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⚠️光が死んだ夏・ヒカル×よしき・心理的調教・口調、性格違う(多分)
第三部 ― 孤立・選択の剥奪 ―
放課後の校舎。
人気のない廊下を二人で歩くと、足音がやけに響く。
夕暮れの光が差し込み、長く伸びる影は二人の間に緊張を生んでいた。
「よしき、昨日も俺の言うことに従ってたな」
ヒカルの声は淡々としているが、鋭さが潜んでいた。
よしきは肩をすくめ、何も言えない。
反論する気持ちはあるのに、声に出せない自分を自覚していた。
「……べ、別に……」
かすれた声が廊下に吸い込まれる。
ヒカルはその反応を見逃さず、にやりと笑った。
「まだ抗ってるふりをしてるんだろ? でも無駄だ」
そう言われると、胸がぎゅっと締め付けられる。
否定したいのに、どこかで納得してしまう自分がいる。
教室に入ると、ヒカルは机に肘をつき、よしきを見下ろした。
「なあ、よしき。おまえ、選択肢があると思ってるか?」
「え……?」
問いかけに、一瞬言葉を失う。
「おまえの意思で動けると思ってるかもしれないけど、
すでに俺が決めてるんだよ。
おまえがどうするかなんて、最初から決まってる」
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
抗う気持ちと、諦める気持ちが同居する。
言葉にできないまま、ただ視線をそらせない。
ヒカルはゆっくり立ち上がり、よしきの肩に手を置く。
その力は強くない。だが、逃げられない重さがある。
「おまえ、わかってるんだろ? もう選べないってことを」
よしきの心臓が跳ねる。
恐怖と、妙な安心が入り混じり、胸がざわつく。
「……いや……でも……」
小さく抗う声が出るが、喉の奥で途切れた。
「その程度で抗ったつもりか?」
ヒカルは低く笑う。
「選択肢はない。おまえは俺の言葉に従うしかないんだ」
よしきは自分の意思が無力であることを痛感する。
今までの自分の反抗心は、ヒカルの前ではただの幻に過ぎなかった。
心の奥で、諦めと安堵が静かに広がる。
「……もう……抗えないのか……」
吐き出した言葉に、ヒカルは満足そうに頷く。
「そうだ。抵抗するのも無駄だと認めることが、まず最初の一歩だ」
机に肘をつき、よしきを見下ろすヒカルの視線は逃げ場を与えない。
「おまえ、俺の言葉で動くのが自然になってきたな」
よしきの胸は高鳴り、頭の中は混乱する。
悔しさ、恥ずかしさ、でもどこか心地よい安堵。
自分でも理解できない感情が溢れ、目の前のヒカルに絡め取られるようだ。
「……なんで、こんな……」
つぶやいた言葉は小さくても、ヒカルは逃さない。
「それでいいんだよ。
おまえはもう、俺の言葉で動くのが当たり前になってる」
その瞬間、よしきの中で何かが崩れる。
自分の選択権はすでに消え、抗う力も、反発心も、意味を失った。
「……はい……」
小さな声で返す。
その声が、自分から従う意思を示していると知り、胸の奥で妙な安堵感が広がる。
ヒカルは微笑み、肩を軽く叩いた。
「いい子だ。ようやく自覚したな」
夕暮れの教室で、二人だけの空気が落ち着きを取り戻す。
よしきはまだ恐怖を感じる部分もある。
けれど、それ以上に――
逃げられないことを認めた瞬間に得られる、不思議な安心感が心を満たしていた。
――俺はもう、自由を選べない。
でも、それでいいのかもしれない。
ヒカルの言葉に縛られ、従うことが、なぜか救いにすら思えるのだから。