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あれ?

ここ何処だ?


店の外に出た冨樫は、何故か霧の中に立っていた。


振り返ってみても、あの駄菓子屋はない。


ちょうどあやかし駄菓子屋が人間世界から消える瞬間に外に出てしまったせいで、違う場所に迷い込んでしまったのだろうか?


そんなことを思いながら、冨樫は濃い霧の中をそろそろと歩く。


霧でよく見えないが、怪しい山の中かなにかだろうか、と思っていたのだが、そこは、いつものビル街のようだった。


足元がアスファルトなのはわかる。


いつもと同じようで、ちょっと違う。


人の世界と微妙にズレた場所に出てしまったのかもしれない。


参ったな。

どうしたら?


ああ、でも、社長たちも外にいるから、この空間に迷い込んでいるかもしれないな。


そう冨樫が思ったとき、少し先に人影のようなものが見えた。


――誰かいる?


社長?

それか、風花?


あやかしじゃないといいが、と警戒する冨樫の頭の中では、声をかけた瞬間、振り向いたのは、ぬらりひょんだった。


やっぱり、黙ってついていってみようか。


ここに一人は嫌だけど。


声かけた結果として、一人でいる方がマシだったって可能性、あるもんな、と思ったとき、少し近づいてしまったその人影の服装が見えた。


黄緑色のチェックのネルシャツに濃いグレーの防寒ベスト。


「……お父さん?」


前を行く人影は、ビラに描かれていた父の姿そっくりだった。


冨樫は思わず足を早め、前を歩く男の肩をつかむ。


「お父さん!」


「わああああっ」

と若い男の声がした。


叫びながら振り向いた男の顔が父とは全然違っていたので、冨樫も、わああああっと叫び返す。


この濃い霧の中に、あやかしたちが潜んでいたら。


人間、なにやってんだ、と思っていたことだろう――。




「なんで父と同じ服を着ているんですか」


男の肩を強くつかんで、冨樫は言った。


「えっ?」

「あなた、何者なんですか?」


やり手の秘書、冨樫がまるで壱花の失敗を問いただすときのように強く訊いたせいか。


クラスにひとりはいそうな顔をしたその男は逃げ腰になりながら白状する。


「ぎ、銀行強盗ですっ」


はっ、言ってしまったっ、という顔を男はし、冨樫は、


何故、素直に答える……という顔をした。


「銀行強盗?」


冨樫がいぶかしげに訊き返すと、


「あっ。

でもまあ……、未遂なんですが」

と男は未遂なことをちょっと恥ずかしそうに言う。


いやいや。

この世には失敗した方がいいこともあるんだが……と思う冨樫の前で、男は、はあ、と溜息をついた。


「ほんとうに俺、ついてないんですよ。

予言通り強盗は失敗するし」


予言? と冨樫は訊き返したが、男はそのまま語り続ける。


「いきなりこんな場所に迷い込むし。

うっかり銀行強盗だとか白状しちゃうし。


いや、あなたが『なんで父と同じ服を着ているんですか』とか訊くからですよ~。


ああ、この人、あの人の息子なのか、とか思っちゃって。

ちょっと油断しちゃったじゃないですか」


男は晴れない霧の中。

近距離だから見える冨樫の顔を見つめて言う。


「そういえば、顔つき違うけど、似てますね。

まあ、あの人の方が温厚そうだったけど。


俺、たぶん、あんたのお父さんにこの服もらったんですよ」


……あの人、一体、なにしてんだ、と冨樫は思う。


やはり生きてはいるようなのだが。


もはや、人間とも思われず。

たぶん、本人は人の世界へ帰りたいとも思っていない。


だから、高尾に顔をやり、この男に服をやったのだろう。


なにもかも、人にくれてやるな、と冨樫は舌打ちをする。


そのせいで、今以上に、父が『人』から遠ざかっていく気がしたし。


自分達への未練のなさを見せつけられている気がしたからだ。


「……そうだ。

聞いてくださいよ。


あんた、あの人の息子なんでしょ?」


なんで、お父さんの息子なら、銀行強盗の話を聞かねばならんのだ、と思ったが、男は冨樫の返事も待たずに語り出す。


「そもそもさ。

俺、本気で強盗なんてする気、なかったんですよね~」









あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

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