その問いかけに、藤間さんはパッと表情を切り替えて、
「何がですか? 私は大丈夫です」
と、何事も無かったように言い放った。
「だ、大丈夫なら良かったです」
「とにかく、慶都さんは無理やり九条社長や一堂社長にお見合いをさせられて断れなかったんだと思います。お父様を誰よりも尊敬されている方ですから」
それは……慶都さんも散々悩んだと思う。
お父様を悲しませなくないという気持ちは痛いほどわかるから。
「私はとてもつらかったですが、麗華さんは天下のitidou化粧品のご令嬢ですから、私が身を引くつもりでした」
「そんな……藤間フーズさんは、誰もが知る立派な大企業さんですよ」
「やめて下さい、彩葉さん。私はちゃんと身分をわきまえています」
圧倒されるような藤間さんの目力に、思わず後ずさりした。
「あの、み、身分はそんなに大事でしょうか?」
「やはり大事でしょ? ご先祖さまから代々受け継がれ、今に至る藤間家、一堂家の地位。その道筋は、とても険く、一筋縄ではいかなかったでしょう。戦乱の時代もくぐり抜け、いくつもの困難に打ち勝って今に至っているんですよ。そんな時代背景や、いろんな環境が重なり合いできた道です。それを大切にしないとバチが当たります」
は、発想が壮大過ぎて着いていけない。
私と同じくらいの年齢で、こんなにもロマンチストな人、初めて出会ったかも知れない。
だけど、自分にはない感覚に新鮮さも感じた。
「す、素敵ですね。確かにそれは大切なことだと思います。でも、それが全てではないというか、今生きている私達の1人1人の個性や考え方……それも大切じゃないでしょうか?」
慶都さんも、身分なんて関係ないって言ってくれたから……
「そうですね。ですが、私はお父様が大切にしている藤間フーズを守りたいんです。慶都さんと結婚したら、九条グループはもちろんですが、藤間フーズのこともキチンと考えていただくつもりです」
えっ、慶都さんとの結婚を前提に話してるの?
「あの、藤間さん?」
「マリエで結構です」
「えっ、あ……はい。じゃあ、マリエさんで。あの、もしかしてマリエさんは慶都さんと結婚されるおつもりですか?」
「ええ。だから、慶都さんとは離れて下さい」
ちょっと頭が混乱してきた。
藤間フーズを守りたいという気持ちやご先祖さまを大切にする気持ちには頭が下がる。
itidou化粧品は、副社長をしてる父の弟が跡を継ぐから、初めから私には会社を守るとか、そんな考えはなかった。
そう思うと、マリエさんの決意は尊敬に値する。
でも、慶都さんとの結婚となると……
「ママ、大丈夫?」
呆然としてたせいか、心配して雪都が私に話しかけてきた。
「大丈夫よ。ごめんね、もう少しお姉さんとお話したいから、遊んでてね。あとで美味しいもの食べようね」
「うん。わかった」
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