最近、ぐち逸の様子がおかしい。
帰りは遅くなったし、朝早くに出ていくし。なんか痩せたし顔もやつれてる。この前ふとぐち逸の腰を掴んでみたら思ったより細くてびっくりした。しかも一瞬怯えたような表情をして拒絶された。仕事してるときは普通だし気にしすぎかなと思ったけど、やっぱりなんかおかしい。
そして気づいた。ぐち逸がご飯を食べなくなっている。みんなで食べようってときも何かと理由をつけてその場を離れるし、食べ物を渡そうとしても受け取らない。きっと俺が見ていないところでもまともに食べていないのだろう、見るからに痩せていってる。
このままじゃいつ倒れてもおかしくない。ぐち逸はうちの大切な個人医だ。使い物にならなくなっては困る。それに、仲間としても心配。
よし、なんで食べないのか聞いてみよう。
「それで、話ってなんですか」
俺はぐち逸を家に呼び出した。買ったはいいもののほぼ使っていなく、868のメンツもあまり来ない家。ここなら込み入った話もできる。
「まあまあ、座って」
とりあえずぐち逸をソファに座らせ、水が入ったコップを2つ机に置く。
「単刀直入に聞くんだけどさ、お前最近まともに食事してないでしょ。なんで?」
「…気分ではないだけです」
ぐち逸はぴくっと反応し、いつもの冷静な顔で返す。
「気分、ねぇ。ちゃんと食べなかったらいずれぶっ倒れる。医者なら分かってるでしょ?なんとも思わないの?」
「全く食べないというわけではありませんし、水もちゃんと飲んでいます。そんな簡単に倒れはしません」
「でも明らかに痩せてってるし顔もやつれてる。全然大丈夫そうに見えないけど?」
「ご心配なく。問題ありません。話はそれだけですか?」
ぐち逸は早々に話を切りあげて立ち上がろうとする。
「ちょちょ、まあ落ち着け。座れって」
ぐち逸の腕を掴んでソファに再び座らせる。
ぐち逸はすごく不満そうな顔をした。
「俺はさぁ、心配なんだよぐち逸。最近のお前は明らかに様子がおかしい」
「だからご心配なくと言っているじゃないですか。レダーさんに話すことは何もありません」
その物言いにイラッときた。
「なんでそんな言い方すんのさ。これでも俺ぐち逸に悩み事があるんなら解決してあげようと思ってるんだよ」
「要らぬお気遣いありがとうございます。ですが本当に結構ですので」
今度こそ立ち去ろうとぐち逸が立ち上がる。
こんなに手を差し伸べているのに一向に手を取ろうとしないぐち逸にムカついて、いつものお仕置のようにくすぐって無理やり聞き出そうと思った。ただ、いつもは立ったままなかば抱きしめる形でくすぐっているのに対して、今日は絶対逃がさないからなという意思を込めて、ソファに押し倒した。くすぐって笑わせれば言い出しやすくなるだろうと思った。
しかし、ヒュッという呼吸音を皮切りにぐち逸が異様に怯えだした。
「…ゃ、ゃだ、やめ、やめてくださ、ぃ」
身体をガタガタ震わせ、呼吸も不規則になってる。
「ぐち逸?、どうしたの、ぐち逸!?」
何かに怯え暴れだしたぐち逸。目にはいっぱい涙を溜め、俺ではない光景を見つめて怯えてる。やがて大声を出して抵抗しだした。なんとか押さえ込みながら抱きしめる。
なんだかよく分からないが怖がらせてしまったみたいだ。
「ごめん、ぐち逸、怖かったね。落ち着いて、ほら深呼吸しよう。吸って〜、吐いて〜」
涙混じりに大声を出し続けるぐち逸を抱きしめながら、ぽんぽんと一定のリズムで背中を叩く。大丈夫やら吸って吐いてやら声をかけ続けていると、ようやく大人しくなった。
「…大丈夫?落ち着いた?」
「……はい、…その、すみません。取り乱してしまって」
「いいけどさ。ほんとにどうしちゃったの?」
「………なんでも、ありません」
なんでもないわけないだろう。とは言えなかった。ぐち逸があんまりに言いづらそうに、苦しそうに顔をゆがめるから。
「…そう。じゃあこの話は終わり。仕事行こっか」
「はい」
なんでもないわけない。
今夜、ぐち逸のあとをつけてみよう。