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「俺、明日マジで行けなくなった……。ごめん。ふみちゃんに頼んでもいい?」
颯斗が頭を下げるように言ってきたのは、子どもの授業参観の前日。
ママは小さく笑って、スマホを耳から離す。
「わかってる。あの子、ふみやのこと大好きだし、喜ぶよ」
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当日、ふみやと一緒に校門をくぐる。
「ほんとにごめんね、急に頼んで」
「ううん。むしろ嬉しいくらい。……あの子、ちゃんと発表できるかな」
ふみやの方が少し緊張してて、それがなんだかおかしくて、ママはくすっと笑う。
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教室に入ると、子どもが前に立って発表を始めた。
「わたしの大好きな人は──ふみやくんです」
(え?)
その瞬間、思わず隣を見ると、ふみやがぴたりと止まっていた。
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「ふみやくんは、やさしくて、ちゃんと話をきいてくれて、
わたしが泣いたとき、ぎゅーってしてくれます。」
「ママやパパも大好きだけど、ふみやくんは……ちょっととくべつです。」
「わたしは、おとなになったら、ふみやくんみたいになりたいです。」
言葉を失って立ち尽くすふみや。
ママはそっとその袖を引いて、笑いながら耳元でささやく。
「……よかったね。ふみやのこと、ちゃんと見てくれてる」
「……やば……こんなん、泣くに決まってるじゃん」
目を潤ませて子どもを見つめるふみやの横顔が、
なんだかママには“家族以上の何か”に見えた。
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🌙夜。寝静まった家で──
「……でね? ふみやが泣きそうになってるの、めっちゃ可愛くてさ」
リビングでコーヒーを飲みながら、ママは颯斗に今日の出来事を話す。
「マジで?作文、ふみやのことだったの?」
「うん。本人はサプライズしたつもりだったのに、逆にサプライズされてた」
「ははっ、あいつ……嬉しかっただろうな」
颯斗はソファに体を預けながら、ふっと目を細める。
「……なんかさ、俺の子どもだけど、
ふみやのこともちゃんと家族って思ってるんだなって、安心したわ」
「うん。あの子にとって、ふみやは“いて当たり前”の存在なんだと思う」
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ふみやに向けた作文のコピーは、今、子どもの部屋の壁に飾られている。
隣には、ふみやが授業参観の帰り道に「飾ってあげて」ってそっと渡した、
ミニチュアサイズの“金色の星”のシール。
ふみやは言っていた。
「今日、ほんとに一等賞だと思ったから。あの子の発表」