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あれから、渡辺はいっこうに目を覚まさない。
ずっと、目を覚まさないのだ。
ただ、静かに眠るだけ。
まるで、眠り姫のように長い眠りについてしまったようだ。
「翔太は、また辿り着いたんだ。だから、こうなった…」
重々しく、阿部が渡辺の寝顔を見ながら悔しそうに言う。
「女の能力は、”意識の遠隔操作”。これで、確定したね。」
深澤も、大烏に確認を取りながら静かに呟く。
「……翔太…」
宮舘は、渡辺の動かない手に触れて震える。
眠った渡辺の姿は、苦しんでいない。
辛そうな顔をしている訳でもない。
ただ、美しかった。
「…みんな、ごめん。1回、俺と翔太だけにして欲しい……」
宮舘は、7人にお願いをする。
苦しげな宮舘の姿を見て、7人は何も言わずに部屋を出ていく。
2人きりになった部屋は、静かに時が流れていた。
静かに寝息を立てる渡辺。
息はしている。
鼓動の音も聞こえている。
それなのに…
「翔太…どうして…」
声を聞くことはできないし、笑顔を見ることもできないのだ。
「…舘さん、大分切羽詰まってるね…」
部屋の外、7人は静かに話し合っていた。
「俺らに、できることはないのかな…」
ラウールが、悔しげに呟く。
「翔太は、何度でも思い出す気だったんだろうね。気絶しても、それを続けて俺らに伝えようとしたんだ。」
深澤が、渡辺の意図を読み取っていた。
「それに女も気づいて、翔太を眠らせた…」
「そしたら、誰も気付けないから。」
阿部と佐久間が頷き合う。
「…1回、状況を改めて整理してみない?」
「それで、何かわかることがあるかもやし…」
目黒と向井は、この状況を変えるための提案をする。
「俺らは、あの女に接触されてない。俺らで辿り着く必要がある。」
状況を確認するように、岩本が言う。
「改めてさ、女が”誰に”接触しようとしてたか確認しない?」
阿部は、考える内容を確定させる。
「女が接触しようとしたのは、俺、ふっか、それでめめ?」
阿部が確認するように目黒に問いかける。
だが、目黒は記憶をめぐりながら、
「…いや、こーじ。あの女は、こーじにぶつかろうとしてた。」
「!だからあの時腕引いたん?!」
目黒の発言に、ようやく向井はあの時の目黒の行動を理解する。
「しょっぴー、阿部ちゃん、ふっかさん、こーじくんの共通点…?」
ラウールは、頭を働かせて考える。
他のメンバーも、共通点について考えてみる。
「…俺らなら、その真相に辿り着く可能性があった…?」
しばらく悩んだあと、深澤がポツリと呟く。
「もしそうなら、俺らを翔太みたいにする必要がある。女の目的は、俺らが真相に辿り着かないようにすること。なら、真相に辿り着く可能性のある俺らに接触するはず。」
真剣な表情で、深澤はメンバーに話す。
それくらいしか、思いつかないのだ。
今は、とにかく思いついたことを言わないと進まない。
「え…!ちょ、待ってや!!たしかに、ふっかさんと阿部ちゃんならわかるで?でも、なんで俺としょっぴーもなん?!ラウは!?」
向井は、混乱していた。
阿部や深澤は、よく頭が回る。
真相に辿り着けるだろう。
だが、向井と渡辺は?
2人ほど、頭は回らない。
それに、特別な能力を持っているわけではない。
3,266
はれる.
夢花𓂃𓂂ꕤ*.゚
その上、ラウールは頭がいい。
真相にも辿り着けそうなはずなのに、なぜ女は接触しようとしなかったのだろう。
「…つまり、頭の善し悪しでは無いってことだね。もちろん、能力も関係ない。」
混乱している向井を見て、佐久間がはっきりと断言する。
「こーじは、1回恋愛泥棒に感情を奪われてる。」
目黒が、困惑する向井を落ち着かせながら、思い当たることを伝える。
「ふっか、阿部、翔太は、かなりの情報通。」
岩本は、他3人の共通点に気づく。
「恋愛泥棒は、女と関わってた。」
佐久間も、ゆっくり頭の中を整理していく。
「あの女、こーじに接触できなかった時に、舌打ちした。こーじにだけは接触しときたかったのかもしんない。」
目黒も、鮮明にあの時の記憶を思い出していく。
「こーじくんに万が一恋愛泥棒の女との接触の記憶が渡ってないかの確認?」
ラウールが、もしもの可能性をあげる。
「それ以外も、裏情報で察する可能性は高い…!」
チグハグだったピースかどんどん繋がっていく。
「あの女は、何を隠してるんだろ…?」
とにかく、女は何かを隠している。
なら、何を隠しているのだろうか。
「…颯馬くんに、聞いてみる。」
深澤は、スマホを手にする。
「颯馬さんに?」
阿部が驚いたように聞く。
「颯馬くんも、かなりの情報通だよ。何か知ってるかも…照。」
深澤と岩本は、そのまま部屋から出て行った。
『…もしもし。深澤くんから電話なんて珍しいね。何かあった?』
「颯馬くん。急にごめんね。ちょっと聞きたいことがあって。」
『うん。なんでもどうぞ。』
答えられる範囲ならなんでも答えると言ってくれる颯馬に感謝しながら、深澤は質問を始める。
「颯馬くんはさ、怪しい女に声かけられたりしてない?」
『怪しい女?声はかけられてないかな。でも、最近噂はよく聞くようになったね。』
「行動が目立つようになってきてるってこと?」
『そうだね。目撃情報が増えてきてる。』
「例えば?」
『例えば、か…それは…っておい!!』
「…?颯馬く…」
『そこは、俺が教えてあげるよ♪』
唐突に聞こえた声。
颯馬とは違う声。
その声を聞いた岩本は、少し口角を下げた。
「ま、真白さん…?」
その声に、深澤はひきつり笑いを浮かべる。
『久しぶりだね、ふっかくん!』
真白は意気揚々としながら深澤に話しかける。
『颯馬ばっかふっかくんに頼られるとかずるいじゃん?俺のことも頼っていいんだよ?』
『おい!真白!お前、見回りばどうしたんだよ!!』
どうやら、真白の乱入は颯馬も想定外のようで、焦っているのが電話越しに感じられた。
「…あ、あはは…その、真白さん?俺は颯馬くんと話してて…」
深澤は、隣にいる岩本が明らかに不機嫌になったのを感じて、なんとか真白をその場から離そうとする。
『え~?俺、ふっかくんと話したいのに~。』
だが、真白は全く颯馬のスマホから手を離さないようで……
『真白…!お前、ほんとに何考えてんだ!?』
颯馬も頑張って引き離そうとする。
『俺、その女のこと知ってるよ。』
だが、真白の一言で空気は変わる。
『ふっかくんと岩本くんは、何を知りたい?なんでも答えてあげるよ。』
真白の声のトーンは変わらない。
だが、そこにはなんでも答えられる自信があった。
「…じゃあ、女の能力について教えて欲しいんだけど…」
深澤は、真白のことを信用していないわけではない。
だが、隣の岩本が警戒しているのを察して、自分たちでも掴んだ情報の確認を行う。
本当に、真白が情報を掴んでいるのかどうかを確認するために。
『彼女の能力?さすがだね、俺の事試してる?』
真白は、岩本の存在を感じているのだろう。
少し苦笑しながら話し始める。
『能力は、意識干渉。正確には遠隔操作だね。彼女は接触することによって、ターゲットの意識と繋がる。』
「意識と繋がる…?」
『意識に繋がることで、彼女に関する情報を掴んだりしても、それを消せるようにするってこと。もしくは…意識操作。無駄に感情を”煽る”ことで、”欲望”を増幅させていく。』
「…!恋愛泥棒も…!?」
『なるほどな。恋愛泥棒は願いを叶えたい欲望に煽られて行動を起こしたのか。』
颯馬も、その情報を知らなかったのだろう。
『それ以外に、聞きたいことはある?』
3人が納得する様子に満足しながら、真白は深澤と岩本に問いかける。
「…今、メンバーの1人が女のせいで起きなくなった。どうすればいい?」
深澤は、意を決して渡辺の話をする。
岩本も、深澤の行動に反対しなかった。
『渡辺くんが昏睡状態…だから、俺に電話したのか。』
深澤の話を聞き、颯馬は深澤が電話をした理由を知る。
真白がどう答えるか、3人は静かに待つ。
しばらく時間が経ち、ようやく真白は口を開く。
『3人は、先週テレビでやってた”いばら姫”見たー?』
あまりにも、場違いすぎる回答に颯馬は真白を殴ろうかと思った。
岩本と深澤は、今すぐ電話を切ろうとした。
『ちょちょちょちょ!待って!颯馬ー、拳をしまってよー!あ、ふっかくん!?電話切らないでね!?』
どうやら、向こうでは本当に真白のことを颯馬が殴ろうとしているのだろう。
真白の焦り声が聞こえてくる。
『君たちへのヒントだって!ほら、いばら姫と渡辺くん!重なる部分あるでしょー?』
「……っ!」
真白の必死の弁解で、ようやく3人は落ち着く。
「いばら姫と、似てる…?」
深澤が、落ち着いた様子で真白に問いかける。
颯馬の拳も落ち着いたのだろう。
真白は少し息を切らしながら、やっとわかってくれた深澤に声を明るくする。
『そう!渡辺くんは呪いの力で眠らされたようなもんじゃん?だったら、どうやって起こすかはわかるよね?』
「……あ、ありがと、真白さん!」
真白がようやく電話を離そうとしたようで、部屋から出ていく前に、深澤は感謝を伝える。
『…はぁ…2人とも、真白がごめんね。後で強く言っとくよ。』
颯馬は、ため息をつきながら2人に謝る。
「うぅん。むしろいい情報が得られたよ。」
深澤は首を横に振りながら、笑顔で答える。
『…そっか。じゃあ、頑張ってね。』
颯馬は、そう言って電話を切る。
「…みんなに伝えに行こっか。」
「……そうだな。」
深澤と岩本はみんながいる部屋に戻ることにした。
「……いばら姫…翔太が…」
宮舘にも、先程までの話を伝えていた。
宮舘は、少し戸惑ったように渡辺を見る。
相変わらず、すやすやと眠っている渡辺。
本当に、起きるのだろうか?
「童話通り行くなら、王子様のキスってこと?」
佐久間が”いばら姫”の絵本をペラペラめくりながら呟く。
「王子様のキスってことは、誰がしょっぴーにキスするかってことやな。」
向井も佐久間の発言に頷く。
「誰がキスするか…」
ラウールが真剣な顔で呟く。
そして、宮舘除く7人は瞳を輝かせて…
“宮舘”を見る。
「……え…?」
しばらくして、ようやく宮舘は状況を察する。
そして、しばらく考えて…
「俺!?」
宮舘は目を見開きながら、大きな声をあげる。
驚く宮舘に阿部が近づき、宮舘の手を掴む。
そして、輝かせた瞳で…
「舘さんしかありえないんだよ。だって、翔太の王子様といったらどう考えても舘さんでしょ?翔太は舘さんにキスされることを望んでるんじゃない?舘さんは嫌じゃない?他のメンバーが舘さんの目の前で翔太にキスするなんてさ。翔太だってそれは嫌でしょ?それに、舘さんと翔太の関係性になってくるとキスなんて安いもんじゃ…いや、安くは無いね。でもお互いファーストキスって考えてみるんだったらそれこそ大事になってくるわけで…」
「ちょ、wあべちゃん?落ち着いて落ち着いて!w」
このままだと永遠に話し続けるだろう阿部を、佐久間は何とか止めに入る。
宮舘は、キョトンとした顔で周りを見渡す。
阿部だけではない。
佐久間も、ラウールも、岩本も、深澤も、目黒も、向井も…
みんなが期待の眼差しを向けている。
「……わかった。」
宮舘は、ついに覚悟を決める。
周りに期待の眼差しを受けながら、宮舘は眠る渡辺に向き直る。
美しい寝顔。
静かな寝息。
本当に、いばら姫のようだ。
「…翔太…迎えに来たよ。」
宮舘も、いばら姫を救う王子のような気分になってくる。
宮舘は静かに、渡辺の小さな唇に口付けた。
しばらくの間、唇を重ねたまま動かない。
ゆっくり、時が流れていく。
「……ん…」
「…っ!!」
そして、ゆっくりと渡辺の瞳が開かれる。
「…あれ…俺…?」
渡辺は宮舘に支えられながら、ゆっくり身体を起こす。
その様子に、7人は安心する。
戻ってきたんだな、と。
「……しょっぴー!!!!」
ついに、向井が耐えきれずに渡辺に抱きつく。
「うおっ…!!!」
向井の勢いに耐えきれずに、渡辺はベッドに逆戻り。
「翔太ー!」
佐久間もその勢いに乗って渡辺に飛びつく。
「お前ら、いてーって!」
渡辺は、2人の犬に潰されながらも、満更では無さそうだ。
「……翔太…」
「りょ、うた…ごめん、心配かけたよな。」
渡辺が、自分の目の前で眉を下げてる宮舘に気づく。
相当心配してくれていたことが、表情から読み取れる。
空気を読んで、向井と佐久間は渡辺から離れる。
「……翔太!」
宮舘は、渡辺に抱きついた。
「ん…!ちょ、りょーた…!重い…!」
いきなり、宮舘に体重をかけられてトゲを吐く渡辺。
宮舘は渡辺を離す気などなく、力強く抱きしめる。
渡辺も、そっと宮舘の背中に手を回す。
7人に温かい視線を向けられながら。
「…それで、翔太は思い出せたんだね。」
改めて、9人はカフェに移動して、渡辺から話を聞くことにした。
渡辺は、宮舘によって女の支配から逃れたようだ。
そのおかげで、全てを知った上でピンピンしている。
「あの女の目的、全部話すね。」
(渡辺視点)
あの女の目的は、”争い”を起こさせることだ。
それが、強い力を生むから。
女は、俺らとフードの男の戦いを見てた。
それで気づいたんだ。
争いこそが強い力を持つ。
フードの男は、大烏への執着で人間の限界を超えた。
深澤は、深澤の中にある感情で漆黒の龍を生み出した。
佐久間も阿部ちゃんも、能力の限界を超えた。
“感情”こそが、強い力を生む。
その感情を生むのが”争い”。
だから、俺らに争いを起こさせようとしてる。
あの時の再現をしようとしてる。
女は、俺らに争わせて生まれた力を横取りしようとしてんだ。
それで、女の願いを叶える。
それが、目的。
「かなり、危険なやつだね。」
渡辺の話を聞いて、8人は表情を歪める。
「最低、だな…」
目黒が、少しイラつきながら呟く。
「俺らに争わせようとするなんて…」
ラウールも苦虫を噛み潰したように言う。
「…あの女、これからも俺らのことを狙ってくるだろうね。」
深澤が、警戒した表情で周りを見る。
「…これからも、単体行動は控えようか。」
女にも気をつけるように、と、岩本が締める。
(渡辺視点)
「…ふぅ…」
息を吐いて、湯船に浸かる。
俺が寝てる間、風呂には入れてくれてたみたいだけど..,
ようやく安心して入れた気がする。
そのまま、バスローブに着替えて部屋に戻る。
…そういや、どうやって俺の事起こしたんだろ?
なんか能力でも使ったのか?
部屋のドアを開けたら、涼太がいた。
なにか言いたそうな顔して…
「…えっと、どうしたんだよ。そんな神妙な顔して…」
なんか、部屋の明かりが少し暗めなせいで少し、色っぽい気配がする。
「…翔太は、覚えてないの?」
涼太は、少し不安そうに瞳を揺らしてる。
覚えてない?何を?
「…俺の寝てる間、なにかした?」
思い当たることは、それしかないけど。
「……うん。ごめんね。」
涼太…なんでそんな申し訳なさそうにすんの?
わけも分からず謝られる。
「俺、翔太のファーストキスを…」
「……ぇ…?」
「……もらっちゃって……」
「……???」
「それが、翔太を起こす方法で……」
「………ッッッ!!!///」
嘘、だろ……!?///
俺の、ファーストキスを…
涼太が、奪った…!?///
「…ぁ……あ…///」
涼太が…!!
俺の唇に……!?///
涼太が、涼太が…!!
「翔太、そのほんとにごめんね!」
涼太は焦ったように謝る。
違う、そういうことじゃなくて…!
その……///
「…嬉しい…ボソッ」
小さく言ったのに、涼太は目を見開いた。
「翔太、ほんとに…?」
「……///」
何も言わずに、頷く。
普段なら否定してたと思う。
…でも、今は否定しなくていいと思う。
だって、涼太に奪われたわけじゃん。
「翔太…俺、翔太が…」
「…待って、涼太…!俺が、言う…」
涼太が言おうとした言葉を遮る。
俺が、言いたい。
「俺、涼太のことが好き。ずっと前から、お前が好きだ…」
いつの間にか、俺は涼太の腕の中にいた。
涼太の匂いがする。
俺の大好きな涼太の腕の中。
子供の頃から、俺の安心できる場所だった気がする。
「翔太、俺も…俺も好き。」
涼太の抱きしめる力が強くなる。
それが、心地いい。
そうだ…
「…?翔太…?ん…!」
俺は、涼太の唇に噛み付くようにキスをした。
奪われたぶん、返さねーと。
その勢いで、俺と涼太はベッドに流れ込む。
俺が下で、涼太が上。
お互いの吐息を感じる距離。
「……はは…なんか、そういう気分になるよな…?」
少し、怪しく笑ってみせる。
涼太の唇には、俺の歯型が薄くついてる。
それが、すんごいやらしいな。
「……そうだね…翔太も、色っぽいね。」
涼太も、怪しく笑う。
「…でも、今日はダメだよ。」
「……?」
涼太は、ふっと笑いながら俺から離れる。
「明日、翔太仕事あるでしょ?」
…お預け、か…
期待して損した。
でも、そういう気はあるってことだろ?
だったらいいや。
別の機会に、期待するか…
そのまま、涼太に優しく撫でなれながら眠りについた。
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