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更に奥へ進むとカーテンやリールのコーナーになった。取り付けるカーテンの素材もある。二重カーテンにする用の一枚目の薄手レースカーテンから、学校の体育館でしか見たことのないような分厚いベロアのカーテンなど、それはもう様々な数と種類があった。
白いレースものだけでも、無数のデザインや素材がある。
ああ、目が回る。素材が多くあり過ぎて決めれない。
この中から自分の気に入ったカーテンを見つけられる気がしないよ。
大栄建設がお勧めしている防犯窓に合った全自動ブラインドカーテンを設置することにしよう。とてもじゃないけどふつうのカーテンは選べない。
手の空いている従業員を捕まえ、お勧めしてもらった白く厚そうな素材の壁紙の実際のサンプルを何枚かと、お手洗いの壁紙用にダークグレーのサンドペーパーみたいな壁紙と、黒っぽい壁紙のサンプルなんかをもらった。
サンプルは十枚までもらえるらしいので、お勧めの壁紙と自分たちで選んだもの、お手洗い用の壁紙併せてA4サイズのサンプル十枚をお土産に、ショールームを去った。
「なあ。寿司でも食いに行こか」
光貴はお寿司が大好物。梅田に来たらお初天神の方に安くて美味しい回転寿司店があるから、そこへ寄りたがる。今日もそのつもりなのだ。
このビルからお初天神までは結構な距離があるので、一旦駐車場から車を出して、近くの駐車場まで行くことになった。お初天神の方へ向かう。昼間の大阪の道路は交通量がとても多い。神戸とは大違いだ。
混んでるからのんびり愛車を走らせながら、白斗の歌を聴きながら自分も一緒に鼻歌を歌った。
『Desire 恋に堕ちた 二人逢ったこの瞬間(とき)
あなたは 運命のひと 指を絡めて 舐めて
Desire 堕ちていく あなたに奪われる――』
いいところで、急に歌が止まった。あれ、と思ったら車が停まってエンジンが切られたからだ。
「あぁ、もう、サビの一番いいところだったのに」
思わず光貴に文句を言った。
サビの途中ででエンジン切るなんて信じられない。サビ終わりまで聴かせてくれてもいいのに。
「いつも聴いてるやん。寿司食べて車に戻ってきたら、もういっぺん最初から聴いたらいいやん」
確かにいつも聴いているけど。
今、この瞬間の白斗を遮断しないで欲しかったけれど、車が駐車場に到着してエンジン切るのは当たり前の話だから反論できない。仕方なく車を降りた。
RBの代表曲『Desire -堕ちていく あなたに奪われる-』――さっきの歌が脳内で蘇った。彼の描いた歌詞を辿ってみる。
『あなたは 運命のひと』
前を急ぎ歩く光貴が、私の『運命のひと』なのかな?
『Desire 堕ちていく あなたに奪われる――』
白斗の歌が、脳内でリフレインする。RBの歌は、何千回・・・・いや、千回どころじゃない。何万回も聴いたのに、未だに飽きないから不思議。
白斗の歌が途中で切れてしまったので、続きは自分の頭の中で楽しむことにした。
歌みたいな恋愛には、ほんとうに憧れる。
一度でいいから誰かに奪われてみたい。
まあ、私には一生無縁の世界だけどね。光貴は相変わらずオクテでシャイだから手も繋いでくれない。そんな彼が私を奪うなんて無縁の話だね。
彼との暮らしは穏やで楽しい。マイホームが完成したらそのうち家族が増えて、一生添い遂げるのだろう。波風が立つこともない。
子供はひとりがいいな。私はレス希望だし。
光貴の背中を追いかけながら思った。
自分が既に全てを決められたレールの上を走る列車のような気がして、なんとなく窮屈だな、と。