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孫悟空 修羅道
紙を破った瞬間、暴風と共に熱風が俺の体を包んだ。
「ここは…、横店影視城(おうてんえいしじょう)か?」
*横店影視城とは、横店影視城は13の撮影拠点からなり、総面積は330ヘクタール、建築面積は49万5,995平方メートル。
その巨大な規模に加えて、横店影視城以下を含むいくつかの記録を持っている。
横店影視城の最大の建物の一つは、秦および漢といった初期の王朝様式で建てられた王宮である*
華やかしさとは打って変わり、あちこちに乾いた血の跡がいくつか付いている。
どうして、至る所から火が上がっているのに建物に燃え移らないのか。
隣いた筈の牛魔王がいねー。
あの野郎、どこ行きやがった。
「あんれぇ、アンタが新しい指揮官さんかね」
背後から声が聞こえ、振り返ると古臭い鎧を着た爺さん達が立っていた。
体は傷だらけで、持っている武器もボロボロだ。
何なんだ、この爺さん達は。
「やっぱり指揮官さんだべよ。アンタと似た兄ちゃんが言っておったからの」
「指揮官?俺が?」
「そうだべよ!!おい達の事を指揮してくれるだべな?」
「はぁ?何を言ってんだコイツ等」
爺さん達の話を聞いていても、全く理解が出来ない。
「ちょ、ちょっと退いて下さい!!すいません、すいませんっ!!」
後方から爺さん達の山を掻き分けて進んでくる人影が見えた。
人混みから出てきた人物を見て、俺は自分の目を疑ってしまった。
「お前、なんでここにいんだよ黒風!?」
「悟空さぁぁぁんっ!!お久しぶりですっ、ズビッ」
黒風が泣きながら俺に抱き付く。
「おいっ、離れろ!!」
ドカッ!!
「あいた!?」
思いっきり黒風の頭に拳を落とし離れさせる。
「痛たたたっ…。良かったァァ、悟空さんだ!!
殴られた部分を抑えながら、黒風は俺に笑い掛ける。
「どう言う事だよ、黒風!!お前は死んだんじゃねーのかよ!?」
「ううぅ…、死にましたよ。悟空さん、ここにいる人達は既に死んでます。死んで輪廻転生をして、僕達は修羅道に落とされたんです」
「この爺さん達も、元は生きていた人間だったのか。美猿王が言ったのか?と言うか、美猿王に気付かれなかったのかよ」
「僕、影が薄いので…。美猿王様は長くいませんでしたから」
小桃と百花を落とした時のついでか。
「そんで?俺が指揮官ってどう言う事だよ」
「美猿王様、牛魔王様を左軍(さぐん)の方に行かせたんだと思います。恐らく…、修羅道で戦を起こさせる気です」
「はぁ!?戦って…。ここに落ちた奴等が、勝手にやってんじゃねーのかよ?!」
「そうじゃあ、俺達は右軍(うぐん)と呼ばれる部隊になんじゃよ。ずーっと長い間、左軍と戦争をしとるんじゃ」
俺と黒風の間に爺さんが割って入る。
「おい、悟空。チンタラしてる暇はねーぞ」
美猿王の声のした方に視線を向けると、一羽の鴉がいた。
「これは俺の式神の一つだ。式神を通して、お前と話してる。爺さん共から大体の話は聞いただろ?つまり、お前と牛魔王には戦をしてもらう」
ドォォォーン!!
美猿王がそう言うと、俺達の目の前に巨大な時計が現れる。
六時を指す短い針が右に回り出し、長い針が勢いよく回り出す。
「短い針が十二時を指すまでに決着を付けろよ?じゃないと、帰れねーからなぁ」
「随分と用意周到じゃねーかよ」
「阿修羅(アシュラ)の機嫌は損なわない方が身の為だぜ?そんじゃーな、面白い戦を見せてくれよ?」
ボンッ!!
爆発音を上げながら、式神の鴉は姿を消した。
「あの糞野郎!!完全に遊んでやがる!!」
「あわわわっ!!落ち着いて下さい、悟空さん!!」
黒風が慌てて俺の事を宥めようとする。
俺がここにいられんのは、あと六時間だけなんだよな。
しかし、俺がこの右軍の大将って事だろ?
ザッと人数を数えると、右軍は二百人ちょいしかいない。
それも、ヨボヨボのジジイか負傷した男共だ。
「黒風、右軍はこれで全員だよな」
「は、はい。左軍は一万人はいます」
「一万か…、お前等よく生きて来られたな。倍の人数じゃねーか」
黒風の言葉を聞いて、ますます右軍の生存理由が分からない。
「あぁ、それは”お嬢ちゃん”のお陰じゃよ」
「”お嬢ちゃん”?」
「おーい、お面のお嬢ちゃん!!ちと来てくれんかのぉ!!」
爺さんが後方に向かって叫ぶと、不気味なお面を着けたベージュ色の腰まで長い髪の女が出てきた。
黒のライダースーツを着た女の腰には、二本の刀が下げられている。
身長百六十八くらいだろう。
「何?おじさん」
「すまんのう、お嬢ちゃん。指揮官様が来たからのう、お嬢ちゃんに紹介したかったんじゃ」
「へぇ、アンタが?うちの右軍を指揮すんの?次の戦が始まるまで、あと十五分もないなわよ?どうすんの」
爺さんの言葉を聞き、女が俺の方に顔を向けた。
女の代わりに爺さんが口を開く。
「ほとんどの敵をお嬢ちゃんが、倒してくれてるんじゃが…。わし等はお嬢ちゃんのお荷物にならないように、宝を守っとるんじゃ」
「宝?」
「あぁ、ここでの宝は水の入った壺じゃ。なにせ、この世界の水は貴重じゃからの。じゃが…、急に宝が増えたんじゃよ」
「増えた?どう言う事だ」
そう口にした瞬間、俺は嫌な予感がした。
「宝があるのはこっちよ。見たいなら案内してあげる」
「…、案内してくれ」
俺はお面の女の後を追うように歩き出す。
ついでに黒風もが付いてくるように歩き出した。
カツカツカツ…。
静かな街にヒールの鳴る音が響く。
この女、歩いているだけなのに隙がねーな。
間合に入ったら斬られそうだ。
女の後を付いて行くと、目の前に馬鹿みたいに長い階段が現れる。
「悟空さんが来る前まで、3000人はいたんですけど…。左軍には化け物みたいな男がいて…。みんな、その男にやられちゃったんです」
「化け物?」
黒風の話を聞きながら、化け物の絵面を想像する。
まぁ、ここは修羅道だし化け物ぐらいいるだろ。
犬神みてぇな感じか。
「ここの中にあるわ、行きましょう」
女はそう言って、先陣を切って階段を登り出す。
岩で出来た長い階段を黙って登り、横店影視城 ・秦
王宮みたいな城の中に入った。
*横店影視城 ・秦王宮とは、店影視城という中国の映画村的な世界最大の映画撮影所に1997年に映画「始皇帝暗殺」のために建てられた「秦王宮」という広さ11万平方キロメートルのセット*
右軍と書かれた旗が至る所に飾られている。
ここは、右軍が守ってる城という訳か。
荒れ果てた街中からは想像できない程、城の中は綺麗だった。
「宝はここにあるわ」
そう言って、女は金色の蓮と天女が描かれた襖に手を掛ける。
ガラッ。
開けられた襖の先にいたのは、俺が想像していた人物がいた。
「やっぱり、俺側にお前が居たか”百花”」
***
同時刻
左軍の基地では左軍に所属する男達が、牛魔王の事を
取り囲んでいた。
悟空の前に現れた時計が、牛魔王の前にも現れている。
左軍の城も店影視城 ・秦王宮の作りに近く、右軍よりも豪華であった。
「お前が左軍の指揮官か?随分とヒョロッとした野郎が来たな」
身長二メートル越えの大男が、牛魔王の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
牛魔王は大男の腕を掴みグイッと、本来は曲がらない方向にに練り上げる。
骨の折れる音が左軍に所属する男達は、聞き逃さなかった。
「いだだだだだだっ!?」
「気に入らないのは勝手だが、六時間は俺のやり方に付き合ってもらう」
「へぇ、アンタ強いんだな」
そう言ったのは眼帯の男だった。
シルバーアッシュの長い髪を後ろで纏め、左目は黒い眼帯で隠されて、口や鼻、眉毛部分にはピアスが多く嵌められている。
この男だけは鎧を着ておらず、ラフな格好をしていた。
牛魔王は男を一眼で、左軍を仕切っていた男だと見抜く。
「お前等、兄ちゃんから離れなー?」
男の言葉を聞いた男達は、一斉に牛魔王から離れる。
「やっぱり、左軍のリーダーはアンタか」
「そうそう、血の気の多い奴等ばっかで悪いね?兄ちゃん。と言うかさ、六時間ってなに?」
「俺がここにいられる時間が六時間ってだけだ」
牛魔王の言葉を聞いた眼帯の男は、物珍しそうに牛魔王を見つめる。
「あぁ、訳あり?ってやつね。今、アンタがいるここは左軍だ。んで、右軍と毎日のよーに戦争してる。ここまでは理解出来てる?」
「右軍に悟空がいるって訳か」
「悟空?まぁ良いや。んで、俺達は宝である水を守る為に戦争してて、右軍の水を奪い取れれば勝ちって事。まぁ、この世界では水が貴重みてーだから」
「水を保管してる場所は?どこだ。それと、女を見なかったか」
牛魔王に尋ねられた眼帯の男は暫く考え、何か思い出した表情を浮かべる。
「女?あぁ、それなら…。水を保管してる場所にいるぜ?案内してやるよ」
眼帯の男が歩き出すと強面の男達も歩き出すが、牛魔王を周りを囲んでいる状態だった。
牛魔王は眼帯の男の背中を睨み付けながら、大人しく案内に従った。
「そう睨むなよ、兄ちゃん。背中に穴が空いちまうよ」
「アンタは口調は柔らかいが、俺への警戒心は消してねーんだな」
「そりゃそうだろ?訳の分からん男がいきなり来て、指揮官になる若造が来るって言われてよ。こちとら、自分の陣地に他人を入れるんだ。気に入らねーのは、当然だわな」
眼帯の男は、牛魔王の方に振り返らずに答える。
「まぁ、アンタはここに長居しないみてーだし。お遊びに付き合ってやんよ。俺等は時間が腐る程あるからな」
そう言って、眼帯の男はとある部屋の前で止まる。
「宝が隠されてんのは、王室の間か?」
「奥まった部屋の方が、右軍が突破してきても中々辿り着けねーだろ?」
眼帯の男は話しながら閉じられた襖を開け、中に入って行く。
赤い絨毯の上にいたのは、大きな鳥籠の中に入った小
桃と隣に水の入った壺が置かれていた。
牛魔王は鳥籠の中にいる小桃を見て、大きく舌打ちをする。
「チッ、よりによって悟空の女かよ。ふざけやがって」
「あ?お前の女じゃねーの?」
「なわけねーだろ、右軍の指揮を取る男の女だ。あっちにいるのが俺の…、いや知り合いの女がいる」
「ふーん、でもこの子も可愛いよ?」
そう言って、眼帯の男は小桃の顔を覗き込む。
「右軍にも同じような城があんのか」
「あるよ?ボロい城がね。それと向こう側の人間は、二百人ぐらいだったぜ。まぁ、俺がほとんど狩っちまったんだけど」
眼帯の男の話を聞いて、牛魔王はますます眼帯の男が只者ではないと悟る。
「あと七分ちょいで、戦が始まるけど。指揮官様の考えは?」
「お前と少し話しただけだか、ここの左軍のやり方は理解したつもりだ」
「へぇ?どうな風に理解したのか教えてよ」
眼帯の男は近くにあった椅子に腰を下ろす。
強面の男達もまた、黙って眼帯の男の後ろに移動する。
「左軍のリーダーは間違いなく、お前だ。ここの軍は戦略を立てずに好きに動くスタイルだろ」
「つまり?」
「最初から”俺の命令”を聞くつもりはないんだろ?なら、俺は俺の好きにやらせてもらうだけだ」
牛魔王の話を一通り聞いた眼帯の男は、小桃の方をジッと見つめた。
「俺の仲間達を貸してやるよ、それとここに残っててやる」
「どう言うつもりだ?眼帯男」
「深い理由はないさ?この子の男がどんななのか、見てやろうと思って」
「悟空の方が興味あるってか」
「テメェ、兄貴に舐めた口きいてんじゃ…」
口を出したオールバックの髪の男に向かって、眼帯の男は手を上げる。
オールバックの髪の男は、すぐに口を閉じる。
そう言った牛魔王の顔を見つめながら、眼帯の男は口を開く。
「ヤキモチか?」
「テメェ、冗談でも気色悪い事を言うなよ」
「冗談だってば、お前の言う通り。俺達は好きに暴れて、好きに殺しをする集団だ。今俺の後ろにいる野郎共は、俺の命令を忠実に聞く。コイツ等を貸してやるってだけだ」
眼帯の男を睨み付けながら牛魔王は数秒の間、口を閉じた。
暫く考えた後に、眼帯の男の提案を飲む事にした。
「ちゃんとした理由も答えておくと、俺は水を守りたいだけだ。安心しろよ、俺は大人しくしてるから」
「…、そうか。好きにしたら良い」
「そりゃどうも。お前等コイツの後ろについて動け、良いな」
眼帯の男の言葉を聞いた強面の男達は、黙って頭を縦に振る。
「時間がないんだろ?武器庫の案内をしてやれ、良いな」
「分かりやした」
オールバックの髪の男が返事をしながら、前に出てる。
「こっちだ、ついて来い。兄貴、席を外れます」
そう言って、オールバックの髪の男は眼帯の男に頭を下げる。
「気にせず行って来い。テメェ等も行け」
「「「分かりやした」」」
男達は続々と眼帯の男に頭を下げてから、牛魔王を武器庫に案内する為に部屋を出て行く。
部屋の中には小桃と眼帯の男の二人になり、眼帯の男が口を開いた。
「そんなに警戒しないで下さいよ、”お嬢”」
「え…っ?今、なんて言ったの…?」
眼帯の男のは小桃の前で腰を下ろしなから、眼帯を少しずらした。
男の目を見た小桃は驚きながら、言葉を漏らしたのだった。
***
孫悟空 修羅道
百花は悟空と目を合わさないまま問いに答える。
「…、小桃は牛魔王の方にいるわよ」
「そんな事だろーと思ったわ。美猿王が俺と牛魔王に奪い合いをさせてんだからな」
そう言って、巨大な鳥籠の中にいる百花を睨み付ける。
「ど、どう言う事ですか悟空さん!!」
「俺と牛魔王は、ここで殺し合いをすんだよ。小桃を助ける為に、美猿王の条件を飲んだんだそんで、ここに経文も落とされてんだよ」
「きょ、経文??!」
俺は黒風に端的に説明をしていると、お面を嵌めた女が会話に入ってきた。
「あと七分だけど、どうすんの?」
「陣形とか役割分担とかあんのか、お前等」
「ないな、なんせ向こう側からここに攻め込んでくんだ。役割とかないな」
少ない人数で守りに徹した方が良いって感じか。
今まで右軍の城が壊落してないのは、この女がいたからだ。
どう言う風に守りを固めるか…。
燃え途切れる事のない炎を見て、ある事を思い付いた。
「そうだ、ここに”アレ”はあんのか」
「”アレ”ですか?それなら…、あそこにあると思いますけど…?」
「あるだけ集めて、兵士達を階段前に呼べ。簡単な足止め方法かつ、上手くいけば左軍の人数を減らせる」
「悟空さんの言う通りにします!!僕、集めてきます!!」
そう言って、黒風は部屋を出て行った。
「それと、お面の女」
「お面って…、まぁ良い。何」
「弓兵を二十人程度で良い、適当に人を見繕え」
「集める前に、お前の考えを言え」
俺の作戦をザックリと、お面の女に説明をする。
「あははは!!そう言う事か。だが、そう簡単に上手く行くのか?子供が考えつくような…」
「今の左軍は右軍を舐め腐ってんだろ。天狗になってる奴等程、足元が掬いやすい」
「面白いね、アンタ。ガキの作戦が上手く行く事を願うよ」
そう言って、お面の女は部屋を出て行った。
「お前、牛鬼の匂いがして臭えな。だけど、ここにいるって事は捨てられたか」
「酷い言いようね…、その通りだけど」
「今、アイツはどうしてんだ」
「…、分からないわ。あの人はもう、変わってしまったもの」
俯く百花を見ながら、小桃の姿を重ねた。
今のアイツも、百花と同じ状況なんだよな。
牛魔王が百花の為に、ここに来たって事は…。
「お前の事が好きなんだな、牛魔王は」
「…え?」
「そうじゃねーと、こんな所に来ねーだろ。俺を殺したいのと別に」
俺は百花に背を向け、部屋を出て階段前に向かう。
「あ、悟空さん!!例のモノ、あるだけ集めました!!」
階段前に着くと、黒風の周りには例のモノが入った壺達が何個から並んでいた。
「指揮官さんや、作戦を聞いたんじゃが…。上手く行くんかのう」
「上手く行く為に弓兵を作らせたんだろ。それと、アレも使わないとな」
そう言って、爺さん達にアレを見せる。
「「「あああ!!そうじゃ!!アレが必要じゃ!!」」」
爺さん達は声を揃えて納得していたのを見ながら、時計に目線を向けた。
あと、一分ってところか。
「合図は黒風テメェがやれ」
「え、え!?ぼ、僕ですか!?ど、どうしてまた…」
「お前は影が薄いだろ。怪しい動きをしても、向こうは気付きにくいだろ」
「た、確かに?」
パァンッ!!
クルッと爺さん達とお面の女の方を向き、パンッと手を大きく叩く。
「時間がねーぞ、戦いが出来る奴は武器を持て!!それと、弓兵は作戦成功後は後ろに下がって、前衛の援護をしろ」
「「「「わ、分かりました!!!」」」」
俺の指示を聞いた爺さん達は、一斉に敬礼をする。
「お面の女、俺は左軍にある宝を取りに行く。お前はここを守れ」
「戦況次第だけど、私も行ってあげるわ」
「え、お面のお嬢ちゃんが前線に!?」
「こりゃあ、何年振りの事じゃ?まぁ、良い事じゃな!!」
お面の女の言葉を爺さん達は賛同している。
「良いのか」
「アンタの道末が気になったからね?」
俺の問いに答えながら、一つ目の刀を抜く。
「あの女はダメね」
「女?あぁ、百花の事か。どう言う意味だ?」
「それは自分の目で見た方が良いわね」
お面の女がそう言った瞬間、大きな太鼓の音が鳴り響く。
ドコドコドコトコドコドンッ!!
「ご、悟空さんっ!!始まりますよっ。い、戦がっ!!」
黒風が甲冑を着ながら、俺に向かって叫ぶ。
「あぁ、分かってる。爺さん達、頼むぞ」
「「「了解じゃ!!」」」
爺さん達は元気よく返事をし、作戦遂行の準備に入る。
俺は三蔵に持たされた”アレ”を使うタイミングを考えていた。
これは隠し球で置いときてーから、如意棒で行くか。
ポケットに忍ばせておいた如意棒を取り出し、適当な長さに伸ばす。
「便利な飛び道具ねぇ、それ」
「だろ?実用的だぜ?これ」
「へぇ、機会があったら使ってみたいわね」
「お前が修羅道から出てきたら、使わせてやんよ」
俺とお面の女が話していると、ガラの悪い男達がゾロゾロと現れ出した。
側には左軍と書かれており、一目見ただけで左軍の連中だと分かる。
「ひっ、ひぃ!?き、来ましたよっ、左軍の奴等が!!」
「見れば分からんだろ」
慌てる黒風の頭を小突き、左軍の連中に目を向ける。
「おうおう!!萎れたジジイ共だなぁ、相変わらず」
大男が前に出て、俺達を嘲笑いだす。
あの男を煽れば、階段に登ってくんだろうな。
牛魔王の姿が見えねーし、後ろの方にいんのか?
まぁ、良い。
どこからでも俺を殺しに来い。
「図体のデケー男が馬鹿みたいに騒いでんなぁ」
「あ!?テメェ、今なんつった!!俺様を馬鹿にしてんのか?!」
「な、何言ってるんですかっ、悟空さんっ?!」
黒風が真っ青な顔をしながら、あたふたしている。
ほらほら、食い付いてきた。
こう言う奴は簡単に引っ掛かるんだよ、面白いぐらいに。
「おめーに言ってんだよデカブツ。さっきからうるせんだよお前。騒いでると余計に弱く見えんぞ、お前」
「ああんっ!?上等じゃねーか!!行くぞ、おめーら!!」
「「おおおおおお!!」」
俺の煽りに乗った大男が兵士達を連れ、階段を登り出した。
ドドドドドドドドッ!!
まだ下段だ、まだだ。
男達が階段を半分登り切った時、俺は黒風に視線を向ける。
黒風は大きく息を吸い、一呼吸置いてから叫んだ。
「皆さんっ、お願いします!!」
「「「あいよ!!」」」
爺さん達は一斉に大男達に向かって、中身の入った壺を次々に投げ飛ばす。
ガッシャーンッ!!
バシャ、バシャッ!!
壺達は大男達に命中し、壺が割れ中身の液体が男達にかかる。
「ぶっ!?な、なんだこれ!?なんか、ネチャネチャすんだけど…」
「おい、これどっかで嗅いだ事のある匂いなんだけど…」
男達が足を止めて話しているが、大男だけは顔を真っ青にしていた。
「おい!!お前等、戻…っ、これは”油”だ!!」
「弓兵、お願いします!!」
大男と同時に黒風が叫ぶと、指兵は一斉に炎が灯った火を男達に放った。