俺はシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)と共にお茶の間まで歩いた。
シオリは息をするように俺の手をギュッと握っていた。
俺はお前の体の一部じゃないのだが。
まあ、別に不快だとは思っていない。
けど、少し照れくさい。
「おい、吸血鬼。俺のだけ肉が少ないぞ」
「気のせいよ。みーんな、あんたと同じくらいの量よ。あたしが取り分けたんだから間違いないわ」
どうやらシャドウはミノリ(吸血鬼)が意図的に肉の量を少なくしたと思い込んでいるらしい。
「なんだ? 何か文句があるのか?」
「ああ! あるとも! こいつ、俺のだけ肉を少なめにしやがったんだ! 俺が気に入らないからやったに違いねえ!!」
「なんであたしがそんなことしないといけないのよ。あたしはそんな嫌がらせしたりしないわよ。ねえ? ナオト」
うーん、まあ、嫌がらせはされたことないな。
弄《いじ》られたり弄《もてあそ》ばれたことはあるけど。
「まあ、そうだな。ミノリの場合、嫌なやつには真正面からぶつかっていくからな」
「そうそう。まあ、どっかの銀髪天使がいちいちあたしを煽《あお》ってこなければ、そんなことにはならないんだけどねー」
コユリ(本物の天使)は真顔でこんなことを言う。
「それはあなたの知能レベルが低すぎるからです」
「な、なんですってー!?」
「今のは嫌味ではありません。事実です」
「あんたって意外と思い切りいいわよね」
「そうですか? 私はただ、自分がバカだということに気づけないほどのバカに何を言っても許されると思っているだけです」
こ、こいつ……!
「あんたって、本当にムカつくことしか言えないのね。なんでそんなにあたしに対して反抗的なの?」
「さぁ? どうしてでしょうね」
「おい! 俺を無視するな! クソ吸血鬼!」
「ねえ、ナオト。こいつ、今すぐ殺してもいい?」
はぁ……どうしていつもいつもこうなるんだ?
「ダメだ。躾《しつ》けるのはいいが殺すとそれすらもできなくなる。だから、ダメだ」
「あ、あんたがそう言うのなら、あたしはそれに従うわ」
「ありがとう、ミノリ。我慢できて偉いぞー」
俺がミノリ(吸血鬼)の頭を撫でると彼女の頬が少し赤くなった。
「こ、子ども扱いしないで。でも、褒めるなって言いたいわけじゃないの。あー、えーっと、つまり」
「褒められるのは嬉しい。けど、子ども扱いされるのは嫌《いや》ってことだろ?」
「え、ええ、そうよ」
「おい、なんで俺を無視してイチャついてるんだ? さっさとなんとかしてくれよ!」
「シャドウ。俺はお前が今までどんな風に生きてきたのか全《まった》く知らない。だから、お前の今までのことを否定したりバカにしたりしないし、する気もない。けど、ここは俺の……俺たちの家だ。この家にいたいのなら俺たちの家のルールに従ってもらう。それに従えないというのなら、俺はお前をここから追い出さないといけなくなる」
「お、おう」
「よし、じゃあ、一度みんなのお皿を回収しよう」
な、なんだ、こいつ……。
こいつの言葉には重みがある。重すぎる。
逆《さか》らいたくても逆らえない。