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第3章 - 目覚めの時
王子の声が私の耳に届いたとき、何もかもが静止したように感じた。彼の言葉は、私の力にかすかな震えを引き起こし、塔の中に響くその静寂が、ますます不安を掻き立てる。
「ラプンツェル…」
その声は、もはや命令ではなく、ただのお願いのように聞こえた。彼がどれほど必死に、私に対して優しく呼びかけているのか、私にはそれが痛いほど伝わった。私の力はまだ彼を縛り続けているが、私はその束縛を一瞬だけ緩めてみる。彼が動けるようにしてやることで、何かが変わるかもしれないという気がした。
「どうして…」私はつぶやく。「どうして、あなたは私にこんなことを?」
王子は、顔を上げて私を見つめた。その目には依然として恐怖が浮かんでいるが、それでも諦めることなく、必死に私を見つめていた。彼の顔には、以前のような王子としての威厳はなかった。ただ、普通の男のように、ただの一人の人間のように、私に向かって懇願している。
「私は…あなたを助けたい。君が、何を恐れているのかを理解したい。」彼の声は静かで、温かさが感じられた。恐怖だけではなく、痛みも共にあった。彼が本当に私を理解しようとしているのか、それともただ自分の信じている「正義」に従っているだけなのか、私はその答えを出せずにいた。
私が本当に求めているものは何だろう?王子の言葉を聞いているうちに、そんな問いが胸の中で膨れ上がった。自由?力?それとも、単に孤独からの解放?外の世界を恐れ、塔の中で自分の力に酔いしれていた私は、実は最も大切なことを見失っていたのかもしれない。
「助けたい?」私は冷たく答える。「あなたは私を助けたくて、ここに来た。でも、私を助けることは、私を失わせることでもあるのよ。」
王子の表情が曇った。その目に浮かぶ悲しみを見て、私は心の中でさらに何かが揺れるのを感じる。私がここにいるのは、恐怖から逃げるためだと思っていた。でも、もしかすると、私が本当に恐れているのは、他人との関わりなのかもしれない。
彼が黙っていると、私の心はさらに混乱する。力を持つことで、他者からの期待や圧力が押し寄せる。それが私にとって、どれほどの重圧だったのかを、今、ようやく感じ始めていた。塔の中で、私は一人で全てを抱え込んで生きてきた。しかし、今、王子がここにいることで、その重さが少しだけ軽く感じられるのだ。
私は、彼に対して何もかもをさらけ出すわけにはいかない。まだ心の中で、彼に対してどこか冷徹な感情が残っている。しかし、王子の目を見つめるうちに、私は自分の中にある「壁」を少しずつ崩していくことに気づく。
「外の世界は、私を恐れている。」私はつぶやくように言った。「でも、それは、私が何か悪いことをしたからじゃない。ただ、私は…私自身の力を持っているだけだ。それが、みんなにとって恐ろしいものだと、私は知っている。」
王子は黙って聞いていたが、やがてゆっくりと答える。「君が持っている力は、恐ろしいものではない。君がどう使うかにかかっている。ただ、君がそれを恐れているなら、誰も君を恐れないだろう。」
その言葉が、私の中で何かを崩した。王子は、私の力を「恐ろしいもの」だと認識しているわけではない。ただ、それが「力」そのものであり、使い方次第だと感じているのだ。私の中の「力」とは、必ずしも悪ではない。むしろ、それをどう使うかによって、私は世界を変えることができるかもしれない。
その瞬間、私は一つの決断を下した。外の世界に出ること、王子と共に歩むこと、それは恐怖であり、同時に希望でもある。
「私が塔から出る時、あなたに任せることはない。」私は冷静に言った。「でも、私は一度だけ、あなたに試してみたいと思う。」
王子は何も言わずに、ただうなずいた。私は髪を少しだけ緩め、彼を解放する。しかし、すぐにその力を完全には解き放たなかった。私はまだ迷っている。王子が私の力をどう扱うのか、その答えを自分自身で探している最中だ。
王子が立ち上がり、少しずつ私に近づいてくる。その歩みは慎重だが、どこか確信を持ったものだった。私の心は、まだ完全には彼を受け入れていなかったが、少なくとも、今は彼と共に何かを始める準備が整っているような気がした。
「ラプンツェル、君が望む道を歩んでくれ。」王子が言った。その言葉には、確かな温かさが込められていた。「どんな選択をしても、僕は君のそばにいる。」
その言葉が、私の心に少しだけ安心をもたらす。しかし、それが本当に「救い」なのか、私にはまだわからない。ただ一つ言えることは、私は今、外の世界に一歩踏み出す決心をしたのだ。
塔の中で、私は自分の力を恐れ続けた。しかし、今、私はその力を受け入れ、使うことを決めた。王子と共に、そして自分自身と向き合いながら。