テラーノベル
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ある男が、リサイクルショップでアンティークの大きな姿見(全身鏡)を買いました。
年季の入った美しい木枠の鏡で、男はそれを自分の寝室の壁に立てかけて飾ることにしました。
その日の夜。男がベッドに入り、うとうとと眠りにつこうとした時です。
暗闇の中、どこからか 「コッ……コッ……」 と、硬いものを叩くような小さな音が聞こえてきました。
目を開けると、音は壁の姿見から聞こえています。
気になって暗闇の中でじっと鏡を見つめていると、月光に照らされた鏡面に、部屋の中の景色が映っていました。
ですが、何かがおかしいのです。
ベッドに横たわる男の影。その横の床に、知らない女が四つん這いでしゃがみ込んでいる姿が鏡の中にだけ映っていました。
男は息を呑み、恐怖で全身の血が引いていくのを感じました。
ゆっくりと自分の部屋の床を見やりますが、誰もいません。何もいません。
「鏡の錯覚だ……見間違いだ……」
そう自分に言い聞かせ、震える体で再び鏡を見ました。
すると、鏡の中の女が、ゆっくりと顔を上げました。
そして、鏡の内側からガラス面を指関節で叩いていたのです。
「コッ……コッ……」
女はニヤリと歪んだ笑みを浮かべると、鏡の中の男のベッドに向かって、じりじりと這い寄り始めました。
男は恐怖の限界に達し、跳ね起きると部屋の明かりをつけました。
パッと明るくなった部屋には、自分一人しかいません。鏡を見ても、もう女の姿はなく、ただ自分自身の青ざめた顔が映っているだけでした。
「助かった……夢か何かだったんだ」
男は心底ほっとして、胸をなでおろしました。
その時、男の耳元で、カサリと音がしました。
冷たい吐息と共に、女の低い囁き声が聞こえたのです。
「ねえ……こっちの部屋、明るくていいわね」
男は、自分自身が「鏡の中の世界」に閉じ込められてしまったことに、その時初めて気づいたのです。
本当の自分は、すでに鏡の外で、女にベッドの上から見下ろされていました。
コメント
1件
第1話、読ませていただきました。最初はただのアンティークの鏡かと思いきや、時間が経つにつれてじわじわと迫ってくる恐怖の描写が素晴らしかったです。特に「鏡の中の女がガラス面を叩く」という細かな仕草に、あの独特の不気味さがぎゅっと詰まっていて、読んでいるこちらも息を呑みました。そして最後の“鏡の中に閉じ込められた”という一文で全ての景色が反転する感覚——めちゃくちゃ鮮やかで、背筋がひんやりしました。続きがすごく気になります。