この頃、ふと考えることがあるんだ。
何故、弱者は虐げられなければいけないのか?
彼らだって、弱者として生まれたくて生まれたわけじゃない―――
弱者になりたくて生きてきたわけじゃない―――
普通の暮らし―――、普通に勉強して、普通に恋愛をして、普通に働いて―――
家族で笑い合えるような生活がしたかっただけなんだと思う。
それなのに世界は弱者に厳しい。
弱ければ、全てを奪われる―――
そして、決まり文句のように悔しければ強くなれと言う。
そんなに弱者が悪いのか?
彼らが君らに何か悪いことをしたのか?
弱いことは”悪”なのか?
世界は弱者を許さないのか?
だったら、強ければそれは”正義”なのか?
認めたくない―――
そんな世界認めたくない―――
強いだけじゃダメだ―――
信念が無いんだ・・・。
だからオレは自分の正義を死ぬ気で貫くよ―――
オレとルイーズさんは、村(ロレーヌ村というらしい)を目指して森の中を歩いていた。
村の周辺まで着くと、ルイーズさんは村に起こっている異変を感じていた。
「ススム!何か村の様子がおかしい―――」
ルイーズさんは、小さな声でオレに耳打ちをしてきた。
「おかしい?」
オレはルイーズさんに聞き返した。
「村の方から煙が出ている。」
「何かあったのかもしれん、急ごう―――」
ルイーズさんはとても慌てていた。
だからオレ達は、急いで村の方に向かった。
村の入り口まで来ると異変の正体が分かった。
村人たちが山賊に襲われていた。
ルイーズさんは、それを見るや否や村人たちを助ける為、山賊達へ応戦を始めた。
「ルイーズさん―――」
オレもルイーズさんには助けてもらった恩もあるし、罪のない人達が殺されたりするのを黙って見ていることができないので、山賊たちを排除する方向で動くことにした。
対人間は久しぶりだ―――
しかも相手は人の金品を強奪したり、罪のない人の命を平気で奪うような”悪人”。
「あぁ、この世界もこんなに理不尽なのか―――」
オレは首を軽く回し、拳や指をポキポキ鳴らす。
「相手が悪人なら心置きなくやれそうだ―――」
進は戦闘態勢に入った。
そんな時、同じくらいの歳の少女とその母親が山賊に殺されそうになっているのが視界に入った。
「やめて!お母さんを殺さないでッッ!!!!」
「お前が素直に食料と娘を寄越さないからだぞっ!」
「やめてーーーっ!!!」
少女の悲痛な訴えを聞こうともせず、その少女の母親に刃が向けられ、振り下ろされた。
少女の周りに鮮血が噴き出し、少女の母親は首からバッサリと切られ殺された。
オレも助けに入ろうとしたが、間に合わなかった。
少女の顔は口惜しさからくる悲しみとどうしようもない現実を突き付けられた虚無感で唯々黙って涙を流している。
それを見たオレの中で何かがキレた。
あぁ、とても悲しい―――
まただ―――
また、いつもみたいに弱者が虐げられている。
オレは堪らなくそれが許せない。
「何故、普通に暮らしていた人が突然誰かに殺されるんだ―――?」
「何故、この世界ではこんな理不尽なことが平気で起こる?」
「誰があの少女を殺した山賊を裁く?」
「この世界には警察は存在するのか、司法は存在するのか?」
「もし存在しないなら、オレがあの山賊を裁いてやる!?」
正義感が人一倍強い進は、そう心に決めた。
「何やってんだァーー!!お前らアァァーーーっ!!」
村の中ほどで全ての村人と山賊に聞こえるようにオレは叫んだ。
そして、オレの頭の中でスキルのレベルアップを知らせる声が聞こえた。
「《挑発》のレベルが3になりました」
「《挑発》のレベルが4になりました」
「《挑発》のレベルが5になりました」
「《挑発》のレベルが5になったことで、使用範囲が半径500mまで有効になりました。」
不思議と怒りが心の底から沸いてきた。
オレは、力が欲しい。
この事態を瞬間で解決できるそんな力が欲しい。
この世界に神が存在しているならさっさとオレに力を寄こせ―――
まぁ、そんなもの寄こさなくたって自分の力で道は切り拓くが―――
なんたって、オレは”天才” 天童 進だから。
そんなオレの心の声が聞こえたのか、また頭の中で声が聞こえた。
今度はスキル習得を知らせる声だ。
「スキル《鷹の目》を習得しました。」
《鷹の目》
自分の周囲を多角的に見渡すことができるスキル
レベルが上がるごとに見える範囲が拡大
もうこれ以上村人を傷つけず、この状況を一瞬で解決できるかもしれない。
そう思い、オレは試してみた。
「《鷹の目》発動!」
そう言って村の内部を確認することに成功した。
「見えるぞ。全ての村人、山賊の位置が見える。よしこれならいける」
「《高速演算》発動!」
全ての山賊の位置座標を頭の中で計算する。
そして山賊の座標を全て特定することができた。
「座標さえ分かれば、あとは簡単だ―――」
「白魔法:ライトバインド!!」
全ての山賊の体の周りの光の輪を出現させ、光の輪で山賊を縛り上げた。
「クッソ!なんだこれ動けない。」
山賊たちは口々にそう言った。
山賊たちを全て無力化した後、すぐに少女の母親のところに行き、オレは癒しの白魔法を唱えた。
しかし、目を覚まさない。
「やはり、もうダメか・・・。」
少女の母親の脈を取るが完全に止まっている。
進は目の前の少女一人救うことができない自分に無力感を感じる。
そこに戦いが終了したことで、ルイーズさんがこっちの様子を見に来た。
「ススム、他の負傷者の傷も治してやってくれないか?」
「まだ、救える命はある!」
「いいのかルイーズさん?」
「この白魔法は他人にあまり見せない方がいいといったのは貴方じゃないか?」
「この村にそんな悪い奴はいない。ススム、頼む!」
「わかったよ。貴方には助けてもらった恩もあるし。」
オレは山賊を縛り上げたみたいに鷹の目と高速演算を利用し、全ての村人に癒しの白魔法を唱えた。
「おぉなんだこれは奇跡か!」
「傷が癒えていく」
村人たちは口々にそう言った。
この事件は20名の死者と35名の負傷者で幕を閉じた。