テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「新沼……課長?」
そんな気配に当てられたみたいに瑠璃香が思わずつぶやいたら、
「俺は先に戻る」
とか……いきなり何故突き放されるんだろう?
瑠璃香がオロオロと晴永を見上げると、晴永は困ったみたいに眉根を寄せた。
「そんな顔するなよ。離れがたくなるだろ? ちょっとやるべきことを思い出しただけだ。しばらくの間そばを離れるけど……昼休憩が終わるまでには企画宣伝課に戻る。……お前は、昼休みが終わるまではここに避難してろ。――な?」
外に出れば、先ほどの件で何か言われかねないということだろう。
「でも……」
不安に思って出入り口の方へ視線をやれば、
「使用中にしてあるから心配はいらない。使用責任者は俺ってことになってるから……相当命知らずな奴でもない限り、入ってこない」
そこでふっと視線を緩めると、
「なんせ俺は鬼課長だからな?」
にやりと笑って、晴永がドアノブに手を掛ける。
「……安心しろ。昼休みが終われば、すべて片がついてる」
それだけ残して、晴永は会議室を出て行った。
***
瑠璃香を会議室へ残した晴永は、足早にコミュニティルームへ戻る。
扉を開けると同時、皆の視線が集まるのを感じた。
晴永はその注目をこれ幸いと、淡々と口を開く。
「休憩中にすまない。さっきの小笹との件だが――」
声は、あくまで業務用だ。
「俺が昼を抜いたり、簡単なもので済ませているのを、席が近い小笹が見兼ねて気にしてくれていただけだ」
言った瞬間、皆の視線が、〝どういうこと?〟と問いたげに自分を凝視してくる。
晴永は〝それでいい〟と思った。
「要するに……小笹は厚意で俺の分の弁当も自分のついでに作ってきてくれていただけってことだ。それ以上の意味はない」
言い切る。
小笹瑠璃香という女性が、飲み会の時のみならず、普段から周りに対する気遣いを忘れない人間だというのは、彼女を知る者なら皆知っていることだ。
何ら不自然な〝言い訳〟じゃない。
「業務に支障が出るって思うやつがいるなら断るが、ちゃんと材料費も渡してあるし、実際社食に行ったりコンビニに行ったりする手間も要らなくなった分、時間にゆとりも出来てめちゃくちゃ助かってる。俺としては問題ない範囲だと思っているが……それでも異論や質問があるってやつは俺に直接言いに来い。これ以上この件で小笹に負担はかけたくない。彼女への質問は一切禁止とする。――以上だ」
それだけ告げて、晴永は会話を切った。
「なんだぁ。そういうことかぁー」
誰かがぽつんとつぶやいたと同時、「だって小笹さんだもんねー。なんか納得」、「日下さんが騒ぐから何事かと思っちゃったぁ~」などという声が広がり始める。
それらを契機に、場の空気が確実に変わったのが伝わってくる。
熱を帯びていたものが、理屈で冷まされていくのがひしひしと感じられて、晴永は内心でホッと吐息を落とした。
コメント
1件
課長かっこいい!
凪川 彩絵
#独占欲