
止まらなくなるってどういうことですか!?
こ、ここはパブリックな場。
となりのソファ席にもお客さんはいる。
そちらはチラリと見たが、やはりカップルだった。
同じようにチューしているかもしれない。
でも、そこまでよね!?
そこから先、この場であるはずがない!
という考えをスーパーコンピューターもビックリな速度で考え、止まらなくなるといっても、キスを繰り返すぐらいだろうと答えを導き出す。
「……止まらなくてもいいです」
3秒キスでは物足りない! もっとキスして欲しい、止まらなくてもいいと答えていた。
「アリス、可愛い」
ここでいきなり名前呼びされ、それだけで気持ちは昇天していたのに! 気分盛り上がりまくりの状態での再びのキス。ふわりとあの極上の触れ心地の唇が重なり、もう本当にたまらない!
なんて柔らかく、温かく、触り心地がいいの!
仕事柄なのかもしれない。
でも絶対に唇のお手入れをしていると思う。
蜂蜜を塗ってラップで唇パックとか、していそう!
「!」
さっきよりは長い。でもまた唇が離れてしまう。
そんな……! 3秒から10秒に増えたぐらいでは、た、足りないです!
足りませんよ、悠真くん!とばかりにその顔を見上げると、実に魅惑的な笑顔がこちらへ向けられている。
はしたないかもしれないが、もっとキスをください!とばかりに少し、唇を開くと、悠真くんはクスリと笑う。もう、心臓が止まりそうになる。
でも「よく頑張りました」とでも言うように、悠真くんの唇が私の唇にふわりと重なった。
あああああ、これはまるでベルベッドのよう!
悠真くんの素敵な唇にすっかり酔いしれる。
キスのテク以前に、ただ唇が触れているだけなのに。
こんなに私を興奮させるなんて!
なんて罪な唇をしているの、悠真くん!
「!」
な、どうして……!
またも悠真くんの唇は私から離れていく。
多分、15秒ぐらい? 最初の3秒に比べれば、大幅アップ。なにせ5倍!
でも足りない。全然、足りませんよ!!!!!
足りませんよアピールで、悠真くんが着ているコートを思わずギュッと掴むと。
悠真くんがフッと笑みを漏らす。
その仕草にゾクゾクと腰のあたりが落ち着かない。
なんて艶っぽい!
そう思った瞬間、悠真くんの唇が重なり……。
その後もこの繰り返し。足りないと私がどんどん悠真くんの手を握ったり、胸に手を添えたりすると、彼は笑顔と共にキスをしてくれる。でもその時間は、その前のキスよりほんの少し増えるだけ。キスの時間を増やしてくれるが、それは実にじりじりで。
足りない、もっとの繰り返しで、唇が触れるだけのキスなのに、まるでベッドを共にした直後ぐらいまで興奮してしまった。
悠真くんは私より年下なのに!
まるで百戦錬磨だ。
どこでこんなテク、覚えたの!?
「夜景を見に来たのに。夜景そっちのけで、アリスのことしか考えられませんでした」
しかもこのじれじれキスの後から、悠真くんの私の呼び方が変わった!
さらに。
「アリスも僕のこと、悠真って呼んでくれますか?」
甘々で耳元で囁かれ、耳が喜んでいる!
「も、勿論よ、ゆ……悠真」
ご希望に沿って名前で呼ぶと、「嬉しいです、アリス」と耳朶にキスをして、さらにパクリと甘嚙みされた!
もうその瞬間、全身に電気が走り、思わずエロい声まで出てしまった。
あまりの恥ずかしさに悠真くんに抱きつくと「アリス、そんな声、ここではダメですよ」なんて言いながら、ぎゅっと抱きしめられて……。
完全に本当に理性が吹き飛びそうになる。
ここが部屋の中だったら、間違いなくベッドインしてしまいそうな濃密な雰囲気が出来上がったところでタイムアップ! このソファ席の利用は50分までだった。
残念だが席を立つと、隣のカップルが顔を真っ赤にして、私達のことをチラチラと見ている。でも、悠真くんは既にマスクを着け、完全にオーラを消していた。今はただの可愛い系眼鏡男子に戻っている。
でもきっと隣のカップルは、ただ唇が触れるだけのキスを繰り返しているのに、とんでもなく濃密でディープでエロティックな雰囲気になっていることに、驚いていたに違いなかった。いや、私も本当にビックリです。悠真くんがこんなにキスだけで私を興奮させられることに!
かなり気持ちが盛り上がっている。しかも恋人つなぎをしていた。おかげで展望ギャラリーという展示エリアを見て回っている時も、展示物のことが頭にしっかり入って来ない! それでもそこに展示されているものを見て感じたことがある。なんというか部屋の中にアートとして取り入れたくなるような、実に不思議な展示ばかりだったと。
さらにおみやげ屋に立ち寄ると、悠真くんは渋谷展望台のスノードームを私にプレゼントしてくれた。なんでも悠真くんは遠方にロケに行き、スノードームを見つけると、つい買ってしまうらしく、部屋にはスノードームを飾っている棚もあるのだという。
スノードームを集めるのが趣味なんて。
なんともメルヘンで可愛らしいと、さらに悠真くんのことが好きになってしまう。
「では、家に帰りましょうか」
「はい!」
ノー残業デイからの渋谷デート。
時間としては2時間ぐらいだったが、最高に楽しかった。
「晩御飯は……これから帰ってからだと遅くなっちゃうので、この前のラーメン屋、行きませんか?」
「賛成! 私、今日はつけ麺食べようかな」
「いいですね。僕もつけ麺にしよう」
ラーメンを食べた後はあの日と同じ。
手をつないで歩いてマンションまで帰る。
途中、悠真くんが告白してくれたあの公園に寄って、まるでその日を再現するかのようにブランコに乗り、そこで悠真くんはもう一度私に告白。前回とは違い、私は悠真くんの告白に即答で「私も好きです!」と返事をする。すると悠真くんは「嬉しいです、アリス」と言い、私のことをぎゅっと抱きしめた。そしてあのふわりと優しいキスをしてくれる。
これまでで最長の30秒! それでも30秒! 全然、足りないが、やはり犬の散歩の人がやってきて、撤退。
途中のコンビニでレモンサワーを一本購入し、家に着いたら半分ずつ飲むことにする。
もうすぐ家に着く。
悠真くんは今日、やはり私を抱き枕にしたいと、部屋に泊まるのかな。
そうなったらさっきみたいにキスをして、でも時間制限はないから……。
もっと踏み込んだキスをして、その先も……あるのかな?
そんなことを考えると、心臓はドキドキ、全身が熱くなる。
こんなにドキドキしていること、悠真くんにバレていないかしら?
思わず悠真くんの顔を見上げたまさにその時……。