お・だ・さ・く。
そう呼んでみると心地良い。
「なんだ。」
友人は尋ねる。私は笑ったままだった。
お・だ・さ・く。
心が晴れていくようだ。
「ずっと俺の名ばかり呼んでねえで、ちいと久しく酒でも買わそう。飢えて飢えて仕方ねえ」
「ああ、いいよ。でも、今は素面でいたい気分なんだ」
「おっと、お前がか?」
「ああ、そうだよ。だけれど、変な話だね。酒が泥水に見えるんだ」
「そりゃあ、まあなあ」
織田作はニコリと笑って、ごくりとその泥を飲み込んだ。
「あ、こりゃあまずい。喉が焼ける」
「なにをしてるんだ、織田作は」
「すっとぼけてしまおうか」
「僕はこの目でしかと見たね」
はははと、笑う。
ああ、裏切り者だ。裏切り者。私はユダだ。
お・だ・さ・く。
きっと誰も気づいてなんかいない。
聞いて、聞いてよ、織田作。
「私、天使に会ったんだ」
「夢の中でか?」
「ううん、本当に会ったんだ。綺麗な子だった。白くて清くて、まるで絹そのものだ」
「絹は虫が作ったものだ。天使様は虫なんて好まねえ」
「……じゃあ、僕が、私が見た天使はなんだったのだろう」
「幻覚さ」
「でも本当に、キラキラしている子だったよ……会いたくて仕方ない。」
うそうそうそうそうそうそうそ。ぜんぶうそばっかり。
「名前は教えてもらったか?」
「 」
でも、今、天使みたいな君に会いたいのは、本当なんだよ。……たぶんね。
でも、でも。天使って誰だろう。ユダなんて裏切り者に、天使なんて見えるものか。
ねえ、ねえ聞いて。見て。読んで。どうか、この物語に終止符を打って。
そこの君に言っているんだよ。こっちを見て。
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