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2月5日、クロネコさくらさん・韓日
お誕生日おめでとうございます。粗品ですが韓日にちょっかいをかける中国さんです。書き方は一旦戻してみました。
世界で初めて会議を踊らせたのは19世紀のガキどもだったが、生き物はたかが2世紀ほどでは変わらない。
今日の会議もウィーンのような豪奢な伴奏があるわけでもないのに踊りに踊り、カオスを極めた末強制中断を喰らったのである。
ちょっとした大学の講義室よりよっぽど広い会議室には水分や糖分を摂る者とニコチンを摂りに行く者とで顔ぶれは忙しなく入れ替わり、落ち着くことを知らない。
三人掛けのソファの真ん中を陣取り、背もたれにだらりと体重をかけた。
一応注釈を入れておくが、全てあのサングラスのガキが悪い。
孔子は言った。ガキはまともな大人に従うべきだと。
「いや、あれは中国さんも半分以上悪いですよ。」
「心外だな。」
そういえばこいつは漢文がわかるのであった。今度から悪口は適当な方言で呟くことにしよう。
ちらりと一瞬革製の座面に投げられた視線を汲んで少しだけ身体をずらす。
「あと1時間は頭を冷やせだそうです。」
「はーん……。国連の野郎、我が1時間で全部忘れる鳥頭だと思ってやがるな。」
「さっさと3歩歩いてください。定時までには終わらせましょう。」
「安心しろ。見たいテレビがある。」
瞳の色を胡乱げなものに変えた日本を、暇つぶしが服を着て歩いてきたと軽く笑う。
「韓国とは順調か?」
その一言で日本の頬がぶわりと赤くなった。お面を付け替えたようで面白い。
ちょうどいい。今はあのちゃらちゃらした駄犬もいないようだし、前々から気になっていたことで揶揄ってやろう。
「お前たち、最近残業しない日絶対かぶってるよな。」
「…そうでしたっけ。タイムカード確認なさいますか?」
「その辺のちょろまかし方は知りたい。」
ピシりと音を立てて澄ました仮面に亀裂が走る。
あまり小突きすぎると引きこもられてしまうなと引き際を定めあぐねていると、日本はこちらの手に何かを押しつけてきた。
恨みがましい視線に従いてのひらを開くと、ころりとしたあめ玉が転がっている。
「どうぞ。うちのもの程ではないですが美味しいですよ。」
うすい透明な膜に保護された大ぶりな水色は確かに美しいが、暇つぶしとしての能力は目の前の子猫には及ばない。
「そうか。なら再開後にあのサングラスをかち割りたくなったら食べよう。」
そう言って賄賂をポケットに突っ込むと日本はようやく観念したように息を吐いた。
「どうせ気付いてるの中国さんだけでしょう?」
「我の目は誤魔化せない。」
「何でわかるんですか……。暇つぶしついでに教えてくださいよ。」
心底不思議、と訴える黒い両目に呆れた表情の自分が映っている。
「明らかにデレてるだろ。韓国の方が。」
「えー……そうですか?」
日本は満更でもなさそうに首を傾げると、笑みの漏れる口元を覆いながらちょいちょいと手招きをした。
別に機嫌を取ったつもりはないのだが。何だこいつ。案外乗り気ではないか。
昔のように悪戯っ子じみた表情を浮かべた日本に身を寄せると、耳慣れた足音が鼓膜に触れた。
あまりにも良いタイミングでの登場に顔を上げざるを得ない。
韓国の歩く姿を見て毎回湧くのは無駄のない動きだなというありきたりな感嘆だ。
速いくせに歩幅が乱れるわけでもなく、急いでいる印象を与えない虚飾を排した効率の良い歩き。本人の性格らしい歩き方だと思う。
だが今日はその足の運びが少し乱れた。そして僅かに立ち止まり、ポケットを探るようにスラリとした指が動く。
何かを考え込むように少し顰められた眉根とこちらに進路を変えた足先に、またおもちゃが服を着てやってきたと目を細めた。
「……日本。」
ビリ、とナイロンの裂ける音がして一瞬韓国の手元に薄紅色の球形が見えた。
そして日本は顎先に添えられた指を特に疑問に思う様子もなく、ただぱかりと口を開ける。
韓国はそっと桜色の唇から手を離すとこちらの反応を省みることなくエレベーターに続く曲がり角へと姿を消していった。
両者に一つの滞りもない流れるような一連の動作。
期待していたようなやり取りはなく、肩透かしを食らった気分だ。
「何だあれ。」
説明を求めようと日本の方を向くと、懸命に口をもごもごとさせていた。
薄い頬が片方、リスのようにぽこりと膨れている。小動物じみた格闘は中々終わる気配がない。
何かを口に放られたように見えたが、少し前に流行っていた何とかグミではないらしい。
「おい。今更行儀でとやかくは言わないから説明しろ。」
日本は往生際悪く大きな塊を溶かそうと努力し、諦めたらしい。口元を手で覆って不明瞭な説明をされる。
「……まだ…時間かかりそうだから、これで我慢しとけ、…だそうです。」
意気地なしなりの我への威嚇かと思ったが、どうやらこいつらなりの会話だったらしい。
「我慢……。余計なこと話すなってか。」
「嫉妬ですかねぇ。」
「よく言う。……あ。『うちのものほど』って…お前、一緒に買ったやつか?」
わざとらしく握られた同じ包装紙に、上手く関心を逸らされたと反射で突っ込んでしまった自分に少し後悔した。
「バレちゃいましたか。」
先月遊びに行った時に、とさらりと惚気てみせた日本は少しも困った様子もなく小さく笑った。
ふんわりとほのかに漂ってくる香りはどこか懐かしく、人工甘味料丸出しのくせして妙に惹かれる。
仕方がない。今回はこれで勘弁してやろう。
薄紅色の拘束具を楽しげに転がす日本を側目に、淡い青をポケットから取り出した。
賄賂にしては少し純情すぎる味がするが、貰ったものにはそれなりの仁義を尽くすべきだ。
ふたり並んでころりからりとあめ玉を踊らせる。会議はまだ始まらない。
(終)
コメント
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本当にありがとうごさまいます!!!😭😭😭やっぱりにわちゃんの小説は言葉の一つ一つに重みがありながらも、すっと頭に入ってくる文章力が感じられて好きだなぁ… 琥珀さんの誕生日もあったのにありがとう🙏忙しかったよね💦申し訳ない