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ふと、腰回りに温かさを感じて振り返ると、娘の花梨が、まだ頼りない両腕を広げてしがみついていた。そのボサボサの髪の毛と、寝起きの表情は、背中に埋まって判らなかったが、じんわりと伝わるちいさなぬくもりは嬉しかった。
槇村は聞いた。
「ん? どうした? 花梨?」
「マネテル…」
「マネ?」
槇村はようやく気が付いた。
まだ幼心ながら、老木に額を押し当てて考え事をしていた自分を、花梨は心配していたのだろう。
槇村は笑った。
花梨を抱き上げながら、寝ぼけ眼の娘の顔を見つめる。
ほんのり赤らんだ頬が、いっそう紅潮していく。
寝癖のついた髪が、槇村の鼻先をくすぐった。
石鹸の香りは、妻のあすかと同じ匂いがした。
それは家族の匂いだった。
くるくる回りながら、槇村は言った。
「心配してくれたのかな?」
花梨はキャッキャと笑いながら、歓声をあげた。
親子でメリーゴーランドを楽しむさ中、槇村は己に問うた。
「選挙に打って出る意味は? 議員がいないから? いや、独裁政治と批判されるのが怖いからではないのか? しかし、民主主義国家としてこのままではいけない。だが、もしその最中に敵が攻撃してきたらどうする ?自分は…どうしたい? 愛する家族をどうしたいんだ…権力にしがみつく?言わせておけば良い! 私は家族を守りたい。それは国民を守りたい願いと変わらない! 今は敵を…見えない敵をあぶり出し壊滅させなければならないのだ。その為なら独裁者とレッテルを貼られようが構わない! それが私の使命だ…」
花梨を地面に下ろすと、ちいさな身体はコテンとひっくり返った。
槇村もわざと尻餅をついた。
家の2階の窓に人影が見える。
よく見ると、息子の隆太が笑いながらこちらを見ていた。
槇村と花梨は、両腕をうんと突き上げてピースサインを隆太に見せた。
陽射しが心地良い。
風もない朝の空は澄み切っている。
青葉の心は決まった。