テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ぼんやりとした焦点が、徐々に結ばれていく。 視界に飛び込んできたのは、見慣れぬ無機質な天井だった。
(……ここは、どこだ?)
混濁した思考がはっきりしてくるにつれ、断片的な記憶が繋ぎ合わされる。 生徒会室で御堂蓮と対峙し、背後から襲われ――そうだ、何か怪しげな薬品を嗅がされたのだ。
身体を起こそうとした理人は、即座に異変に気づいた。両手首が後ろ手に、食い込むような硬いロープで拘束されている。
「……っ!?」
焦燥が津波のように押し寄せ、心臓の鼓動が耳の奥で激しく打ち鳴らされる。
(落ち着け、冷静になれ……)
自分に言い聞かせ、震える呼吸を整えながら周囲を睨んだ。 整然と並ぶファイル、壁一面を埋め尽くす巨大な書架。窓のない密室。
事務的な電灯はあるが、明かりは灯されず、室内は重苦しい仄暗さに包まれている。
「……へぇ。案外冷静なんだな。ケンジは泣いてパニックに陥ってたのに」
背後から響いた、低く艶やかな声。 理人が弾かれたように振り返ると、闇の底からゆらりと人影が動き出した。
「アンタは……」
「僕は御堂蓮。この学校の生徒会長だ。お前も顔くらいは見たことがあるだろう? 鬼塚理人君」
「……っ、こんな所に連れてきて、どうするつもりだ!」
ぎり、と奥歯を噛み締め、射抜くような視線を向ける。蓮はふふふ、と喉を鳴らして笑った。だが、眼鏡の奥の瞳は一切笑っていない。
(この男は、危険だ。関わってはいけない――)
本能が警鐘を乱打する。だが、体内に残る薬物のせいで全身に力が入らず、指先一つ思うように動かせない。
蓮は理人の焦りを愉しむように、冷酷な笑みを湛えたまま目前にしゃがみこんだ。 強引に顎を掴み上げられ、至近距離で顔を覗き込まれる。 ふわりと漂う、上品なシトラス系の香り。一瞬だけ心臓が跳ねたが、すぐにそれは激しい嫌悪へと塗り替えられた。
漆黒の双眸が、値踏みするように理人の全身を舐め回す。 服の下の肌まで直接触れられているような、不気味な感覚に肌が粟立った。
「その反抗的な目……いいね、気に入った」
唇の端を吊り上げ、満足げに呟いた直後――蓮が、理人の上にのしかかってきた。 後ろ手に縛られた身体は、抗う術もなく床に叩きつけられる。
「……っあ!」
背中に走る衝撃に眉を顰める間もなく、覆いかぶさってきた蓮の手が、理人のシャツのボタンを強引に引きちぎった。 パチン、と乾いた音を立ててボタンが弾け、露わになった胸元に冷たい空気が触れる。
「な、何すんだよっ! やめろっ!」
必死に身を捩り、逃れようともがく。だが、テニスで鍛えたはずの脚力も、蓮の冷徹な力の前では無力に床に縫い付けられるだけだった。
「随分と鍛えてるんだな。これじゃあ、榎本たちが一撃でやられるわけだ」
理人の抵抗など、羽虫の羽ばたきほどにも感じていないのだろう。蓮は、理人の腹筋の起伏をなぞるように、ゆっくりと、執拗に指先を滑らせてきた。
「……触るな、変態野郎!」
「変態? フッ、まぁいい。これからたっぷり『可愛がって』やるよ」
「ふ、ふざけるな! 何を言って……」
「こんな状況になっても、まだ理解できないのか? アンタは今から俺に凌辱される。――犯される、と言った方がわかりやすいか?」
「――な……っ!?」
あまりにも衝撃的で、非現実的な宣告。理人は絶句した。 頭がおかしいのか、それとも悪質な冗談なのか。だが、レンズ越しに覗く漆黒の瞳は、狂気に満ちた本気の色を宿している。これは、悪夢ではなく現実だ。
「理解できたか? 今から、アンタが感じたこともないような快楽を与えて、骨の髄まで分からせてやるよ」
銀色のフレームが冷たく光り、妖艶な毒を含んだ声が耳元を掠める。 逃げ場のない密室で、理人の背筋に、かつてないほど濃密な戦慄が走り抜けた――。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!