次の日、私は、いつものように朋也さんと一緒に出かけた。
いつもと同じ行動なのに、今日は少し違う。
なんというか、朋也さんの存在が大きくて……
とても安心感がある。
会社に着くと、チームのみんなが揃っていた。
もう少しで、とりあえず今のチームは解散。
また新しい企画で違うチームが組まれる。
「恭香先輩。もうすぐシンプル4のCM流れますね。めちゃくちゃ楽しみですよね~。お菓子売れるといいな~」
愛くるしい梨花ちゃんの笑顔。
この前のCM撮影の時の辛辣な言葉が、正直頭の片隅に残ってはいるけれど、それは……もう忘れたい。
「そうだね。梨花ちゃんのコピーすごく良かったし、CM大成功だったから絶対お菓子も売れるよね」
「あ~、なんかちょっとイヤミっぽい~」
梨花ちゃんが、嫌な笑い方をした。
「ど、どうして?」
「私のコピーが選ばれたこと、未だに嫉妬してません? でも、先輩には負けませんよ。実力があればちゃんと採用されますもんね。次も頑張りま~す」
私に手を振って、ニコニコしながら去っていく梨花ちゃん。
それを見て呆然と立ちすくむ私。
「梨花ちゃん……」
もちろん、嫉妬してるつもりはない。
本当に梨花ちゃんには実力があるから。
それは……私だって認めている。
でも、私も、コピーライターとして誰かを輝かせたいという思いがある。
だから、次は頑張るよ。
確かに……先輩として負けたくない気持ちもあるから。
それにしても梨花ちゃん。
最近、私に対してキツさが増してきたような気がする。
敵対心剥き出しというか。
こんな感じの梨花ちゃんと、これからどんな風に向き合ったらいいのだろう。
「恭香、どうした?」
朋也さんが、心配して声をかけてくれた。
不安そうな顔をしていたのだろう。
社内でこんな顔をしていたら周りの士気を下げてしまうのに……
「だ、大丈夫。何でもないから。ごめんなさい」
私を見つめる朋也さん。
きっと、ヘタな嘘がバレているのだろう。
「……そっか。何かあったら言えよ」
「う、うん、ありがとう」
今の私には、その優しさがとても嬉しかった。
傷ついた心が救われる。
わざわざ梨花ちゃんのことを朋也さんに知らせる必要はない。
「おはよう、恭香ちゃん
その声に振り向くと、一弥先輩がいた。
「あっ、先輩、おはようございます」
「昨日、恭香ちゃん休みだったよね?」
「はい。お休みいただきました」
「久しぶりにゆっくりできた? ここのとこCM撮影とかでバタバタだったし、恭香ちゃん、疲れが溜まってただろうから……。ちょっと心配してたんだ」
「あ……すみません。先輩にまで心配かけてしまって。でも大丈夫です。全然元気ですから」
やっぱり最近は疲れた顔をしていたのだろう。
本当にみんなに心配ばかりかけて情けない。
「そっか……だったら良かったよ。昨日は……どこかに出かけたの? リフレッシュできた?」
「……そ、そうですね。買い物とかして……リフレッシュできたと思います」
水族館に行ったことは……内緒。
「買い物、いいよね。買い物して好きなものを買ったりしたら、リフレッシュできるよね」
一弥先輩の優しい笑顔に心から癒される。
この笑顔が、いつまでたっても頭の中に接着剤で貼り付けられたみたいに離れない。
本当に……先輩のことを忘れられたらどんなにラクだろう。好きな人を忘れるとか忘れられないとかは……理屈ではないんだ。
私は本当にダメだ――
朋也さんに告白されても返事ができないままで。
いったいどうしたらいいんだろう。
自分の気持ちを上手くコントロールできない自分が心底嫌になる。
一弥先輩には告白されたわけでもないのだから、フラれる可能性だってある。それでも、私は本能が赴くまま、朋也さんと一弥先輩、いつかどちらかを選べるようになるのだろうか?
どちらかを選ぶなんて……
本来なら、たいした女ではない私が悩むことではない。
だけれど、いつも2人が私の心の中に浮かんできて……
ゆらゆら揺れたままで、仕事に集中できないのは確かなことだった。
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