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大栄建設でマイホーム建設を依頼し、順調に二か月余りが過ぎた。
隔週土曜日に打ち合わせで、あらかじめ用意されているパターンの中で私たちの好みに合った黒色の家を選んで、家の形や間取りを大まかに決めた。
マイホームは、約四十坪の三階建てに決まった。
土地がそこそこある上に地代が不要であること、子供部屋に加えて本好きの私の為の大型収納――学生時代から一心不乱に集めたお宝のRB関連グッズも含まれている――も考えて、三階部分も作ることにしたのだ。
家が建ったらギター教室ができるように一階部分は光貴の音響ルームを作る。二階が生活空間のリビング・お風呂等があり、三階は寝室と子供部屋と余った廊下スペースに本棚空間を作る予定。
この本棚空間を思い付いたのは、他の人の家を見て閃いた。
なぜ私がこんな洒落た空間を思いついたのかというと、この大栄建設は他のお宅訪問をさせてくれるありがたいシステムがあるのだ。実際大栄建設が手掛けた家に、どんな風に住んでいるか見学できるようになっている。新藤さんが担当した物件のご自宅訪問をさせてもらったのだ。
その時、新藤さんに他の建設会社の悪評も聞いたりした。
垂水の北にあるニュータウンで大栄建設が建てた家を見学させてもらった際、別の大手ハウスメーカーが手掛けた建売住宅や、まだ築十年も満たない外装綺麗な注文住宅もそこに建っていた。
綺麗なクリーム色の家屋は、よく見るとうっすら外壁にヒビが入っていたり、様々内装の安い木材を使ったり、手抜き工事具合だったり、恐ろしい内部事情を教えてくれた。
大栄建設や新藤さんに出会えて、私たちは本当にラッキーだった。大栄建設の坪単価は、他社に比べるとリーズナブルな価格設定だ。同じ物件を他の安心できる国内メーカーに頼めば、もっと高額な値段になっていただろう。
大栄建設は広告費をかけずに口コミだけで勝負していること、顧客満足度を上げて彼らの紹介で新規を掴んでいること、他社にはない強みがあること、建設する自宅をある程度パターン化させることによって材料の用意に幅を持たせないこと――様々な企業努力の結果で低価格が実現できている。
今はこちらの希望を設計担当してくれる人に意向を伝え、図面のパターンを作ってもらい、それが出来上がるのを待っている所だ。
図面の仕上がりを待つ間に他の打ち合わせを進めていく。今日は台所の色を決める打ち合わせをすることになっていて、朝から大栄建設に向かった。
今日も新藤さんに会える。推しに会えるのはこの上ない幸せ。
ただしこれは浮気ではない。夫がいても好きなアイドルがいたら、それとは別に脳内乙女になるのは悪いことではない……と思う。
「おはようございます」
大栄建設に行くと、びしっとスーツを着こなした新藤さんが出迎えてくれる。眼福最高。そして推しの営業スマイルも最高。
台所の打ち合わせそっちのけで、今日も音楽話で盛り上がる。特に光貴と新藤さんは楽しそうに話している。この姿を見るのも好き。
私の旦那最高、そして推しの新藤さん最高、と脳内で堪能できる。正直打ち合わせに来ているというよりも、これを楽しみに来ている方が大きい。
台所の色はインスピレーションで決めた。茶色と白とアイボリーのどちらかを選んで欲しいと言われたが、私も光貴も即座に茶色を選んだ。そのため打ち合わせが押すことはないが、気が付くと時間が経っている。おかわりのお茶を持ってきてくれた他の営業から、新藤さんそろそろ終わりの時間です、と耳打ちするのが聞こえてお開きになるパターン。時計を見ると、正午を回っていた。
帰り際、休みが合えば光貴のライブを見に行くと約束してくれた。決して社交辞令ではない感じで、誘えば簡単に実現しそうな約束だ。
家造りは順調なので、このままでは早く打ち合わせが終了してしまいそうだ。新藤さんと楽しい時間が共有できなくなるのは、残念でならない。もっと打ち合わせに時間が掛かればいいのにと願うばかりだ。
大栄建設での打ち合わせの後、私たちはマイホームに利用する壁紙を見に行くことにした。
内装のイメージもまだ正直掴めてないのに、壁紙と言われても全然ピンとこないが、決めなくちゃ内装が進まないので、大阪梅田にある大きな壁紙のショールームへやってきた。
RBを車内で大音量で流しながら、高速を飛ばして梅田へやって来た。神戸と違って大阪は人が多い。車の数も多くて商業ビルの駐車場に止めるのにも一苦労する。
駐車場から暫く歩き、エレベーターに乗ってショールームまで行った。
中に入ると、髪が長くていい匂いのする受付の綺麗な女性が笑顔で迎えてくれた。私の方に書類を差し出してきたのでそれを受け取り、様々な個人情報を記入した。
それにしても思う。受付嬢は美人ばかりだ。
会社の顔だから当然なんだろうけれど、一体どこから連れてくるのだろうかと不思議で仕方ない。そして美人だけでなく、イケメンも配置しておいて欲しいと図々しいことを考えた。
書き終えた書類を受付に渡すと、交換で別の書類が収めてあるバインダーをもらった。ようやく中に入れる。ふう。
セキュリティで仕切られた入り口から一歩中に入ると、フロア全体に様々なものが置かれていた。敷地の広さも驚きなのだが、このショールームのフロアがセクション毎に分かれていた。壁紙コーナー、カーテンコーナー、ブラインドコーナー、マットコーナー…その数多し。
すごい。ショールームのスケールの大きさに圧倒された。どこから見ていいのかわからないくらい広い。物品がいろいろありすぎて目が回りそうになる。この無数の壁紙軍の中からマイホームに利用するものを選定するなんて……気が遠くなる。
でも、やるしかない。
手始めに受付付近にあるフロアマットのコーナーを見た。マットというよりフローリングの素材が並んでいる。実際の床がサンプルとして使われていて、ロール状になったサンプルが整頓されて無数と思われるほど多く並んでいる。
だめだ。全然家の完成イメージがわかない。どうやってモデルルームにあるようなお洒落な床を決められるのだろう。イメージより疑問ばかりが脳内に浮かんでくる。
どうやら私は、家造りに全く向いていないようだ。